退職金は他の税額よりも低いということは聞いたことがあるかもしれません。しかし、どれくらい低くてどのように使えるかは詳しく知らない人もいるでしょう。
そこで今回は退職金の税額と退職金の賢い利用法について解説します。
退職金は所得税法上では「退職所得」と呼ばれます。これは、給与所得、事業所得、雑所得とは別で計算される所得ということを意味します。
退職金をもらった時は退職所得として計算されます。その計算式は次の通りです。
(源泉徴収前の退職金額―退職所得控除額)÷2=課税対象退職金額
退職所得控除額については勤続年数によって異なります。
・勤続年数20年以下…40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円)
・勤続年数20年超…800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例えば勤続年数が14年2か月の人であれば、1年未満を切り上げて15年で計算されるため、40万円×15年=600万円が退職所得控除額となります。退職金を総額で800万円もらったとすれば、(800万円-600万円)÷2=100万円が課税対象退職金額となります。ちなみに、退職した理由が障害者となったことによる場合は退職所得控除額に100万円追加されます。
では、先ほどの計算式で課税対象退職金額が決まりましたので、次は所得税額の計算となります。
退職金は他の所得とは分離して計算されますが、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出している場合は勤務先で源泉徴収を行われる為、原則として確定申告の必要はありません。しかし「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合には20.42%の源泉徴収が行われるのみとなるため、本人が確定申告を行うことで所得税の精算をすることとなります。
では、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合の税額計算は以下の通りです。
ここで、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出している場合、例えば先ほどの例のように勤続年数が14年2か月の人で退職金を総額で800万円もらった人では、課税対象となる退職金額が100万円となるため、100万円×5%×102.1%=51,050円が退職金に係る税額となります。
一方で、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は単純に800万円×20.42%=1,633,600円が退職金に係る税額となります。
法人税法上、退職金は基本として支払った年度の損金に算入できます。よって、退職金を支払うと法人税法上節税になる上に、所得税は他の所得よりも優遇されていることとなります。
ということは、退職金を支払えば支払うほど節税になるようにも見えます。しかし、だからと言って際限なく払ってしまってはいくらでも節税できてしまいます。特に、役員に対する退職金はいくらでも操作できるためいくらでも払っても良いというわけではありません。
まず、退職した事実が必要となります。退職金を支払っていながらも会社経営にそのまま居座っていたり、給与をそれほど変わらずにもらい続けていたりする場合は実質退職したと考えられません。また、金額においても勤続年数や役員報酬の金額と照らし合わせて妥当かどうかや、その算定基準が合理的であるかどうか等が重要となります。
この点は明確にこの金額であれば良いというものはありませんが、判例等の事例から合理的な金額を計算することとなります。もしも退職所得として認められないと、役員賞与とみなされ、法人税法上損金とみなされない上に多額の所得税を課せられる為、安易に退職金を決めて支払うことは避けましょう。
とはいえ、合理的な金額であればやはり退職金を活用することは重要となります。退職金を支払う時は多額の損金が計上されるため、法人税が大幅に減額する可能性があります。しかし、その為に法人所得自体もマイナスになってしまってはもったいないので、その期に含み益のある土地や有価証券を売ったり、利益となる保険金を解約したりすることが考えられます。
よって、退職時期を自身で決められる場合はそのような利益出せる期に一気に行ってしまうということも考えられます。
退職金は他の所得と違って所得税が低く抑えられます。しかし、特に役員の退職金は否認される可能性があるため勤続年数や退職の事実に沿った適切な金額を支払うことが大事です。その際は対応できる利益があるかどうかが重要となるため、将来の利益計画に基づいた計画的な退職時期を判断する必要があります。