ROAとは、総資産に対してどれくらい利益を獲得できたかを見る指標です。総資産利益率と呼ばれることもあります。
企業の収益性を高めるため、ROEに代わってROA(総資産利益率)の改善を目標にする企業が増加しつつあります。
内閣府が「未来投資戦略2017」のなかで、TOPIX500を構成する大企業において、2025年を目安に欧米企業と同水準のROAを目標にすると公言したことから、ROAの数値向上を目標とする企業が増えてきています。
この記事ではROAの概要とROEとの違い、ROAが目標として企業から注目されるようになった経緯、各業界におけるROAの平均値や目標値の目安について解説していきます。
ROAとは、Return On Assetsの略で、日本語では総資産利益率と訳されます。これは、総資産に対してどれくらい利益を獲得できたかを見る指標となります。
ROAの求め方としては、当期純利益を総資産で除して求められます。当期純利益は1年間の数字であることに対し、総資産は一時的な数字となるため、期末数値を用いずに期首と期末の平均値で算出されることが多いです。
総資産は、貸借対照表の借方で言えば資産合計となり、貸方で言えば負債・資本合計となります。資産合計から見れば、使われた資産がどれだけ効率的に利益を稼いだかという考え方になりますし、負債資本合計から見れば、内外から調達された資金がどれだけ効率的に利益を稼いだかとなりますが、どちらも結果は同じものとなります。
また、数値は高ければ高いほど効率的に利益を獲得しているとなり、低いと非効率であると一般的に言えます。
ROAを用いる局面は様々ですが、企業分析、買収、新事業計画等に用いられます。
まず、企業分析としては、主に投資家の目線で用いられます。
企業は株式を発行し、株主から預かった資本と金融機関からの借入等によって得られた資金を投資し、利益を獲得し、その利益の一部が配当になります。
よって、ROAが高い企業であればあるほど、株式投資に対する配当などのリターンを得られる可能性が高くなります。
また、企業買収の際にROAを用いることがあります。これは、買収予定の会社のROAが高ければ高いほど、買収金額をより早く回収できる可能性があると言えます。確かに、ROAが低くとも高い利益を誇る場合は魅力的に感じますが、見越している利益が将来であればあるほどリスクが生じるため、早期に回収できる会社の方が魅力的となる可能性があります。
さらに、新規事業計画策定の際にROAを用いることがあります。新規事業計画なので、使われる利益額も総資産金額も将来の予想となります。企業内に投資を行ってよいかどうかの判断の一つにROAを用いれば、取締役会等の際に説明資料として有用となります。
また、仮にROAが低くて投資を行わない判断になったとしても、投下資本の金額に問題があるのか、予定している利益金額に問題があるのかの原因を明確にすることで、再度計画を練り直すことができます。
先述の通りROAは効率性を表す指標ですが、これのみをもって企業の善し悪しを決めるのは危険です。というのも、利益が多額に出ている為ROAが高い水準が保たれていても、設立間もなく内部留保が少ない場合は注意が必要となってくるからです。
逆に、利益はそれなりにあっても歴史があり大資本である場合はROAが低くなるため、注意が必要です。
よって、ROAは指標の一つとして使い、それ以外の指標、例えば流動比率、固定比率、自己資本比率等の指標と合わせて判断をすることが大切です。
ROAの計算式は以下の通りです。
ROA(%)=当期純利益÷総資産×100
また、ROAは「売上高利益率×総資産回転率」からも求めることが可能です。つまり、ROAを高めるには次の方法が考えられます。
1)売上高利益率を高める
・総資産を減らす
・売上を増やす
2)総資産回転率を高める
・利益を増やす
・費用を減らす
利益額が増加するとROAは上昇します。利益を増加させる要因としては、売上高の増大、費用の減少等様々なものが考えられます。ここで、ROAを用いて判断する局面では、費用の減少よりも売上高の増大に着目したほうが有用な分析となるでしょう。
また、総資産額が減少するとROAは上昇します。総資産額を減らすと言うことは、単純に投資を減らすということが考えられますが、製造業等は投資を減らすことで利益水準も下がる可能性があります。
よって、単純に投資額を減らすのではなく、オンバランスすべき投資を減らしたり、ITの活用や人材の有効活用などによってオンバランスをしない投資を積極的に行ったりすることが考えられます。
ROAとROEの違いは、計算式の分母です。
ROAとROEの計算式を見比べてみましょう。
ROAとROEの計算式の分子はどちらも当期純利益で同じです。一方、ROAの計算式の分母は総資産で、ROEの計算式の分母は自己資本になります。
つまり、ROAは総資産を運用して利益をどれだけ計上できたかを示す指標であるのに対し、ROEは資産の一部である自己資本を運用して利益をどれだけ計上できたかを示す指標**という違いです。
2014年に経済産業省のプロジェクト報告書として公表された「伊藤レポート」にて、ROEにおける目標値の水準が8%と提案され、企業がROEに着目してその改善を目標としていた時期がありました。
その際に一部の企業が実践したのが、借入金で自社株を購入して自己資本を減らし、見た目のROEを上げるという方法です。
このように、本質的な経営改善に至ることない小手先の手口が流行したため、財務レバレッジや借入金(負債)に左右されない指標であるROAが注目されだして、前述した「未来投資戦略2017」によりROAの改善を目標に掲げる企業が増加しつつある経緯があります。
ROAの目標値はどのくらいを目指せばよいのかは、業種や企業の形態によって幅があります。そのためまず、日本政策金融公庫が公表している、各業種におけるROA(総資本経常利益率)の平均値を紹介します。
