キャッシュフロー計算書は、企業の資金繰りを判断する上で非常に大切なものです。しかし、ほとんどの人が作成する機会が無いため、慣れるまで本質を読み取りにくい計算書とも言えるでしょう。今回は、キャッシュフロー計算書における減価償却費を中心とした非資金費用の扱いについて解説していきます。
まず、キャッシュフロー計算書について簡単におさらいしていきます。キャッシュフロー計算書とは、一会計期間で企業に入ってきた資金と出て行った資金を明確にして、企業の資金(キャッシュ)の流れをわかりやすく表示する財務諸表です。
会社に資金がどれだけ残っているかというのは、経営を続けていく上で、非常に大切な事柄です。黒字倒産といった言葉があるように、たとえ損益計算書上で利益が出ていたとしても、会社に現金、つまりキャッシュが残っていなければ、仕入に対する支払いや借入金の返済、従業員給与の支払いなどが滞り、経営破綻してしまうことがあるのです。それは、掛け売り(ツケ払い)の慣習によって、売上の計上の時期と、実際に企業に資金が入ってくる時期がずれることが当たり前だからという理由です。
つまり、企業がどれだけビジネス環境の変化に耐えられるかという情報は、貸借対照表や損益計算書だけでなく、実際の企業に残っている現金の流れを表したキャッシュフロー計算書を正確に読み解くことで、手に入れることができるのです。
一方、減価償却費とは、購入した固定資産の使用可能期間にしたがって、少しずつ費用を計上する時に使う勘定科目のことです。
なぜお金が毎年出ていくわけでもないのに、少しずつ費用を計上するのかというと、固定資産は使用していくうちに、古くなったり痛んだりして、少しずつ資産価値が落ちていくものだという考えに基づいています。例えば、建物を購入したとして、30年後もそれを同じ価格で市場に販売できるとは思えません。使用とともに、少しずつ古くなって市場価値が下がっていくからです。毎年、固定資産の使用可能期間(耐用年数といいます)に対応した減価償却費を計上することで、固定資産の価値が当期末現在でどれだけ下がっているかというのを、財務諸表上で表示することができるのです。
主な資産の耐用年数は、法律で定められています(法定耐用年数といいます)。例えば一概に建物と言っても、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造の建物は事務所用で50年、住宅用で47年となります。また木造の建物は事務所用で22年、住宅用で20年となります。なお、土地のように、時間の経過によって痛んだりすることがなく、価値が変わらないとされるものは、減価償却の対象になりません。
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キャッシュフロー計算書では、会社の資金の流れを、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3種類に分けて表示しています。
営業キャッシュフローは、直接法と間接法という二つの作成方法があります。直接法の営業キャッシュフローでは、原則として日々の資金の動きをすべて記録していきます。考え方は単純ですが、当然、実務のうえでは手間がかかります。特に大企業においては、毎日膨大な量の、営業に関する資金の出し入れが行われていると考えられるからです。
そこで、多くの企業が、間接法によって営業キャッシュフローを計算しています。間接法は、貸借対照表と損益計算書を元に作成していきます。
間接法の営業キャッシュフローでは、損益計算書上の税金等調整前当期純利益をスタートとして、まず減価償却費を加算します。次に売掛金と買掛金、棚卸資産の期首残高と期末残高の増減を加減算します。そうして、営業に関する資金の増減を計算するのです。
先ほど説明した通り、減価償却費という費用は、資金の流出とともに計上される項目ではありません。しかし、損益計算書上は、費用として、利益からマイナスされていると考えられます。つまり減価償却費は実際の資金流出なしに、費用として計上され、利益を押し下げている科目だと言えるのです。これを非資金費用といいます。先ほどの間接法では、税引前当期純利益から営業に関する科目を調整して、営業キャッシュフローを求めています。ここで減価償却費を税引前当期純利益に加算しなければ、資金の流出なしに押し下げられた利益と、資金の動きのずれを解消することができないのです。つまり、損益計算書上の税金等調整前当期純利益をスタートとして計算する間接法を取っている場合に限って、キャッシュフロー計算書で減価償却費が加算されるのです。キャッシュフロー計算書を間接的に作成するテクニックの一つとして、減価償却費が加算されると言えるでしょう。
今回は、キャッシュフロー計算書において減価償却費がなぜ加算される場合があるのかについて解説してきました。キャッシュフロー計算書の作り方と、減価償却費をはじめとする非資金科目の性質について理解すれば、より深くキャッシュフロー計算書を読み解くことができると思います。