返品調整引当金という引当金があります。引当金処理は万が一のための備えでもあります。しかし、最近では改正によって返品調整引当金が廃止となっていますので、今回は新しい仕訳の仕方も含め、紹介します。
返品調整引当金とは何かからご紹介します。商品が返品されることを想定して、そこに引当金を設定しておくというのが返品調整引当金の考え方です。
引当金を適用して仕訳をする場合には要件があり、下記のような要件があります。
1.将来の特定の費用または損失であること
2.その費用または損失が当期以前に起因して発生するものであること
3.発生の可能性が高いこと
4.その金額を合理的に見積ることができること
商品によっては、販売する際に売れなかったものは次期以降に返品が条件になっているものもあるでしょう。例えば、医薬品や本などの出版業界、CDなどの音楽業界、化粧品やトイレタリー用品なども売れ残ったものは返品することが元々想定されています。
返品の際の金額についても契約されていて、返品調整引当金を設定することが可能です。返品調整引当金という勘定科目を設定して仕訳を行います。
ただ、平成30年度の税制改正で、返品調整引当金は廃止されています。
「買戻し特約が付された取引について買戻しによる返金の見込み額を収益の額から控除すること」と新たに改正されています。
以前は、返品調整引当金の勘定科目を利用して、当期末に返品調整引当金をあげ、引当金という未払金扱いをしていました。未払金扱いをすることで負債に計上することができていました。
返品調整引当金として最初に挙げておき、期をまたいだ場合にはその繰入をおこないます。そして返品が行われた場合に、調整引当金繰入額から返品調整引当金で処理し、売掛金を差し引いて返品調整の処理をしていました。
ところが改正後は、
返品されてきた分については、商品の売上から直接控除する仕訳となっています。返品されてきた商品は資産として計上し、「返品資産」という勘定科目で処理するように変わっています。
そして、返品された分を差し引いて売上原価が再計算される仕組みです。
返品されてくる商品が増えると最初に計算した売上原価は変わり、原価率が上がっていくことになります。売上原価に直接関わっていきます。
返品調整引当金との考え方の違いは、具体的にどういうことなのか、さらに詳しく見ていきます。
返品調整引当金を廃止したことによって、引当金という考え方自体に疑問を投げかけたような形と言えます。
引当金については、平成8年の税制調査会法人課税小委員会報告において次のように書かれています。
「引当金は、具体的に債務が確定していない費用又は損失の見積りであることから、常にその見積りが適正なものであるかどうかが問題となる。公平性、明確性という課税上の要請からは、そうした不確実な費用又は損失の見積り計上は極力抑制すべきである」(引用:法人税法、「収益認識に関する会計基準」272頁)
買戻し特約がある取引については、買戻しによる返金の見込み額を最初から収益から控除するということが新しく言われている点です。
返品調整引当金繰入額として、損金扱いにできないように改正されています。
収益に関しての新たな会計基準を導入し、売上発生時に収益をきちんと識別するように改正されています。
一度売上に挙げてから、返品調整引当金として損益扱いにするのではなく、最初に売上を計上する際に返品資産として計上してしまうという考え方です。
##「返品資産」として計上する時期は?
返品調整引当金ではなく、返品資産として計上するということですが、いつ返品資産として計上するかを考えるのではないでしょうか。
返品資産として計上する時期は、返品の発送の通知があった日の事業年度です。
その事業年度内で売上から控除し、わかった時点で行います。
返品の発送の連絡があった時点で売上自体を直接修正していきます。それによって売上原価も変わっていくという新しい考え方です。
返金調整引当金について見てきました。平成30年に法人税法の「収益認識に関する会計基準」が改正され、返金調整引当金についても見直されています。
ただし、経過措置が取られていて、令和3年3月31日までに開始する各事業年度では引当金の処理が可能となっています。会計ソフトなどでは、すでにもう改正後に合わせたようなものもあり、令和12年までに縮小していくよう経過措置が取られています。
次第に返品資産という考え方が浸透していくことになり、収益認識会計基準が変わったことに慣れていく必要があるでしょう。