流通業とは一般的には小売業と卸業を合わせた業界となっていますが、商品の種類が他の業種に比べて多いことが特徴的な業界です。それに伴い管理会計上の対応も他の業界と比較して異なっています。今回は流通業界における管理会計上の課題と解決策について見ていきましょう。
流通業は広く言ってしまえば小売業と卸業なのですが、さらに細分化していくと非常に多くの業態から出来ています。例えば、スーパーマーケット、100円ショップ、百貨店、アパレル店、多店舗展開しているチェーン店、魚の卸業者、などです。どれも一般的な消費者に近しい業態ですので、みなさんにも馴染みがあると思います。これらの業界は、消費者との距離が近いことで金額変更のスピードが速い、取扱品目が多いなどといった特徴があります。
アパレル業界において管理会計で注意すべき点は、どんな商品がなぜ売れたのかを分析できるデータを提供できるようにすることが重要ポイントの一つです。1日にA商品が〇点、B商品が〇点、売れてその原価は〇円でした、というだけでは不十分となります。展示方法、時間帯、天気・気温、SNSなどの流行、客層、色、デザインなど複合的な要素を管理会計上把握できるようにシステム設計しておくことが、攻めのアパレル経営には必要な要素です。
食品、日用雑貨、など多品種を扱っている卸業者は通常仕入先と卸先の取引先数も多数となります。また、取引先ごとに条件が異なっていたり、仕入先から割引を受けられたり、卸先へ値引き販売をしたりと条件の複雑性もあります。以上から卸売業の管理会計上の課題は、品目と取引先数の多さ、条件の複雑性において管理が行き渡らなくなる点が挙げられます。もし管理が甘くなってしまった場合には、赤字販売やキャッシュフローマネジメントが難しくなってしまうなど、付随してたくさんの課題が生まれてしまうかもしれません。卸売業は歴史の古い会社も増え、システム化が進んでいない現状もありますが、今後の効率的な事業運営のためにもしっかりと対応をする必要がある業界だと思われます。
多店舗展開をしている業界はたくさんありますが、コンビニエンスストア、家具のチェーン店、眼鏡チェーン店、などが挙げられます。多店舗展開をしている場合、当然に店舗ごとの採算性を確認するために、店舗ごとの売上高、売上原価、売上総利益、販売費および一般管理費、営業利益の計算は必須です。ここで販売費および一般管理にどこまでを含めればよいのかが課題となります。例えば、本社が負担しているTVCMの広告宣伝費、本社から派遣している人の人件費、本社システムを使っていることのシステム利用料、経理管理会計の業務委託料などです。これらの本社費用を適切な基準に従い、各店舗に配賦計算しないことには真の営業利益を把握することは難しくなります。店舗だけでみるとぎりぎり黒字の場合、本社費用を負担してしまうと営業赤字になるなど、店舗の撤退戦略にも影響してくる場合もあります。
小売店は店舗だけで売っている業態はどんどん少なくなってきており、ネット販売と店舗販売の両方で売ることが多くなってきました。同じ商品でもネット経由と店舗経由では、買われる理由が異なる場合があり、管理会計上もその理由が分かるように設計することが必要です。ネットであれば、SNSでの情報拡散レベルや有名人の発言、GoogleやYahooといったネット広告の運用やアフィリエイト広告、店舗であれば天候、近くの交通量、競合店の有無などがしっかり把握できるようになることが大切です。ネット販売と店舗販売の両者を独立して管理してしまうと、せっかくのシナジーが台無しになってしまうため、密接に分析できるよう複合的なデータ設計を行う必要があります。
いままで見てきたとおり、流通業にはたくさんの種類があり、それぞれに応じた管理会計上の課題があります。すべてを解決できるシステムや仕組みがあれば良いのですが残念ながらありません。基本的な会計の仕組みが成り立っていることを前提とし、ここからどのような課題を解決すればより良くなるのかを考えながら、管理会計のプロセスを組み立てる必要があります。課題が見えていない場合は、一度、全プロセスを業務フローに落として細かく見ていくと良いでしょう。また、従業員や顧客に対するインタビューも課題の特定には有効的です。管理会計と言葉で聞くと何やら難しそう、守りのイメージがしますが、実は経営戦略上、非常に有益なデータを提供できる仕組みがあるため、トップラインを伸ばすことにもつながります。まずは一度自社の業務フローを見直し、課題を特定し、課題解決できるような管理会計の仕組みを入れることを検討してみてはいかがでしょうか。