エンジニア、金融機関、スタートアップ企業のCFOとして幅広いキャリアを歩み、現在は今までの経験を生かし、ニッセイ・キャピタル株式会社のベンチャーキャピタリストとして活躍中の三野隆博さん。スタートアップのやりがいや、ベンチャーキャピタリストの仕事の醍醐味などHUPRO編集部がお話を聞いてきました。
―学生時代に起業したと伺いましたが、学生時代の様子を教えてください
高校卒業後、一度起業して個人事業主で働きながら、その後、横浜国立大学へ進学しました。そして、大学卒業後、2003年に新卒として、新光証券(現みずほ証券)に入社しました。
高校時代は大学で遺伝子工学を学びたく、大学受験をしましたが、希望の大学に合格が叶わなかったため、一旦大学進学を辞め、働き出しました。
当時、日雇い派遣で土方仕事などをしていましたが、もっと働きたい!と思い、その派遣会社に言って他の職場で契約社員として働かせてもらいました。
そこでは、高校時代から少し触っていたコンピューター(プログラミング)関連の仕事を行い、SEとして従事しました。その間大学に進学をしましたが、大学卒業までは、C言語のプログラマーやインフラ系のネットワークエンジニアとして働きました。
―大学入学前に社会人経験を積んでいるとは珍しいご経歴ですね。
実は高校までは将来は研究者になりたいと思っていましたが、高校卒業後にいざ働き始めて、金融や経営に興味をもったため、大学時代は個人事業主としてエンジニアをやりながら、大学では経営学部でファイナンスを専攻していました。
大学卒業後の進路として考えたのは、そのままSEとして働くか、あとはファイナンスに興味があったので、金融機関に就職するかの選択でした。SEとしてコンサルティングファームへの就職も考えましたが、金融機関は新卒時に入らないと、今後新しく入り直すことはなかなか難しいと思い、金融機関(現みずほ証券)を選びました。
―高校時代はエンジニア職に興味をもっていたのですか?
高校2年生か3年生の時に、たまたま友人からパソコンを安く譲ってもらい、パソコンを触りはじめたことがきっかけでした。そこからプログラミング等も始めて、自分のやりたいと思ったことに対して、パソコンでプログラミングを組めばそれができるということにとても強い関心持ちました。
―大学では理系に進もうとは考えなかったのですか?
もともと高校生までは理系の学生だったのですが、高校卒業後働き始めてから、会社経営に興味が出てきて、大学はファイナンスを専攻することにしました。
―新光証券(現みずほ証券)ではどういった業務をやりましたか?
入社1年目はリテール営業をしました。飛び込み営業もやりました。2年目以降は人員拡大もあり、キャピタルマーケット部門に部署異動があり、株式の引き受けや債券の引き受け等の資本市場周りの仕事をしていました。
大学時代に証券アナリスト試験に合格していたため、証券営業や資本市場部門として仕事を行う上での基礎知識は得ており、わりとスムーズに業務に取り組めて、ここでは7年間働きました。そして、その後は外資のモルガン・スタンレーMUFG証券に転職し、計15年間、金融機関にて資本市場周りの業務を行ないました。
―金融機関での仕事で、以前培ってきたプログラミングのスキルは役に立ちましたか?
思い返してみると、業務に活かせる機会が多々ありました。例えば、販売データの分析やレポート作成において、マクロを書く作業など、業務の効率化にとても役立ちました。
当時は通常業務のなかでわざわざマクロを書く人などいなかったので、周りのメンバーからデータ集計業務などを依頼されるケースが多かったです。ただ、プログラミングについては、目的ではなく、データ管理や分析など何かをするための手段の一つとして考えていました。
―金融機関2社経験後はスタートアップ企業に飛び込んだと伺いました
はい、次はスタートアップ企業のCFOとして、会計・経理周り全般、資金調達や投資家とのやり取りを主に行いました。他には、毎月の取締役会の報告や、就業規則や人事制度構築など、管理部門全般を見ていました。社員数は日米合わせて20名ほどで、管理部門は社員の方2名と私の3名体制でした。
―大手企業2社を経験した後、いきなりスタートアップに飛び込んで、やはりギャップはありましたか?
