販管費と原価についてはどちらに計上するべきか迷う点がたくさんあると思います。また、簿記の勉強では他勘定振替などの項目も習ったと思いますが、実務ではどのようにして振替を実施しているのでしょうか。
今回は、販管費と原価の違いや振替方法等について解説します。
販管費と原価の違いを簡単におさらいします。
販管費は販売費及び一般管理費の略で、売上を伸ばすために使われた費用である販売費と、企業存続や企業をまとめるために使われた費用である管理費で構成されます。ざっくりと言えば販売費が売上に連動する変動費で、管理費が売上にあまり影響を受けない固定費と考えても大きくは外れていないでしょう。
一方で原価は売上原価の略で、販売した物品やサービスを作るのにかかった費用です。製造業であれば材料費や組み立てを外部に頼んだ場合の外注費、製造機械の減価償却費などが該当します。
売上から原価を引いたものが売上総利益(通称粗利)、売上総利益から販管費を差し引いたものが営業利益となります。
材料費は原価、広告宣伝費は販管費とわかりやすい項目であれば良いですが、減価償却費や人件費などはどちらにも記載されることが多い科目です。
製造用の機械の減価償却費であれば原価に、営業スタッフの人件費であれば販管費に、とわかりやすい項目については良いのですが、例えば本社と本社工場が一緒の建物になっている場合の建物の減価償却費はどのようにしたらよいでしょうか。
このように両者に共通する費用については、何らかの割合を使って振り替える作業を行います。
例えば管理部門が使用している床面積と工場が使用している床面積を割り出して、その割合で減価償却費を配分する方法があります。配分の仕方は、直接原価と販管費に割って仕訳をする方法と、一度どちらかで計上しておいて定期的に割合で仕訳を計上する方法などがあります。
これ以外にも、研究開発費等は原価から販管費に振り替えることが多い項目です。
研究開発費は研究開発のために支出した費用で、開発部署の特定の人件費や材料費などが販管費として計上されます。
ですが、開発部署は何もしないと原価に集計されてしまうことが多いので開発部署の一部について販管費に他勘定振替等を使って販管費に振り替える作業が必要となります。
では、原価と販管費に振り替える割合は面積割り以外にどのような方法があるのでしょうか。
例えば人件費であれば、まず製造と販管部門に直接分けられるものは原価と販管費に計上します。どちらともいえない人件費については、どちらか業務の重きを置いている側に寄せる、半分半分で計上する、実際の従事割合を日報などから算出する、過去の日報から出した割合を使って予定で配分する、等が挙げられます。
また、水道光熱費であればメーターをそれぞれ付けてその割合で配分することや、細かい企業になってくるとコピー機の使用枚数であっても部門別に把握して振替割合を決めるところもあります。
ただ、あまり細かくしすぎても意味が無いので、重要な科目についてなるべく実際の割合に近づける計算をして、重要ではない科目についてはある程度割り切った振替をするか、そもそも振替をしないという選択もする必要があります。
税金の計上場所として一般的なものは税引前利益の後に計上される法人税、住民税及び事業税です。では、販管費や原価に含まれるものはあるでしょうか。
例えば本社の固定資産税については租税公課として販管費に計上されます。また、外形標準課税を適用している法人の資本割と付加価値割についても販管費の租税公課に計上されます。
また、機械装置に関係する固定資産税は売上原価に計上されます。
このように、税金であっても原価や販管費に計上される項目があるので、単純に○○だからこちら!と決めつけないようにしましょう。
最初に原価と販管費の関係を説明した通り、原価と販管費の振替を間違えると売上総利益が変わってきてしまいますが、営業利益は一致することが基本です。ですが、最終的に利益が変わってしまう可能性もあるため注意が必要です。
例えば売上原価に含めるべき減価償却費を全て販管費で計上してしまって、作られた製品が在庫として計上された場合です。在庫はかかった費用のうち、販売されなかったものが計上されるので、減価償却費が全て販管費に計上されてしまうと、在庫の金額が小さくなってしまいます。在庫の金額が少額となると最終的に利益を圧迫することとなるので、最終的な利益も変わってきてしまいます。
販管費と原価の違いや振替方法について解説をしましたが、重要なものはしっかりと振替割合を決定して、重要ではないものに時間をかけないようにしましょう。どちらに計上するかははっきりと決まった基準はないですが、実務では概ね方法が決まっているので大きく割合を変える時は公認会計士や税理士によく相談してから実施しましょう。