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自己株式の取得、保有、処分及び消却に関する会計処理

公認会計士 西田綱一
自己株式の取得、保有、処分及び消却に関する会計処理

以前の記事:「自己株式取得のメリットは?活用法を紹介します」で自己株式を取得するメリットについてご説明しました。そこで自己株式の会計処理について気になった方も多いのではないでしょうか。今回は自己株式の取得、保有、処分及び消却に関する会計処理について解説していきます。

自己株式の取得及び保有

企業が取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します。自己株式を資産として会計処理するという考え方もありますが、現在日本で自己株式を株主資本から控除している理由は国際的な会計基準でも株主資本の控除とされていることなどからです。また、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します。

自己株式の取得の認識時期

自己株式の取得については、対価が金銭の場合は対価を支払うべき日に認識し、対価が金銭以外の場合は対価が引き渡された日に認識します。この理由は、自己株式の取得が単なる有価証券の取得ではなく株主との間の資本取引であると考えられていることを背景に、自己株式の取得以外の資本取引との整合性を取っているからです。

自己株式の取得原価

対価として金銭を交付した場合

支払った金銭の額を取得原価とします。

対価として自社の他の種類の株式を交付する場合(すなわち、株式の種類を交換する場合)

取得原価は対価として交付した自社の株式の帳簿価額を基礎として算定します。もしこのために新株を発行する場合は零とします。これは自己株式の種類の交換することから損益が生じることや分配可能額が変化するのは適切でないと考えているからです。

対価として金銭以外かつ自社の他の種類の株式以外の財を渡す場合

自己株式の取得原価は、取得の対価となる財の時価と取得した自己株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します。なお、自己株式に市場価格がある場合には、一般的には、当該価格を用いて自己株式の取得原価を算定することになります。ここで帳簿価格ではなく時価を用いることを原則としている理由は、会社を清算する場合の会計処理と整合性を取っているためです。

取得の対価となる財又は取得した自己株式が市場価格のある株式の場合、原則として、その時価は当該取引の合意日の時価により算定します。ただし、当該時価と株式の受渡日の時価が大きく異ならない場合には、受渡日の時価によることも容認されています。

仮に、取得の対価となる財及び取得した自己株式に市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、移転された資産及び負債の適正な帳簿価額により自己株式の取得原価を算定します。

対価として金銭以外かつ自社の他の種類の株式以外の財を渡す場合

自己株式の処分

自己株式の処分の認識時期

自己株式の処分の認識時期は対価の払込期日です。会社法上、自己株式の処分の効力は払込期日に生じるからです。

自己株式処分差額

自己株式を募集株式の発行等の手続で処分する場合、自己株式の処分はやはり株主との間の資本取引と考えられます。そのため、自己株式の処分に伴う処分差額は損益計算書には計上せず、純資産の部の株主資本の項目を直接増減することが適切であると考えられています。

自己株式処分差益(対価の方が自己株式の帳簿価格より多い場合)

対価と自己株式の帳簿価格との差額をその他資本剰余金に計上します。

これは、自己株式の処分は新株の発行と同様の経済的実態なので差益については資本剰余金とすべきと考えられることなどからです。

自己株式処分差損(対価の方が自己株式の帳簿価格より少ない場合)

対価と自己株式の帳簿価格との差額をその他資本剰余金から減額します。

これは、自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると、処分差益と同じく処分差損についても、資本剰余金の額の減少とすることが適切であり、さらに、自己株式処分差損については、配当と同じく株主資本からの分配の性格を有するためです。

自己株式の消却

自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。

自己株式に関する付随費用の会計処理

自己株式の取得、処分及び消却時の付随費用(取得のための手数料、消却のための手数料、処分時に募集株式の発行等の手続を行うための費用等)は、損益計算書に計上します。そのため、例えば自己株式の取得の場合でも取得原価に加算したりしません。これは、付随費用は株主との間の資本取引ではないことや新株発行に関する費用は株主資本から減額されないこととの整合性を取ったことが理由です。

まとめ|自己株式の会計処理

ここまで自己株式に関する会計処理について見て来ましたがいかがでしたでしょうか。自己株式に関する会計処理については国際財務報告基準での会計処理と異なっている点も見られるなど最初は理解しにくく感じることもあると思います。

単に会計処理を丸暗記するというだけでなく、日本で用いられている会計処理とその会計処理が用いられている理由を一緒に抑えると理解しやすいと思いますので、ぜひ理由も一緒に参考にして下さい。

この記事を書いたライター

公認会計士。公認会計士試験合格後、上場企業に就職し経理関連業務を行う。その後、大手監査法人に転職し、監査およびコンサルティングを経験。現在は独立。原価計算を中心に事業会社での経理経験があることが大きな強み。
カテゴリ:業務内容

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