大学時代にエンジニアとして少人数のチームで仕事をやっていましたが、とにかく何でもやるという意味で、なんだかそのときに戻ったような感覚でした。大企業とは組織体や仕事の仕方は変わりますが、一度少人数の環境を経験していた分、スタートアップ企業でも始めから比較的スムーズに働くことができたと思います。
―スタートアップで大変だったことを教えてください
主に2つあります。まず、スタートアップの事業は不確実要素が多く、常に手探り状態なので、その中でどこに注力してやっていくのかの判断が難しい点と、もう一つは働くメンバーの心を一つにするという点です。
スタートアップでは、他が誰もやっていない領域もあり不確実要素が多く、正解がない中での選択肢がたくさんあります。それでも最後は一つに決めなければならない、そんな場面で、どうしても全員の同意を得られない場合もあります。それでも個々のメンバーが100%以上の力を出せる組織を作らなければ事業は上手くいきません。
また、みんなが一つのものに心から力を注いでくれるためには、トップが明確なビジョンを持ったビジョナリーであり続ける必要がありますが、これも想いだけでは限界がきてしまい、会社のためにはプロダクトや売上を作らなければなりません。そういった理想と現実のギャップはどうしてもあり、そこを埋めるのはやはり大変だと思います。
―スタートアップで仕事をする上でのやりがいを教えてください
やはり組織が小さい分、会社全体を見ることができた点ですね。CFOとして、財務に関する情報は全て見る必要がありますし、アクセスできる情報が多かったため、幅広く会社を見ることができました。営業サイドも距離が近い分関わることが多く、今の会社の足りないところに対処していくことにやりがいを感じました。
あとはスタートアップだからという訳ではないですが、そのスタートアップは本社がアメリカで、通常は日本拠点なので日本語でのやり取りでしたが、資金調達時のやり取りや取締役会の議事録など重要な資料になると全て英語になります。CFOとして業務を遂行する中で、英語と日本語の両方で対応していくことは大変でしたが、やりがいも同時にありましたね。
―スタートアップに転職する際、迷ったことはなかったですか?
スタートアップに転職するか悩んでいた時に、20歳〜60歳まで働くとすると、ちょうど折り返し地点に差し掛かったなと思い、今までとは違う何か新しいことをしようと強く思いました。
今までは金融がメインでしたが、昔やっていたエンジニア領域が自分の中の根本になっていて、それらの掛け合わせで自分の経験を活かせる環境と考えた結果、大きなジョブチェンジをしようと思いました。
―スタートアップのCFOを経て、現職のニッセイキャピタルではどのようなお仕事をしていますか?
ベンチャーキャピタリストとして、主に、シード・アーリー期のスタートアップ企業への投資業務を行なっています。自分自身がスタートアップにいたときのことを振り返ると、シード・アーリー期の会社の経営者で豊富な金融知識を持ち合わせている方は少なく、資本政策や事業計画を作成することにとても負荷がかかっています。金融まわりの資金調達など、本業ではないところでとても苦労している現状を見て、スタートアップエコシステムをさらに効率化させ、スタートアップの成長をより加速させることを目標に従事しています。
具体的な業務としては、投資先の事業計画をヒアリングして資本政策を議論したり、実際に市場調査や計画の数字に落とし込むところまで行い、事業計画の作成をお手伝いすることもあります。シード・アーリー期の会社はCFOの役割を担える人をなかなか確保できなくて、でも会社を大きくするためには絶対に必要な機能ですので、CFOの代わりとしてのお手伝いもしています。そして、我々が関わることで投資先企業の価値も上がってくれれば、お互いがwin-winな関係を築くことができます。
金融機関で働いている時は、ともすれば自分たちの取り分が多くなればどこかの会社の取り分が減る、というようにゼロサムゲーム的側面を感じていましたし、そんな時に、自分の今後の人生では、新たな価値を生み出すグロースサムの世界で時間を使っていきたいと思うようになりました。今はベンチャーキャピタルの立場で、投資先の事業が伸び、時価総額が上がれば、我々もクライアントもお互いがプラスになるという点で、どちらも同じ方向を見ることができます。ベンチャーキャピタルの仕事はここに一番のやりがいを感じます。企業やその経営者と一緒に成長していくことが大きな目標です。
―投資判断するときに経営者のどのあたりを見ていますか?
