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難解M&A用語を解説!事業譲渡の法人税法って?

税理士 井上幹康
難解M&A用語を解説 事業譲渡の法人税法って?

いわゆるM&Aの手法としては一般的に「株式譲渡」が多用されていますが、もう1つの手法として「事業譲渡」というものがあります。実務であまりお目にかからないので「事業譲渡」についてよく知らない方も多いかと思います。今回は、そんな「事業譲渡」について特に重要となる法人税の取扱いを中心にご紹介します。

事業譲渡における法人税の課税関係(総論)

事業譲渡における当事者としては、事業を売る法人と事業を買う法人がいますが、事業譲渡が行われた場合の法人税の課税関係は、それぞれ以下の通りです。

<事業を売る法人>
通常の資産の譲渡と同様に、資産等を時価で譲渡したものとして譲渡損益を計算します。そしてこの譲渡損益が法人税の課税対象となります。
譲渡対価(時価) - 譲渡資産等(簿価) = 譲渡損益(法人税の課税対象)

<事業を買う法人>
こちらは、時価で資産等を取得することとなります。
ポイントは、法人税法上はあくまでも時価での取引が前提であり、時価と異なる対価で事業譲渡が行われた場合には、寄付金や受贈益といった別の法人税法上の問題が生じてきますので注意が必要です。

グループ法人税税制に注意(各論)

法人税法上、「完全支配関係」という用語が厳密に定義されていますが、詳細な解説を始めるとそれで話が終わってしまいますので、ここでは、「完全支配関係」のイメージとして、100%グループ内の親会社と子会社との関係や、100%グループ内の子会社同士の関係と理解いただければと思います。

このような完全支配関係にある内国法人間で事業譲渡が行われた場合、グループ法人税制の規定(譲渡損益の繰延べ)に注意が必要となります。

具体的には、事業譲渡で譲渡される資産のなかに「譲渡損益調整資産」(※)がある場合、事業を売る法人において当該譲渡損益調整資産に係る譲渡損益に対する法人税の課税が繰延べられます。

(※)「譲渡損益調整資産」も法人税法上厳密に定義されており、詳細な解説は割愛しますが、例えば帳簿価額1,000万円以上の固定資産などが含まれます。 つまり、原則的には上記(総論)に記載の通り、事業を売る法人では事業譲渡のタイミングで生じる譲渡損益が法人税の課税対象になるのですが、グループ法人税制(譲渡損益の繰延べ)の適用があると、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益については事業譲渡のタイミングでは法人税の課税対象にはならないのです。
ただし、未来永劫ずっと法人税の課税対象にならないというわけではありません。具体的には、事業を買った法人が譲渡損益調整資産を譲渡等したタイミングや事業を売った法人と買った法人との完全支配関係が解消されたタイミングで、事業を売った法人側で繰延べられた譲渡損益が法人税の課税対象になります。

M&A

会計上の「のれん」と税務上の「資産調整勘定」に注意(各論)

事業を買う法人において、事業譲渡の対価として支払った対価が取得した資産等の時価純資産価額を上回る部分は、会計上「のれん」として資産計上されます。さらに、会計上「のれん」は20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法等で規則的に償却することとされています(企業結合会計基準32項)。

一方で、法人税法上も会計上の「のれん」に類似する概念として「資産調整勘定」というものがあります。この「資産調整勘定」は、資産計上後5年間で均等償却することとされており、会計上の取扱いと異なりますので注意が必要です。

なお、ここでは詳しく取りあげませんでしたが、会計上「のれん」の反対の概念で「負ののれん」というものがあり、税務上も「差額負債調整勘定」というものがありますが、これらも全く同じ取扱いではないので注意が必要です。

事業譲渡と株式譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡で特に重要となる法人税法の取扱いを総論、各論に分けて解説してきましたが、最後に、M&Aにおいて多用される株式譲渡の方法と主なメリット・デメリットを比較してみると以下の通りです。

株式譲渡のメリット
• 実行にあたり手続きが簡便である
• 売り手(個人株主)の場合、株式譲渡は20.315%の課税で済む
デメリット
• 買い手が簿外債務を引継ぐ可能性あり
• 買い手側で「資産調整勘定」の損金算入等の取扱いはない

事業譲渡のメリット
• 買い手側で「資産調整勘定」の損金算入(要件に注意)
• 譲渡対象とする資産・負債を選択できる
デメリット
• 実行にあたり手続きが煩雑である
• 許認可の引継ができず取り直す必要あり

上記表に挙げた項目以外にもメリット・デメリットは有りますが、特にその実行手続きの簡便さから株式譲渡の方法がM&Aの手法として多用されていると思われます。
また、法人税をはじめとした税務上の取扱いに関しても、株式譲渡に比べて事業譲渡の方が検討すべき事項が多く、難易度も高くなります。

特に今回各論として取り上げたグループ法人税税制(譲渡損益の繰延べ)や資産調整勘定の取扱いは、通常の法人税の確定申告業務ではお目に係ることのない特殊論点ですので、事業譲渡の実行にあたっては、その検討段階から税理士に相談して法人税やその他の税金の取扱いをしっかり整理しておく必要があるでしょう。

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この記事を書いたライター

大学在学中に気象予報士試験に独学一発合格。社会人として働きながら4年で税理士試験官報合格。開業税理士として税務に従事しながら不動産鑑定士試験にも一発合格。税理士試験や不動産鑑定士試験受験生向けの相談サービスや会計学ゼミも開催。
カテゴリ:コラム・学び

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