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AI により本当に税理士の仕事はなくなるか?将来性やスキルについても解説!

HUPRO 編集部
AI により本当に税理士の仕事はなくなるか?について考察してみた!

AIはこれからさらに進化するとされており、税理士が担当する部分が少なくなり、将来的には税理士の仕事は無くなるのではないかと言われています。今後、税理士の役割がどう変わり、税理士同士はどう差別化していけばいいのかを考察してみます。

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本当に税理士の仕事はなくなるか?

2014年9月にイギリスのオックスフォード大学において、AI研究者であるマイケル・A・オズボーン博士が『The Future Of Employment(雇用の未来)』という論文を発表し、「10年後に消える職業・なくなる仕事」を紹介したことで、全世界で話題を呼びました。オズボーン博士の見解では、IT技術の進歩とAIによる作業の自動化によって、「10年後には今ある職業の半分がなくなる」と本論文において述べられています。
出典:『The Future Of Employment(雇用の未来)』Michael A. Osborne

その職業の中には「簿記、会計、監査の事務員」、「税務申告書代行者」が含まれており、10年後に無くなる確率は98% と予測されています。
どちらの業務も税理士が主として任せられる仕事内容であり、会計・税務に携わる人たちは衝撃を受けたかと思います。

しかし、2023年12月時点でも税理士の仕事は無くなっておらず、採用活動においても依然として日商簿記3級や2級のような簿記知識は求められており、加えて税理士や公認会計士のような高度専門資格者の求人数も減っていません。

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また、「簿記、会計、監査」、「税務申告」以外にも税理士に求められる仕事も幅が広がってきており、コンサルティング業務や財務諸表作成支援などの経営をサポートする第3者的役割を担っているため、たとえ上述のような仕事がなくなっても税理士がなくなることはありません。

それでも、 AI 【Artificial Intelligence:人工知能】や RPA 【Robotic Process Automation:ロボティクス・プロセス・オートメーション】の台頭によって単純作業が代替されてくるようになると、大幅に今の仕事内容が減り、税理士はより他の付加価値の高い業務を担っていく必要があります。

こういった背景から、税理士の仕事は将来なくなるだろうと予測されます。実際に税理士業に従事する人が「仕事の8割が事務作業にあたる」と言っていることからも、作業の自動化と大変相性が良いとわかります。

またAIは数字の取り扱いや単純作業が得意であり、世の中にAIが幅広くさらに普及すれば、人間よりもミスがなく何時間も働けるAIに仕事が移っていくことは容易に想像できるのです。

AI技術はこの先さらに進化し、応用できる分野は増していくので、税理士が担う仕事も変化せざるを得ません。

IT国家エストニアの事例

ロシアの西に位置し、フィンランドからバルト海を経て、90km南に位置する国「エストニア」

日本でビックデータやAI、プログラミングが流行る30年前からエストニアではITに投資しており、行政サービスの99%はオンラインで手続きすることができます。オンラインでできないことは「結婚・離婚・不動産売買」の3つのみというほど国全体としてIT化が進んでいます。

エストニアに税理士はいるのか?

税務申告も当然全ての手続きがオンライン化されており、作業が簡略化されています。これだけIT化が進んでいるエストニアにおいて、税理士は存在するのでしょうか?

結論として、IT技術によって税務に関わる手続きが無くなったエストニアでも、税理士は存在しています。彼らは主に法人向けに節税対策と税務コンサルティングの仕事を受け持っており、日本と遜色ない業務内容です。

IT先進国から学ぶ税理士のあり方

この事例から学べることは、例えAI技術が進歩し、単純業務がAIに置き換わったとしても、仕事のニーズは存在するということです。税理士の残り20%の仕事は、今まで多すぎた事務作業によって、十分に時間が割けなかった経営の本質に関わる重大な意思決定の部分です。AI技術の進歩は必ずしも悪いことでなく、AIによって新しく仕事ができる時間が増加し、人間にしか担えない企業支援ができるようになるかもしれません。

そもそも税理士の業務内容とは?

税理士がAI時代にどう生き抜くかというのを考える前に、そもそも税理士の業務内容について改めて見ていきましょう。

税理士の独占業務

まず、税理士は税理士法第2条と第52条に定められた下記3つの独占業務を行うことができます。

税務の代理(税理士法第2条第1項第1号)
税務書類の作成(税理士法第2条第1項第2号)
税務相談(税理士法第2条第1項3号)

税理士法人に勤務していたとしても、上記3つの業務は税理士の資格がなければ行うことができません。

独占業務以外の業務

税理士の資格がなくても行うことができる業務には以下のようなものが挙げられます。たいていの場合、税理士補助と呼ばれる税理士の資格を持っていない従業員がこれらの業務を担うことが多くなっています。

