役員が月半ばで就任・退任した時「月の半分なら役員報酬も半額で」と考えてしまうかもしれませんが、表題の通りそれは基本的にできません。その理由は、従業員に対する給与と役員に対する報酬は根拠となる法律が異なり、役員給与を日割りしてしまうと、会社の税金が上がってしまうからです。本記事では役員報酬の仕組みと、なぜ日割りできないか、そして就任・退任時にはどのようにすべきかを解説します。
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まずは、役員と従業員の契約形態の違いを見てみましょう。
役員は従業員と違い法人と雇用契約を結んでいません。役員は雇用契約ではなく委任契約によって会社業務に携わっています。委任契約は雇用契約とは異なり、労働の対価として給与を受け取るという概念ではありません。
そのため、残業代や休日出勤手当もなく、日割り計算という概念もないのです。基本的に年俸制であり、毎月役員給与として支給されるものは、年額を12ヶ月で割ったものという考え方になります。
役員報酬と従業員への給与については、そもそもの仕組みが異なります。ここでその内容をみてみましょう。
例えば従業員なら、基本給にプラスして残業代や各種手当などがありますが、役員報酬というのは、一部の例外を除き、年額を12分割した一定額の報酬を支払う必要があります。
これを「定期同額給与」といいます。
役員にはそもそも時間外の概念がないので、残業や休日手当などは生じません。
役員報酬は、税法上経費として損金算入が可能です。役員報酬として支払った分を会社の損金とすれば、法人税の支払いをその分下げることができます。
節税効果が高いため、役員報酬は簡単に変更できないように取り決めがされているのです。
もし、役員が自由にその報酬を変更できるとしたら、会社の利益を私有化するようなことが簡単に行われてしまいます。
そうしたことができないよう、役員報酬はあらかじめ株主総会で決めなくてはならないと定められているのです。
ここまでの内容を踏まえて「なぜ役員報酬は日割りできないか」ということを考えてみましょう。
役員報酬には以下の3つの特徴があります。
・定期同額給与により、毎月同じ額の支給
・損金に算入
・その額は株主総会で前もって決める
つまり、役員報酬を日割りすると、定期同額給与でなくなる(その月だけ給与の額が変わってしまう)ため、損金に算入できなくなってしまいます。
もちろん、無理に変更することもできなくはないですが、そうすると役員報酬を減額した分の金額×過月分の金額しか損金算入できません。
役員の委任契約の性質+法人税の損金算入のため、役員報酬は日割りする・しないではなく、そもそも日割りの概念がないというのが役員報酬は日割りできない理由です。
それでは、定期同額給与の原則に則った場合、月の途中で就任・退任した場合の役員報酬の支払い方がどうなるかを見てみましょう。
まず、役員と会社は会社法330条により、民法の648条の委任の規定に従うよう定められています。
つまり「後払い」ということですね。
わかりやすくするために、ここでは月半ばの15日に就任したとしましょう。
この半月分をどうするかというと、以下の2通りの対応が考えられます。
①半月分も1ヶ月分とみなして全額支払う
②半月分については支給せず、翌月分から支払う
このいずれかを選択する必要があります。
なお、従業員からの昇格の場合は、半月分について従業員出会った時の給与は日割り計算で支払われることになります。
会社が同じ場合、従業員から役員になるというのは、一見昇格のように見えますが、実際は
・従業員としては退職
・役員となるために新たに委任契約を締結する
という流れです。
そのため、給与だけでなく、退職に伴う退職金などの支払も生じます。
様々な事情で、任期途中で役員が退任することもあります。この場合もやはり同じで、全額支払うか、支払わないかのいずれかの対応が基本です。
①半月分も1ヶ月分とみなして全額支払う
②半月分については支給せず、前月末分で報酬は終了
例えば12月15日に退任したとすれば、12月分まで役員報酬を支払うか、あるいは11月までで役員報酬がストップするかいずれかの対応となります。
当コラム内では、役員報酬についての記事を他にも公開しています。併せてぜひご一読ください。