製造業:−0.1%
建設業:0.6%
サービス業:−1.6%
卸売・小売業:−0.9%
情報通信業:−5.0%
運輸業:1.2%
飲食店・宿泊業:−0.1%
医療・福祉業:−0.4%
教育・学習支援業:−3.2%出典:日本政策金融公庫「中小企業の経営等に関する調査」
平均数値がマイナスの業種がありますが、利益がなく総資産を超える損失が出ていると、ROAはマイナスになります。
ROAは、無借金経営の企業や時価総額が小さめの企業では高めに出る一方、優秀な企業であっても、たとえば不動産業のような借金が前提の事業や時価総額が大きめの企業では、どうしても低くなります。
そのため、ROAの目標値を設定するうえでは、同業他社の数値を調べ、一般的な数値とどの程度違うのかを押さえることが必要です。
アメリカの企業におけるROAの平均値は6%程度ですが、日本企業の平均値は3%程度です。そのため、日本企業ではROAの目標値を5%程度で設定しているところが多いです。
さらに、前述したように「未来投資戦略2017」ではROAの目標値を欧米基準に掲げていることから、将来的には6%程度が目標値となってくるのではないでしょうか。
前述した「伊藤レポート」では、ROEの目標値が8%と提案されました。ROAはROEに財務レバレッジを乗算することから、財務レバレッジは1〜2倍程度が健全な数字と考えると、ROAにおいて8%×1〜2=8〜16%程度を目標にするという考え方もできます。
理想的なのは、ROAが高い状態で、かつレバレッジをかけてROEも高い状態です。
ROA(総資産利益率)からは、企業が総資産を元手としてどれだけの利益を生んでいるかを見ることが可能です。
日本経済新聞による2019年9月27日時点での、日本国内で全国市場に上場している企業におけるROAランキング(上位10社)は次のようになります(ここではROAとして使用総資本経常利益率を使用)。
1位:カカクコム(サービス業) 52.84%
2位:ダブルスタンダード(サービス業) 46.33%
3位:ディップ(サービス業) 40.88%
4位:アカツキ(サービス業) 40.72%
5位:日本M&Aセンター(サービス業) 37.22%
6位:ブレインパッド(サービス業) 36.99%
7位:SECカーボン(窯業) 36.37%
8位:フィックスターズ(サービス業) 34.65%
9位:ZOZO(小売業) 34.36%
10位:スタジオアタオ(小売業) 33.76%出典:日本経済新聞 ROAランキング
上位10社中、サービス業が7社・小売業が2社で、製造業は窯業のわずか1社という内訳になっています。各企業の事業内容を紹介します。
カカクコム | サイト運営業。価格比較サイトの運営大手。 |
ダブルスタンダード | システム・ソフトウェア業。ネット上のビッグデータを解析・加工。 |
ディップ | 人材紹介・派遣業。「バイトル」などアルバイトサイト運営大手。 |
アカツキ | コンテンツ制作・配信業。「シンデレラナイン」などスマホゲームの運営・開発。 |
日本M&Aセンター | 企業向け専門サービス業。地方の金融機関などと連携し、中小企業向けにM&Aの仲介。 |
ブレインパッド | システム・ソフトウェア業。AIによるデータ分析にて顧客企業の経営改善をサポート。 |
SECカーボン | 窯業・土石製品。炭素製品メーカー。黒鉛電極の大手。 |
フィックスターズ | システム・ソフトウェア業。システムの高速化による顧客企業サポート。 |
ZOZO | サイト運営業。通販サイト「ZOZOTOWN」などを運営。 |
スタジオアタオ | 衣料品・服飾品小売業。バッグブランド「ATAO」を展開。 |
上記のROAランキングでは10社中3社がシステム・ソフトウェア業です。これは、ROAを求める数式の分母が総資産であることも関係しています。
システム業などのIT事業では、工場設営などの大型設備投資は不要なため、総資産が小さめになる傾向です。同じ利益なら分母(総資産)が小さいほうがROAは高くなるため、設備投資が必要な製造業などのほうがROAは低くなります。
しかし、ROAが高めに出るからといって、IT事業のほうが製造業より優れているという結論にはなりません。ROAのランキングを見るうえでは、総資産が小さくてすむ業種のほうがROAが高く出るという特徴を踏まえて、異業種ではなく同業種間でROAを比較するのがよいでしょう。
上記のROAランキングを50社に広げると、サービス業が35社、製造業は10社となります。次が50位内に入った製造業の内訳です。
内閣府の「年次経済財政報告(平成25年度版)」によると、日本の製造業におけるROAはアメリカやドイツよりも低い傾向です。理由として、売上高利益率が他国に比べて低いこと、特に中小企業の製造業において顕著であることが挙げられます。
売上高利益率が低いのには複数の理由が考えられますが、一因として設備の老朽化による低生産性があります。解決策として、アウトソーシングを活用すると企業の生産性が高まるという報告もあり、検討してみるとよいかもしれません。
ROAは総資産をベースとして企業の収益率を見る指標であり、負債の金額も反映されます。そのため、自己資本がベースのROEのように、借金による自社株買いで見た目上の数値を上げるという小手先の手口が使えないことから、企業の収益性を見る指標として注目されてきているのです。
ROAの目標値は、業種や企業の形態によって異なるため、目標値を決める際には、日本企業における一般的な目標値である5%を目安にしつつ、同業他社のROAを参考にしながら数値を設定するのがよいでしょう。
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