有形固定資産の処理の中で、除却と売却は色々な理由で間違えたり忘れてしまいがちです。今回は、有形固定資産の除却と売却の会計処理だけではなく、ポイントとなる業務フローについても解説します。
まず、有形固定資産の除却と売却の会計処理について基本をお伝えします。
償却資産である有形固定資産は毎年減価償却をし、簿価が徐々に減少していきます。よって、有形固定資産を除却するタイミングでは減価償却によってある程度簿価が減少していることでしょう。
まず、除却損の仕訳は次の通りになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
有形固定資産除却損 | 100 | 有形固定資産 | 5000 |
減価償却累計額 | 4900 |
まず、貸方に有形固定資産の取得時の価額(取得原価)を記載します。その後、除却をした前月まで(期首のものを使う方法もあります)の減価償却累計額を計算し、貸方に記載します。差額を有形固定資産除却損として計上します。
次に、売却損益の仕訳は次の通りとなります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 10000 | 有形固定資産 | 8000 |
減価償却累計額 | 4000 | 有形固定資産売却益 | 6000 |
まず、借方に固定資産を売って入ってきた金額を記載します。次に、除却と同様に現在の簿価を記載します。その差額を有形固定資産売却損益として、借方か貸方に記載します。
会計処理としては先ほどお話した通りですが、経理担当者としてはどのような流れで除却、売却の処理を行うのでしょうか。
まず、有形固定資産は会社にとって大事な資産ですので、誰でも勝手に除却や売却を行えるわけではありません。土地建物なら想像しやすいですが、PC、コピー機等も勝手に除却や売却を行えたら横流しもできてしまいます。
そこで、ある程度の会社の規模となったら稟議(りんぎ)というものを使います。稟議では、除却や売却をしたいと考える部署が書類を作成して、所属長、役員、社長まで回覧して承認を貰います。最終決裁権者の承認がもらえた資産については、除却、売却をして先ほどの会計処理を行うこととなります。
しっかりとした会社であれば毎回稟議を作成し、経理担当者に書類が回ってくるので処理が漏れることはないでしょう。しかし、有形固定資産使用部署がずさんな管理をしていると、経理担当者は除却や売却の事実に気づけずに、処理が漏れてしまうことがあります。
そこで、毎年期末かその前くらいに固定資産の棚卸をしましょう。通常の在庫であれば毎年棚卸をすると思いますが、固定資産の棚卸は意外とされていない会社も多いです。
リストを各部署に配賦して、除却や売却によって無くなった資産は経理に報告してもらうようにすれば漏れが無くなります。
固定資産の棚卸をしても、帳簿と実際の固定資産が結びつかなければ全く意味がありません。
そこで、固定資産は全て番号をテプラ等で管理しておきましょう。そうすれば、その番号と固定資産台帳を突き合わせることですぐにどの資産が無いかがわかることでしょう。
壁紙や大きな空調など番号をつけるのが難しい資産については、写真を撮るなどしておけば管理が楽になります。
固定資産の除却はいつしたかによって期間の損益が変わるだけではなく、税務上も否認されることがあります。
例えば、期末に除却しようとして固定資産台帳から除外してしまったにもかかわらず、実際に廃棄したのは翌期となってしまうと、それだけで税務調査では指摘事項となります。
そこで、除却の際には必ず業者から「マニフェスト」をもらうようにしましょう。
「マニフェスト」とは、産業廃棄物を業者に処理してもらうと、それを実際に廃棄したことを証明してくれる書類となります。
除却では必ずマニフェストを証拠書類としてとっておき、その書類の期間が決算とずれてしまったらもう一度固定資産の除却をやり直すことが肝心です。
固定資産の除却や売却で損失が出ると、決算書の見栄えが悪くなったり、処理がめんどくさかったりとなかなか手が進まないかもしれません。
ですが、例えば全然使っていない機械装置をそのまま放置しておいても減価償却費として費用計上されるだけであまりメリットはありません。
その点、不要な資産を除却や売却によって損失計上をすると、当然損失が膨らみ税務上も節税ができるようになります。
これは、固定資産だけではなく棚卸資産にも言えることですが、不要な資産が貸借対照表に計上されていたら、積極的に除却、売却を行って節税も考えると良いでしょう。
有形固定資産の除却や売却は会計処理だけではなく、日々の業務の流れが大事になってきます。ある程度規模が大きくなってきたら、稟議書の徹底、マニフェストの入手の徹底を心がけ、現物と帳簿が必ず一致するような仕組みづくりが大切です。