労災が発生した際には、労働者の治療等を最優先にすすめるとともに、担当者は保険給付手続についても迅速に手続しなくてはなりません。労働者が安心して治療に専念できる環境を整えることが大切です。今回は企業の事務手続担当者へ向けて労災保険の手続に必要な書類や主な給付の概要について解説していきます。
まずは労災保険の種類と必要な書類を確認しておきましょう。労災には業務災害および通勤災害、第三者行為災害の3種類がありますが、ここでは業務災害の給付と書類を紹介しています。
療養補償給付(労災指定医療機関を利用した場合) | 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号) |
療養補償給付(労災指定医療機関以外を利用した場合) | 療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号) |
休業補償給付 | 休業補償給付支給請求書(様式第8号) |
傷病補償年金 | 傷病の状態等に関する報告書(様式第16号の2 |
障害補償給付 | 障害補償給付支給請求書(様式第10号) |
遺族補償給付 | 遺族補償年金支給請求書(様式第12号) |
葬祭料 | 葬祭料請求書(様式第16号) |
介護補償給付 | 介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号2の2) |
上記のように労災保険給付はたくさんの種類がありますが、主な給付に絞って概要を解説します。
医療機関で傷病の療養(診察や治療)を受けるときの給付です。通院のためにかかった交通費も一定の要件を満たすと支給されます。
労働者が療養のために働くことができず賃金を受けられないときの給付です。休業4日目から、1日につき給付基礎日額の80%(保険給付60%、特別支給金20%)が支給されます。
療養開始後1年6ヶ月を経過してもケガや病気が治らず、一定の障害等級に該当する場合には、等級に応じて年金、特別支給金、特別年金が支給されます。
傷病が治癒(症状固定)し、障害等級に該当する身体障害が残ったときの給付です。等級に応じて年金、特別支給金、特別年金、一時金が支給されます。
労災が原因で労働者が亡くなったとき、一定の条件を満たす遺族へ年金、特別一時金、特別年金が支給されます。
労災保険の手続に関する書類は、労働基準監督署に備え付けてあるものを直接もらうか、厚生労働省のホームページからダウンロードする方法があります。
労災が発生したときは会社として迅速な対応が求められますので、すぐに取り出せるように書類を準備しておくのがよいでしょう。
書類の提出先は、労災指定医療機関を受診する場合は当該医療機関の窓口となり、それ以外は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署です(二次健康診断等給付を除く)。
労災が発生し労働者が治療を受ける際に必要になる書類は、どの医療機関で受診したのかによって書類の種類と提出先が変わります。手続の流れや注意点とあわせて確認しましょう。
労働者は療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)を、指定医療機関の窓口へ提出します。窓口で治療費を支払う必要はありません。手続の基本的な流れは次のとおりです。
-労働者が指定医療機関を受診
-労働者が請求書(様式第5号)に記入
-会社(担当者)が請求書の必要事項等を確認し押印
-労働者が請求書を指定医療機関の窓口に提出
-請求書は指定医療機関を経由して労働基準監督署へ送られる
様式第5号を利用すれば手続が簡単で労働者が多額の費用を立て替える必要もないため、指定医療機関での受診が適切です。したがって労災が発生した際には、救急車での搬送が必要な重大災害を除き、会社が速やかに近隣の指定医療機関を探して治療を受けさせるのが望ましいでしょう。担当者としては指定医療病院を日ごろから把握しておくことをおすすめします。指定医療機関は厚生労働省のホームページで検索可能です。
出典:労災保険指定医療機関検索
/厚生労働省
労働者が医療機関の窓口で治療費を立て替え、あとで療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)によって請求することで、立て替えた費用の全額が戻ってきます。ただし労災なので健康保険は適用されず、窓口での立て替え費用は高額になります。やむをえず指定医療機関以外で受診する場合には、労働者にあらかじめその旨を伝えておきましょう。
また様式第7号の提出先は医療機関の窓口ではなく労働基準監督署です。様式第5号の提出先と異なりますので注意しましょう。ただし治療の際に医療機関の窓口で押印と領収書をもらっておく必要があります。
-労働者が治療を受ける
-労働者が窓口で費用を立て替える
-労働者が請求書(様式第7号)に記入
-労働者が医療機関の窓口で請求書の押印と領収書をもらう
-会社(担当者)が請求書の必要事項等を確認し押印
-労働者が労働基準監督署へ請求書を提出する
なお、いずれの医療機関を利用する場合も、当然労働者本人が書類を作成できない等の状況も考えられます。必要に応じて会社が手続を代行するなどして柔軟に対応しましょう。
労災保険の給付には状況に応じていくつもの種類があり、会社の担当者としては書類の作成や労働者への指示等を通じて適切に手続することが求められます。労災が発生したときには労働者の安全や健康を最優先にし、労働者の負担をできるだけ軽減するよう、日ごろから労災保険の手続内容を理解しておくのが望ましくあります。