2020年3月現在まで日本取引所グループが公表している上場廃止企業は21社あります。そのうち、TOBによる上場廃止企業は7社あります。2019年も12社がTOBにより上場廃止がされています。今回は、TOBの内容を解説するとともに、上場廃止をする趣旨や株主が取るべき行動について公認会計士が解説していきます。
そもそも上場廃止とはどんなことを指すのかよく分からないという方は、下記のコラムで詳しく解説していますので、ご覧ください。
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TOB(take-over bit)とは、株式を事前に一定期間のうちに一定金額で買い取る旨を公告して取引市場外にて株式の取得を行うものであります。一般的に株式の公開買付制度と言われております。
TOBの主な目的は「経営権の取得」にあります。
TOBについては、金融商品取引法上で、株式取得を行った際に株式取得後の株式の所有割合が3分の1を超える場合には、株式取得は公開買い付けで行わなければならないとされています。また、予定購入株式数に達しなかった場合には、買付を中止することもできます。なお、TOBには友好的TOBと敵対的TOBの2つありますので解説します。
友好的TOBとは株式の買収について対象の企業の了解を得られているケースです。日本国内では当該TOBが多く行われています。友好的TOBの場合では経営陣がそのまま残るケースが多いので、事業活動をTOB後も引き続き行いやすいと言えます。
一方で、友好的であるがゆえに、買付価格が株式市場の価格よりも安い価格で設定されるケースもあるので、株主の不満が残るケースもあります。2020年2月までに実施されたパルコのTOBについてはこの友好的TOBに該当するケースといえます。
敵対的TOBとは、対象企業や大株主への事前の合意や通知無しにTOBを実施することを指します。多くの場合は、ライバル企業の経営権の支配力を握ることを目的としています。
以前にライブドアがニッポン放送に敵対的TOBをしかけたことは大きなニュースになりました。ライブドアの場合は失敗に終わりましたが、近年では2019年に伊藤忠商事がデサントに対して行った敵対的TOBが成功するなど日本国内での事例も増えつつあります。
また、敵対的TOBの場合には、TOBの対象となっている企業側で買収防衛策を講じることがあります。事前に規定の整備などを行う必要があるものあるため、日頃から企業側で準備がされています。
TOBに関しては、下記のコラムでも詳しく解説をしていますので、ご覧ください。
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TOBを行ったあとに、上場を廃止する趣旨としては2つ考えられます。
上場企業の場合には、多くの株主などの利害関係者がいるため、どうしても迅速な意思決定を行うことが難しい。事業の再編などを考えた場合には、上場企業よりも非上場企業であるほうが意思決定はしやすいといえます。
上場企業の場合には、四半期決算開示や事業年度末の有価証券報告書の提出を行うために、人を採用したりして人件費をかけています。
また、上場企業であれば金融商品取引法の法定監査を受ける必要があり、監査法人への報酬や内部統制監査に耐えうる内部統制の構築維持のための費用などがコストとしても相当額発生していますので、上場廃止によりコストは抑えられると思います。
TOBをおこなった場合には、株主は次の行動をとることが考えられます。
TOBで設定している買付け価格については、市場の株価よりも高く設定されているケースがほとんどだと思います。したがって、TOBに応じることはメリットがあると思います。
1点手続上の留意点として、公開買付け代理人の証券会社以外で株式を保有している場合で、公開買付け代理人の証券会社の口座を保有していない場合には新規で口座を開設して株式の移管をしなければならないため、事務手続には時間がかかります。TOBには受付期間もありますので、受ける場合にはなるべく早く申し込みを行った方がいいと思います。
TOBに応じずに保有し続ける場合には、TOB後の株価上昇を見込めるケースもあります。TOBをされるほど企業価値のある会社だと市場が認識すれば、株価は上がるため、メリットはあると言えます。
しかし、TOBの目的が全株取得による完全子会社化である場合であり上場廃止を行う場合には、保有している株式が非上場株式になるため、市場取引を行うことができなくなるデメリットがあります。
なお、会社の目的が上場廃止であるかどうかについては、公開買付届出書に上場廃止の有無が記載されていますので、必ず確認を行うほうがいいでしょう。
TOBの内容について解説してきました。日本では企業グループ内での事業の再編で使われる友好的TOBが盛んでありますが、近年では敵対的TOBも増えてきてはいます。
その際に、買付先の企業が行う買収防衛策などもチェックしてみると更に理解が深まると思います。また、株主の皆様のご自身の保有している株式がTOBの対象となった場合には、公開買付届出書など公表されている情報を精査して対応することが望ましいといえます。