個人的なポイントは、経営者の掲げるビジョンやビジネスが社会的にどれくらいインパクトがあるかどうかを見ています。あとは、マーケットの中でどれくらい大きなポジションをつくっていけるのかをメインに見ています。 マーケットそのものを生み出すというのは、そんなに頻繁には起こせるものではないですが、新しい事業により、新たな収益構造となるものを作り出せるビジネスモデルはとても魅力的ですね。
―投資先の経営者の人間性は見ていますか?
大事だとは思うのですが、ビジョンやビジネスを語る姿に内包されていると思っています。今から20年ほど前は、今より景気が悪い状況で、大手企業に就職ができなかったから仕方なく起業するという人もある程度いたと思うのですが、今はそうではなく良い環境の会社に就職できるけどあえて就職せず、社会にインパクトを残し、より攻めたビジネスをするために起業しているという起業家が多いと感じています。そのため、実際にイベントとかで会ってお話してみてもとても素晴らしい方ばかりです。
―ベンチャーキャピタルとして活躍するためには何が重要ですか?
ベンチャーキャピタルとしての経験がまだ浅いので、これから気づくことも多々あると思いますが、事業に対する肌感覚はとても大事だと思います。創業者が掲げるビジョンの実現のためにファンドは資金を出し、それをどのようにリアルに落とし込むのか、そして、その際のビジョンからリアルまでの一連の流れの中でどれだけ付加価値を与えられるかが、ベンチャーキャピタルのとても重要な素養だと思います。
―今までの経験が具体的にどのように役に立っていますか?
そうですね。今までの経験があるからこそ、あまり違和感なく今の仕事のスタートが切れたというのはあると思います。ベンチャーキャピタリストの立場として、どれだけ色々な方と共通言語で話せるかが大事で、例えば、エンジニア出身の経営者と技術的な話で盛り上がることもありますし、CFOの方と細かい財務の数字の話をするときも、自分自身がCFOとして働いた経験が生きていると思います。今までの経験により、様々な引き出しが生まれ、それが現職での相互コミュニケーションにとても役立っています。
―これからの具体的なビジョンは?
転職活動している時にある方から「次の仕事をラストキャリアにできるか?」と質問されました。
今のベンチャーキャピタリストとしての仕事は、成果を出すために年単位で時間が掛かります。とてもやりがいがあり、自分にとってラストキャリアになっても良いと思える仕事に出会えたことがとても幸せです。今後、どれだけベンチャーキャピタリストとして成長できるか、そして、この仕事をライフワークにすることが今後の自分のビジョンと言えますね。
―三野さんにとってベンチャーキャピタルという仕事の魅力は何ですか?
一言で言うと「人の喜びが自分の喜びになること」です。困難な時期は当然あるわけですが、支援の有無にかかわらず、近くで見ているスタートアップが活躍してくれるのはとても嬉しいことです。そして、間近で会社の成長、個人の成長を見ることができたらとても幸せです。
―士業の方に対して期待することはありますか?
たまたま、通関士の方とお話しする機会があり、色々聞いていると、例えばTPPや原産地証明などの士業の方にとっては当たり前だけど、外側からは見えにくいところでビジネスに大きなインパクトをもたらす制度的変化が起こっていることに気づきました。
今後は、士業の方々が企業に対して事務領域だけでなく、法律が変わったタイミングでビジネス設計の支援など、クライアント企業をどのようにバリューアップしていってくれるのか、ということが注目されるのではないかと思います。
前述の通り、スタートアップにおいて、最初はビジョンと勢いで、そのあとリアルがついてきます。そして、さらにその後は士業の方が、税務面や法制面でビジネスの体系をうまくコントロールできると、もっとスタートアップは効率的に伸びていけると思います。
士業の方々の力で、ビジネスのバリューアップ速度が増すかもしれないですし、気づかなかったビジネスポテンシャルに気づくかもしれません。士業がビジネスサイドと緊密に連携していくやり方ができるともっと面白くなると思います。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回インタビューさせて頂いたベンチャーキャピタリストの三野 隆博さんが務める
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