自社株買いとは、その企業が発行している株式を、株主などから買い戻すことです。株式は、そもそも資金調達をするために発行したものです。なぜわざわざ買い戻す必要があるのでしょうか?
現在、中小企業では、事業承継やオーナーの相続税対策で自社株買いが行われています。
この記事では、自社株式買いの意味、メリット・デメリットについて解説しています。
自社株式とは、その名の通り「自社が発行した株式」のことです。株式の発行は、会社を設立した時や企業規模を大きくするときに発行します。
会社は、株主から出資を募り、出資をしてくれた株主に対して自社の株式を発行します。株式を発行することで、金利負担の無い資金調達ができるようになります。
そのため、通常は、会社が自社の株式を保有することはありません。
自社株式買いとは、会社が発行した株式を発行後に会社自身で取得することを言います。
現在は、自己株式の取得は原則自由化されていますが、何の制限もなく自己株式の取得ができると、株主などさまざまな問題が発生します。
そのため、会社法155条では自己株式の取得できる条件が13項目規定されています。
自社株買いを有償で行うときには注意が必要です。「自己株式の取得」は、自己株式を取得する日の会社の分配可能額の範囲内でしか行うことができません。これを、「自己株式の取得」の「財源規制」といいます。なお、分配可能額は、剰余金の額を基準に、一定の項目を加算・減算して算出した金額です。
中小企業のオーナーがなくなった場合、相続人が相続税の支払いに苦労したり、相続により株式が複数の相続人に分散されたりする可能性もあります。
このような場合、相続人が相続する株式を会社が買い取る自社株買いが有効な対策となります。
後継者に、自社株を引き継ぐ場合には、相続税、贈与税などの納税資金が必要となります。
これらの納税資金を負担するのは後継者。しかし、後継者は税金を納付する現預金が充分でないことが多々あります。特に、事業が充分に成功し、株価が高く評価される会社ほど、納税資金の問題が発生します。
相続人が、納税資金が準備できない場合、自社株買いが一つの解決策です。後継者は、会社に株式の全部または一部を買い取ってもらい、会社から売却資金を受け取ります。その売却資金を元にして、相続税を納税することができます。
中小企業では、オーナーが全株式を保有していることが多いですが、親族や友人などが少数株式を保有していることもあります。
また、オーナーがなくなった場合、株式は相続財産ですので、承継者以外の親族などにも相続される可能性があります。少数株主に、相続が発生した場合も少数株主の相続人に引き継がれます。
株式は経営権です。株式の保有割合が大きければ大きいほど、承継者の経営のハンドルは自由になります。複数の株主に分散していると経営に口出しされる可能性もあります。
承継者が充分なお金を持っていれば、他の株主から株式を買い取ることができます。充分なお金が準備できないのであれば、会社が少数株主の相続人から株式を買い取る方法すなわち自社株買いが有効な対策となります。
納税資金の確保や承継者への経営権の集中に自社株買いは有効な対策となります。しかし二つのデメリットに注意する必要があります。
前述しましたが、自社株買いには財源規制があります。債権者などの不利益にならないよう、自社株買いは、原則として分配可能額を超えることができません。また、自社株買いにより会社の純資産額が300万円を下回る場合は、財源規制となり自社株式を取得することはできません。
財源規制により、自社株買いの金額に制限があることが大きなデメリットです。
自社株式買いができたとしても、取得資金の分だけ現預金が減少します。場合によっては金融機関などからの借入によって取得資金を用意しなくてはいけません。
本来事業で使うべき資金が収益を生み出さない株式取得資金に使われることがもう一つのデメリットです。
現預金が減少したり、借入金が増加したりして会社の財務基盤が弱くなることに注意が必要です。
自社株買いをする。言葉にするととても簡単ですが、実はとても複雑です。承継者の立場、非承継者の立場、他の相続人の立場、会社の立場など立ち位置によって思いは異なります。
また、相続税、所得税なども特別優遇税制があるなどとても複雑です。顧問税理士など専門家と充分に相談して取り組むことをおすすめします。