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最近話題になった前例がないM&Aの事例について

公認会計士 荒井薫
最近話題になった前例がないM&Aの事例について

最近、公開企業において前例がないM&A事例が見られるようになりました。背景として、よりスピーディなビジネスモデルの変化による企業の選別が進んでいること、そして、市場が公開企業に求めるガバナンスのレベルが上がっていることが主要因だと理解しています。この記事では、そのようなM&Aの事例を分かり易く説明します。

多様化する公開企業のM&A

2015年3月、金融庁と東京証券取引所から、「コーポレートガバナンス・コード原案」が公表されました。以後、関連する上場規則が順次改正され今に至っています。
現在、公開企業は、各社がガバナンスコードに対する自社のスタンスを明確にすることを厳しく求められています。しかしながら、そのガバナンスコードの重要性に対する意識は、企業によってかなり差があるのも事実です。

一方で、GAFAと呼ばれるアメリカのグローバル企業が世界の勝ち組として、突き抜けた業績と影響力を武器に、事業モデルの進化をリードしています。
このような状況の中で、日本でも世界を見ながら果敢に攻めて進化する企業と、相変わらずぬるま湯につかった旧態依然とした経営を続けている企業とに二極分化しつつあります。
前者と後者は、お互いに無関心なわけではなく、攻める企業同士、攻める企業とぬるま湯につかった企業の間で、今までに前例がなかったM&Aの事例が出てきて、市場の注目を集めています。その中のいくつかの事例を説明したいと思います。

ユニゾホールディングスを巡って続くTOB

2019年7月10日、HISは記者会見を開き、ユニゾホールディングス(以下、ユニゾ)に対してTOBを実施すると発表しました。事の発端は、ユニゾ側が、HISからの事業提携等の申し出に対して一切応じる姿勢を示さなかったことでした。
ユニゾは、旧勧銀系の不動産会社であり、公開企業でありながら、このような状況に置かれたことがなく、代表取締役は銀行出身者であったことから、その対応は迷走に迷走を重ねました。その後、ユニゾに対しては、ソフトバンク系のアメリカのファンドであるフォートレスが買収に名乗りを上げて、その後10月にはブラックストーンも買収に名乗りを上げました。
当初、HISの買収価格は、1株当たり3,100円でしたが、HISは早々にTOB合戦の舞台から降りました。その後、フォートレス、ブラックストーンと外資系のファンドが買収の名乗りを上げる中で、ユニゾの経営陣は、支持する買収先を二転三転させて、ますます混迷の度合いを深めました。
その中で、買収価格は上がり、最後は1株当たり5,100円となりました。
現在、ユニゾは、ローンスターの支援を受けて日本の上場企業では初となるEBO(Employee Buy Out)に向けて社内では一応のコンセンサスが取れたようですが、依然として、フォートレスがTOB期間を延長していることから、このM&Aは、未だに継続案件となっています。

コクヨとぺんてるの実らなかった事業統合

2019年5月頃より、文房具メーカーとして日本で最大手のコクヨは、ファンドを通じてぺんてる側に通知することなく同社の創業家から株式を買い取りました。ぺんてる経営陣の反発を買う中で、一旦は、2019年9月24日にコクヨがぺんてるの株式を直接投資することに対して同社の一応の合意を取り付けましたが、その後もぺんてるの経営陣を中心に、コクヨに対する反発が続きました。

その後、11月に入り、ぺんてるとコクヨの間では機密情報の漏洩を巡り対立を深めていく中で、業界第2位のプラスが、ぺんてるの株式を1株3,500円で買い付けをしていることを明らかにしました。いわゆる、プラスは「ホワイトナイト」と呼ばれるポジションで、2社の対立の中に自らを投じたことになります。
最終的に、ぺんてるはプラスの株式買い付けを支持して、プラスとコクヨは、既存株主に対して50%のシェアを目指してますます対立を深めていきました。
結局、コクヨは50%超の株式を取得することは出来ず、ぺんてるの買収を諦めることとなりました。
この典型的なM&Aは、海外で売上を稼いでいるぺんてるを欲した海外市場で弱いコクヨの強引な手法に対して、非上場企業ながら、ぺんてるがホワイトナイトを連れて来て成功したという事例になります。典型的なM&Aですが、日本では中々見られなかったものでもあります。

Fintechの覇者争いが続くメルペイによるOrigamiの買収

乱立するQRコード決済事業者による体力勝負の覇権争いが熾烈を深める中、2019年11月、突然Lineとヤフーの経営統合が発表されました。それがトリガーとなり、決済事業で激化していた競争が、収束する方向に進む中でいくつかの業務提携が発表されていきました。
そして、2020年1月23日に、メルペイによるOrigamiの買収が発表されました。それ自体は、決済事業者の収束のトレンドの一つと見ることが出来ますが、市場の注目を集めたのは、その買収価格でした。

当初、メルペイは、Origamiの買収を発表した時には、その買収価格を明らかにしませんでした。公開企業であるメルカリの子会社のメルペイによる買収であることから、買収価格が明らかにされないことは異例でした。その後、様々なメディアによる本買収の裏側を探る取材が続き、最終的に明らかになったのは、メルペイによるOrigamiの買収価格は、1株ああたり1円だったという衝撃的な事実でした。

Origamiは買収される約半年前に、日本で有望なFintechベンチャーとして高く評価され、その企業価値は417億円とされていました。しかしながら、実際は、決済事業者による熾烈な体力競争の中、資金が急速に枯渇して、1月に発表されたメルペイによる買収は、実際は資金枯渇寸前の救済子会社化だったことが判明しました。
この買収事例は、有望ベンチャーでも目まぐるしく動く競争の中では、救済買収というExitしか選択肢がないという現実を明らかにしたことが衝撃でした。

まとめ

2020年3月初旬現在、日本を含めて世界中の市場が、コロナウイルスによる不透明な経済環境に翻弄されています。そのような状況なので、話題となるようなM&Aも瞬間的には下火になっているようです。
しかしながら、この混乱が収まりかけた時、再び、世界では進化する事業モデルを追って、より積極的なM&Aが続くことと思います。将来、CFOを目指すようなキャリアを考えている皆さんには、このトレンドを継続して注視していって欲しいと思います。

この記事を書いたライター

公認会計士としてIPO準備支援業務に従事後独立。M&A業務や中小企業支援業務を行い、その後事業会社のCFOに就任。ブランドプリペイドカード発行事業の立上げなど行う。現在は主に海外Fintech企業への日本市場のサポート業務などを行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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