皆さんが色々な財務諸表を見ていると、純資産の部に「土地再評価差額金」という勘定科目のある会社に出会うかもしれません。
それではこの土地再評価差額金とはどのような勘定科目でしょうか、また、計上している会社とそうではない会社がなぜ存在するのか、解説をします。
土地再評価差額金とは、土地を時価評価したことによって、当初の取得原価と差が出た場合のその差額を言います。土地再評価差額金は純資産の部に計上されます。
土地再評価差額金の処理は、1998年から2002年にかけて時限立法として適用されていました。その頃に計上した土地再評価差額金は今でも継続して残しておけますが、新たに計上することはできません。
ですので、この科目がある会社と無い会社が存在していることとなります。
ではなぜ1998年に土地再評価差額金が生まれたのでしょうか。
この頃、不景気となりマイナス成長となってしまい、企業の財務諸表はとても悪い状態になっていきました。すると、銀行から融資を受けたくても受けられない企業がたくさんでてきてしまったのです。
そこで、古くからある企業は土地の時価がとても高いにも関わらず帳簿価格はとても低くされていました。そこで、時限立法を制定して土地を時価に引き直しても良いということにし、簿価との差額を土地再評価差額金として純資産の部に持っていくことになりました。
先にお話した通り、現在は土地再評価差額金を新たに計上することができないので、当時の処理を解説します。
例えば、今までの帳簿価額が1,000で、時価が10,000であると想定します。実効税率は40%として計算します。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
土地 | 9,000 | 土地再評価差額金 | 5,400 |
繰延税金負債 | 3,600 |
まず、土地の時価増加分を借方に持っていきます。そして、貸方に同額の土地再評価差額金を持っていくのですが、実効税率分は繰延税金負債になりますので、土地再評価差額金5,400、繰延税金負債3,600を計上します。
ちなみに、この繰延税金負債は再評価に係る繰延税金負債として、通常の繰延税金負債とは区別しておきましょう。
ではこの土地再評価差額金は、過去のものであり今後もそのまま計上され続けるのでしょうか。
土地再評価差額金は、あくまで土地の時価増加分を計上しているものなので、土地そのものが無くなったり、土地の簿価が下がったりすると同時に金額が変わります。
例えば、保有している土地の価値が大幅に下落して減損をした場合や、所有している土地を売却した時などは、土地が減少した比率と同じように土地再評価差額金と繰延税金負債を取り崩します。
この他、税率が変更になったり、繰延税金資産の回収可能性が変更になったりした場合にも土地再評価差額金は変化します。
今まではいわゆる単体決算の話をしましたが、連結財務諸表では子会社の財務諸表を取り込むこととなるため、子会社に計上されている土地再評価差額金の扱いが問題となります。
まず、子会社に土地再評価差額金が計上されていて、そのまま子会社を取得した場合は連結財務諸表上土地再評価差額金が計上されません。
これは、子会社を取得した時の純資産は親会社の持っている株式と相殺消去されるためです。
これが、連結後に土地再評価差額金が計上された場合は消去されることなく残り続けます。よって、現在連結財務諸表上で子会社の土地再評価差額金が計上されている場合は、連結後に土地再評価差額金が計上されている会社であることがわかります。
では会社同士が合併した場合、相手企業が土地再評価差額金を計上していた場合はどのような処理となるでしょうか。
これは、土地再評価法というもので定められていますが、合併により消滅した企業が計上していた土地再評価差額金はそのまま合併先の貸借対照表に移すこととなります。
一方で、土地再評価差額金を計上している会社が会社分割によって他の企業に土地を移した場合は、その土地再評価差額金を引き継ぐことなく、売却と同じように取崩をする必要があります。
土地再評価差額金に関する論点はそれほど多くないのですが、最も理解がしづらいのが包括利益との関係でしょう。
土地再評価差額金は資産と純資産を同時に膨らませる処理となりますが、売却処理をした時もその金額分だけ売却損益が出ずに、直接純資産の部の中で増減させます。
よって、純資産の中身は変わっても土地再評価差額金が剰余金に振り替わるだけなので、包括利益にはなりません。包括利益は、あくまでも損益が計上された場合と、直接純資産が増減した場合に認識されるものだからです。
土地再評価差額金の会計処理はとてもシンプルなので処理自体は迷うことはないでしょう。ただ、現在の法律では新たに計上することができないため、土地再評価差額金の計上されている会社に出会っても焦ることなく過去の会計処理であることを理解して対処しましょう。