近年のリモートワークやテレワークを推進する流れの中で、在宅勤務を導入する会計事務所が増加しています。会計事務所の業務はルーティン化しやすいため、実は在宅勤務にとても適しているのです。今回は、会計事務所で在宅勤務を導入するメリットと注意点について解説していきます。
会計事務所の仕事は、毎月の記帳代行や、決算時の申告書の作成、クライアントからの会計税務にまつわる相談へのコンサルティングといった業務が中心になります。これらを固定の事務所で行う必要は、少なくとも技術的には不要な時代になりました。会計記帳や申告書の作成は、会計ソフトをインストールしたコンピューターを通じて、事務所の内外で実施することができるからです。また、クライアントや従業員同士のコミュニケーションも、電話はもちろんですが、メールやチャットを始めとしたIT手段で問題なく行うことができます。
特に記帳代行や申告書の作成などは、毎月あるいは毎年同じような業務を繰り返すことになるため、非常にルーティン化しやすいです。そのため、信頼できる職員に対しては在宅勤務を導入しても、業務に何らの支障はなく、むしろメリットが多いと考えらます。
在宅勤務のメリットとしては、やはり第一に、従業員の通勤の手間や移動時間が省けるということが大きいです。筆者自身、会計事務所の在宅勤務制度を利用しています。その大きな理由は、育児中のため、なるべく子供と一緒にいる時間を増やしたいからです。通勤時間がなければ、それだけ保育園に預けるのも遅くて済みますし、お迎えも早い時間に行くことができます。事務所に通勤していたころは、たとえ時短勤務を活用していても、平日はどうしても朝早くから夕方遅くまで子供を保育園に預けなければならず、やや寂しい思いをしていました。この制度を利用してからは、以前よりも子供と過ごす時間が増え、自身が理想とする生活に近づきました。子供が病気になったときも、もし保育園の場所が自宅の近所であれば、すぐに迎えに行くことができます。また、通勤時間のために会社から自宅までの場所にある保育園に預けなければいけないという必要も無くなるので、申請できる保育園の距離的な幅も広がります。保活の面からみても、在宅勤務は待機児童問題が悩ましい現状に適した制度なのです。
雇用者側としても、望ましい人材を確保できる可能性があるというメリットが望めます。確かに多少のITスキルが雇用者側にも求められますが、今は当たり前のように使い勝手の良いソフトが多くあります。ですので、それらのソフトの導入にかかる負担より、在宅勤務制度によって、より条件に合う従業員を確保できるというメリットのほうが大きいと思われます。特に、事務所が市街地から離れた場所にあるような場合には、なかなか雇用者の求める基準に達する人材を探すのは難しいと考えられます。しかし、もともと会計事務所に勤務していた経験があって、税務の知識や実務経験が豊富でも、現在は介護や育児などでなかなか外に働きに出るのが難しいという人材は多くいます。そのような人たちは、在宅勤務制度を導入している会計事務所に応募したいと考えているはずです。適した人材の掘り起こしによって、会計事務所の業務の効率改善が見込めるでしょう。
筆者が在宅勤務を始めて気づいた一番のデメリットは、精神的に孤独を感じるということです。Skypeやチャット用ソフトで常時つながっているとしても、ちょっとした質問をすることがハードルとなってしまい、当初は一人で疑問を抱え込んでしまうことが多かったです。しかし、チャット等で意識的に早めのコミュニケーションを多く取るようにすることで、上司と疑問点を共有し、一人で抱え込んでしまうことによるストレスを軽減できるようになりました。また一人で仕事をすることで、職場にいるときよりも集中出来るので、作業効率はかなり上がりました。
また、もちろんスケジュールを自己管理する必要がありますので、だらけたり、逆に詰め込みすぎたりすることのないように、上司と進捗の共有を欠かさないことが大切でしょう。
まずはセキュリティ保護に関する事項を、しっかり従業員と共有しておくことが大事でしょう。リモートワーク用に設定されたソフトを使用すれば、基本的に事務所内の情報を外に取り出す必要はありませんので、従業員の意識を高く保つように指導することが大切でしょう。マイナンバーなどの重要な個人情報は、事務所内からしかアクセスできないように設定する必要もあります。
また、税理士が開業している会計事務所の場合は、在宅勤務の導入が2か所事務所禁止の税理士法に違反するのではという議論がありました。しかし、こちらも最近になって、東京税理士会が「在宅勤務は現行法上問題ない」という 発言をしたことで、よりいっそう容認される方向に動いていくのではないでしょうか。
今回は、会計事務所が在宅勤務を導入するメリットと注意点について解説しました。うまく活用すれば、従業員と雇用者双方にメリットがある制度ですので、これからも導入が広がっていくでしょう。