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現物配当とは?現物配当の有効活用方法は?公認会計士が解説します!

公認会計士 大国光大
現物配当とは?現物配当の有効活用方法は?

投資家として企業に出資する場合には、株式の値上がりか配当によってその投資を回収しようと考えます。よって、株主は企業がどれだけ配当をするかに敏感です。
そこで、今回は現物配当とは?現物配当の有効活用方法について解説します。

現物配当とは

現物配当(現物分配)とは、企業が配当をする際に、現金ではなく物で配当をすることを言います。物であれば基本的にどんなものでも現物分配となるのですが、基本的には株式を配当することを現物分配ということがほとんどです。

現物分配が利用される場面

では、現物分配はどのような時に利用されるのでしょうか。
現物分配は、子会社の子会社、つまりは孫会社を子会社にするために使われることが多いです。

例えば、子会社が100%保有している孫会社の株式を全て親会社に配当として分配することが考えられます。通常、配当は株主総会等で残っている利益の中から現金で行われるのですが、現金の代わりに孫会社の株式を親会社に渡してしまうのです。すると、親会社は孫会社の株式を保有することとなるため、孫会社が今度は子会社になります。

現物分配のメリット

では、通常の配当ではなく、現物分配をすることにどのようなメリットがあるのでしょうか。

まず、現物分配をすることで先ほどお話した通り孫会社を子会社にすることができます。例えば通常の手順を踏むとすると、子会社が現金を親会社に配当をして、その配当金を基に親会社が孫会社の株式を購入することとなります。すると、回りくどい上に何度も資金移動をしなくてはならなくなります。

この点、現物分配を行えばスムーズに孫会社を子会社化することができます。
また、現物分配法人及び被現物分配法人が、いずれも内国法人であり、その現物分配を受ける側が、現物分配をする側との間に完全支配関係がある内国法人であれば、適格現物分配となり、資産や負債を時価評価せずにそのまま引き継ぐことができます(適格現物分配)

また、適格現物分配であれば配当に係る源泉徴収も不要となり、手続上の煩雑さから解放されます。これが、適格現物分配とならないと、資産と負債を時価評価することにより、無駄に課税されることがあります。

子会社が親会社株式を保有している時には現物分配

会社法上、子会社が親会社株式を持っている場合は、速やかに売却をすることが求められています。しかし、親会社が資金に余裕がない場合は子会社から株式を買うことができません。そこで、現物分配によって子会社が持っている親会社株式を親会社に配当として譲渡すれば親会社の資金を考慮しなくても済みます。また、わざわざ金銭のやり取りをすることもない為、手数料の節約にもなります。

子会社が親会社株式を保有している時には現物分配

現物分配をしない方が良いケース

では、現物分配をしない方が良い場合とはどのような場合でしょうか。
現物分配では、株式の移転をするのみですので先ほどのケースでいうと孫会社は子会社になったとしても何も中身は変わっていません。

例えば、孫会社が多額の欠損金を持っている場合、現物分配によって子会社になったとしても今後自身で利益を出さなければ特に節税にはなりません。これが、例えば孫会社とグループ内の会社が合併をして、今までの事業を継続した場合はその欠損金を利用できる可能性があります。

よって、利益の出ている会社とくっつけば、孫会社の赤字と合併した会社の黒字を相殺できることとなり、結果的に節税になる可能性があります。よって、組織再編で現物分配を選ぶ場合はグループ全体の利益や税金がどのようになるかを十分に考えて行うことが大切です。

現物分配の仕訳

では、現物分配をする際の仕訳はどのようになるでしょうか。適格現物分配と、非適格現物分配とにわけてみていきましょう。

適格現物分配の場合

適格現物分配の場合、現物分配をする側とされる側では次のような仕訳となります。

現物分配をする側

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
利益積立金 ×××× 有価証券 ××××

現物分配をされる側

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
有価証券 ×××× 受取配当金 ××××

このように、現物分配をする側では純資産と有価証券を減らす仕訳となり、譲渡損益は発生しません。また、現物分配をされる側では有価証券を増加させ、受取配当金を計上します。この時、受取配当金には源泉所得税は発生しませんし、税務上受取配当金は益金不算入となります。

非適格現物分配の場合

現物分配をする側

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
利益積立金 ×××× 有価証券 ××××
現金預金 ×××× 有価証券売却損 ××××
預り金(源泉所得税) ××××

現物分配をされる側

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
有価証券 ×××× 受取配当金 ××××
法人税等 ×××× 現金預金 ××××

このように現物分配をする側では有価証券売却損益を認識しますが、グループ法人税制に該当する場合はその譲渡損益は繰り延べられる為注意が必要です。また、適格現物配当と異なり、源泉徴収を行うことが必要となります。
現物分配をされる側では、受取配当金を時価で認識するとともに源泉所得税分法人税等が計上されるのも適格現物分配とは異なります。

まとめ

現物分配は主に組織再編によって利用される制度となりますが、合併等の方がメリットがある場合もあるため、グループ全体としてメリットがあるかどうかを判断した上で利用すると良いでしょう。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
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