「自分が亡くなったらどれくらいの相続税がかかるのか」、「自分の親の遺産を相続するときにどれくらいの相続税がかかるのか」等気にされている方も多いと思います。特に、平成27年以降は相続税の基礎控除額がそれまでよりも減少したため相続税のかかる方が増えています。今回は、相続税額計算の概要と財産評価について税理士が解説していきます。
まず、Step1で課税価格の算出を行いますが、具体的には以下のように課税価格を算出していきます。
本来の相続財産とは、被相続人が亡くなられた時点で所有していた財産をいいます。
土地、建物、株式、現金、預貯金等が代表例ですが、例えば、被相続人以外の親族名義の預貯金でも実質的に被相続人が管理支配していたもの(名義預金)なども含まれます。名義預金が相続財産に含まれていないという指摘は相続税の税務調査でも多いので名義にとらわれずにしっかり集計する必要があります。
これら相続財産は被相続人の死亡時点での時価で評価されます。現金や預貯金は死亡時の残高がそのまま相続財産の評価額になりますが、土地、建物、非上場の株式等などは時価がいくらなのか容易に判断が困難です。そこでこれらは、実務上は国税庁が公表している財産評価基本通達に示されている評価方法で評価していくことになります。
みなし相続財産とは、被相続人の死亡に伴って支払われる死亡保険金や死亡退職金等で相続によって取得したとみなされる財産をいいます。
これらみなし相続財産については、その全額が評価額とはならず、死亡保険金や死亡退職金ごとに、非課税枠(法定相続人の人数×500万円)がもうけられています。
非課税財産とは、墓地、仏壇等、社会政策的な見地・国民感情から課税されないものをいいます。
債務・葬式費用は、いわゆるマイナスの財産を意味し、課税価格の計算上控除することができます。
債務としては、被相続人の死亡の時点で確定しているものをいい、借入金、未払金、未納の公租公課等が代表例です。ただし、非課税財産に係る債務として墓地購入未払金等は控除できる債務に含められないので注意が必要です。
葬式費用としては、寺へのお布施、本葬式費用、仮葬式費用、通夜費用が代表例です。お布施などは領収書がないケースも多いので相続人はどのお寺にいついくら支払ったかをしっかりメモしておく等が必要です。ただし、香典返礼費用、墓地購入費用、初七日法会費用等、控除できないもののもありますので注意が必要です。
相続開始前3年以内贈与財産とは、相続で財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産をいいます。
通常の暦年贈与の場合、1年間110万円までの贈与は贈与税がかかりません。しかし、110万円以下の贈与で贈与税がかからなかった場合でも被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与を受けていれば相続開始前3年以内贈与財産に含まれて課税価格に加算される点に注意が必要です。110万円超で贈与税で贈与税の申告をしている場合は申告書から贈与財産を把握できますが、110万円以下で贈与税の申告をしていない場合は、被相続人の死亡前3年間の預金通帳から支出履歴を追う等により贈与財産がないかのチェックをしていきます。
相続時精算課税による贈与財産とは、被相続人から、生前に相続時精算課税により贈与を受けた財産をいいます。
なお、相続開始前3年以内贈与財産・相続時精算課税による贈与財産は、被相続人の死亡の時点での時価ではなく、贈与時の時価で課税価格に加算されます。
ここでは、本来の相続財産の箇所で登場した国税庁が公表している財産評価基本通達で示されている不動産の評価方法について簡単に解説していこうと思います。
財産評価基本通達では、土地は原則としてその地目(宅地、田、畑、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地、雑種地)ごとに評価することとされています(財産評価基本通達7)。
登場頻度が高い宅地の評価方法は➀路線価方式、②倍率方式の2通りに分けられます。
評価対象地の地域について路線価が定められていれば路線価方式で、路線価が定められていない場合は倍率方式で評価します。
路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額(千円単位)のことをいい、国税庁が公表する路線価図で確認することができます。
国税庁HP:路線価図リンク
家屋の評価方法は土地よりもシンプルで、以下の通り固定資産税評価額がそのまま評価額になります(ただし、貸家の場合は一定の評価減あり)。
上記算式の固定資産税評価額のところを固定資産税課税標準額として計算してしまうミスが多いので注意が必要です。
次に、Step2で相続税額の総額の算出を行いますが手順は以下の通りです。
ここで重要なのが基礎控除額の算出です。Step1で算定された課税価格が基礎控除額以下であれば課税遺産総額はゼロとなり、相続税はかからないことになります。
基礎控除額は以下の通り平成27年以降はそれまでよりも減少していますので、相続税がかかる人が増えているというわけです。
上記算式より、法定相続人の数が増えれば基礎控除額も増える仕組みとなっていますので、例えば、養子を増やすことで基礎控除額を増やし相続税の負担を減少させる行為が考えられます。こうした養子を用いた相続税の負担減少を制限するため、養子については以下の通り、法定相続人の数への算入制限が設けられています。
実子がいる場合:養子は1人まで法定相続人に含めることができる
実子がいない場合:養子は2人まで法定相続人に含めることができる
なお、②では実際の相続割合ではなく、あくまでも法定相続分で相続したと仮定して計算することになっています。
最後に、Step2で算出した相続税額の総額を各人の実際の相続割合で按分して相続人等の各人別の納付税額の算出を行います。
各人の実際の相続割合は、実際に相続が発生した後にならないと確定しない部分が多いため、生前に行う相続税がかかるかどうかのシミュレーションはStep2までやることが多いです。
相続税に限りませんが、相続が起きてしまったあとではできる対策も限られてきます。よって生前での相続対策が求められます。一口に相続対策といっても➀相続税がかかるかどうかのシミュレーション、②納税資金準備のための対策(生命保険等)、③生前贈与による対策、④いわゆる争族対策(遺言の作成等)、⑤不動産対策等多岐にわたります。
相続税がかかるかどうか不安な方は、まずは今回ご紹介したようなシミュレーションを早期に行い、相続税がかかりそうな場合、具体的にどのような相続対策が必要かを検討していく必要があります。
相続税がかかるかどうかのシミュレーションは以下の国税庁HPにある相続税の申告要否判定コーナーが役立ちます。
国税庁HP:相続税の申告要否判定コーナー