記帳代行業務
年末調整業務
確定申告業務
月次監査業務(巡回監査)
クライアント企業の社長のサポート
経営コンサルティングなどそのほかの仕事

AIがあっても税理士の仕事がなくならない理由

前述のような税理士の業務内容を踏まえ、今一度、税理士の仕事がなくならない理由を解説します。

AIにはできない仕事がある

AIにはできない仕事として挙げられるのが、コンサルティング業務です。
税理士は、記帳代行などの事務的な作業だけではなく、クライアント企業の経営や税務に関するコンサルティングを行うことがあります。
コンサルティング業務は高度なコミュニケーション能力やヒアリング能力と、それに基づいて戦略を立てる力が求められるため、人間にしかできない領域であると言えます。

税制度は頻繁に変わる

税制度の改正は毎年行われます。そのため、税理士業界に従事する人は頻繁に変わる税制度を都度都度キャッチアップしています。
AIは、税制度の頻繁な変更についていくは難しいとされています。

AIを駆使してこそできる仕事がある

税理士業務は、AIに変わられるのではなくAIを駆使してより効率的に業務を進められる可能性があります。
記帳代行などの、入力・仕訳作業といった単純作業はAIによって簡略化することができるでしょう。そういった仕事をAIに任せることでより効率的に仕事を進めることができ、その分のリソースをコンサルティング業務などに充てることができます。

税理士が生き残るためには?

税理士が生き残るためには、他の税理士よりも付加価値の高い業務を担えるか否かにかかっています。単純な作業への価値は消え、より税務に関して特殊な知見や、顧客それぞれにあったサービスを展開する税理士が伸びていくことになります。

税理士として登録している人数は、令和3年10月末日現在で79,898人であり、税理士が多くなることによる競争は激化することが予想されます。数ある税理士の中で、自分がまたは自分の事務所が選ばれる必要性を生み出す必要があります。

ここでは、直近で成長している税理士の特徴を捉えご紹介し、税理士が生き残るための方法について考えていきます。

税理士が生き残るためには?

競合が多くない国際税務、組織再編税制、相続税、連結納税などの専門のジャンルをつくる

税理士の競争に負けないためには、競合が多くない専門のジャンルを持つことは一つの競合優位性・生き残るための術になります。

このような専門のジャンルがあれば、クライアントを非常に有利に獲得することができ、通常よりも報酬単価がアップします。

一般的に、国際税務、組織再編税制、相続税、連結納税などは需要が伸びているのにも関わらず経験者が少なく、このようなジャンルが得意な税理士は需要が多くあり、今後も同じ状況が続くものと考えられます。

クライアントを獲得する複数のルート考える

税理士の営業手法としては、訪問営業、電話営業、ダイレクトメール、ホームページの開設、広告の掲載、ブログの開設、別の士業や金融機関との提携などがあります。

この中で、いろいろな営業手法を試し、クライアントを獲得する主なルートを複数作ることが、安定して継続的にクライアントを獲得する方法になります。特に地方ではこういった税理士や税理士事務所が活躍しています。

セミナー、出版などでブランディングをする

他の税理士と差別化を図るためには、セミナー、出版などでブランディングをするのもおすすめです。
セミナーを開催し、専門のジャンルに詳しい人という信頼を蓄積していけば、その専門のジャンルの仕事の依頼は自然と多くなります。一定数以上の社員がいる会計事務所では組織としてのブランディングは簡単ではないですが、個人税理士や小規模な会計事務所の場合、生き残るために取り組みやすい戦略の一つになるでしょう。

金融機関の融資、創業補助金、経営コンサルティングなどの経営のサポートをするアドバイザリー業務に従事する。

現在は、申告書作成ソフトなどが登場しているため、税務がわからない人でも申告書が作れるようになっています。

そのため、税理士が生き残るためには、単なる申告書を作るのみでなく、節税サービス、金融機関の融資、創業補助金、資金調達のアドバイス、事業計画書などの作成サポートなど、税理士に付随したサービスをクライアントに提供することによって顧客満足度をアップすることが一つの方法として挙げられます。

現状の業務の延長戦になるため、最低限の知識は税理士であれば持っていることが多いかと思いますが、コンサルティングや助成金補助に特化し実践しながらノウハウを積み上げている税理士事務所は間違いなく成長しています。

税理士の活躍できる分野はまだまだある

現在の様子を見る限りは、税理士の仕事がなくなるようなことはないでしょう。
しかし、資格に頼り、コミュニケーションスキルや課題解決力はを身につけないまま運営できてしまっている税理士は今後生き残ることは難しくなっていくことが予想されます。

単純作業が代替され、税理士の仕事・役割が変わっていくことについては、前向きな声も多く上がっています。技術の台頭に怯えるのではなく、適切に向き合い任せることは任せて、自身や事務所の将来像を考えていく必要があるのではないでしょうか。

税理士は常に学習しなければ活躍できない職業であり、試験を乗り越えられた方であれば努力の方向さえ間違わなければ、今後も活躍できる職業であると思います。

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(※)
調査概要および調査方法:税理士・会計業界専門求人サイトを対象としたデスクリサーチおよびヒアリング調査 
調査期間:2023年10月24日~11月6日 
調査実施:株式会社ドゥ・ハウス(2024年1月1日より株式会社エクスクリエに商号変更します) 
比較対象企業:「税理士・会計業界専門求人サイト」展開企業 主要10 社

この記事を書いたライター

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