原価計算には様々な方法があります。原価計算の目的は財務諸表の作成のため、原価を把握することで売価や予算、経営の意思を決定するため等と多岐に渡り、企業にとってとても大事なものです。
今回は全部原価計算や標準原価計算と比較をしながら、直接原価計算について解説をしていきます。
全部原価計算とは、実際に発生した原価を集計する原価計算方法です。
全部原価計算の方法は、まず費用別原価計算として実際に掛かった材料費、労務費、経費を直接費と間接費に分けて計算します。次に部門別原価計算として、費目別に計算した原価を、製造部門毎に計算します。最後に製品別原価計算として、直接材料費と直接労務費は、直接製品に賦課、製造部門毎の製造間接費は、製品別に按分をすることで原価を製品毎に製造原価を計算します。
標準原価計算とは、あらかじめ目標とする原価標準を計算し、その原価標準に対して実際に発生した原価と比較し差異を求め、その差異を月末や期末等の一定期間経過後に計上をする原価計算方法です。
標準原価計算では合理的な目標となる原価標準を定めることが重要であり、非合理的な原価標準を定めてしまうと、差異として計上すべき金額が大きくなってしまいます。
標準原価計算の方法は、まず原価標準を計算します。材料費、労務費、経費を様々な情報を基に推測し原価を製品毎に計算します。次に原価標準を実際の生産量に乗じて標準原価を計算します。この標準原価を上記の全部原価計算で計算される実際原価と比較をして差異を計算します。最後にその差異について会計処理、又原価差異分析や対策案の作成を行います。
直接原価計算とは、全部原価計算と同じように実際に掛かった費用を集計しますが、固定費は製造原価に含めず、期間費用として発生額全額を集計して計算をする原価計算方法です。
固定費とは製造数量、販売数量に関わらず必ず掛かる費用をいい、これに対して製造数量や販売数量に比例してかかる費用を変動費といいます。
直接原価計算の方法は、固定費を除くこと意外は製造原価の計算までは全部原価計算と同様に行います。固定費を除くことから、全部原価計算により計算される製造原価とは金額に差異が発生します。この差異は固定費調整として会計処理が必要です。
損益計算書は企業の一定期間の経営成績を表す財務諸表です。売上や売上原価等を表示して利益の発生原因を示すものです。
直接原価計算による損益計算書は表示の方法が異なります。損益計算書は一般的には売上高から売上原価を差し引いて売上総利益を表示し、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて営業利益が表示をされます。この表示方式は全部原価計算の場合でも同様です。
しかし直接原価計算による営業利益の表示方法は異なります。売上高から変動売上原価を差し引いて製造マージンを表示し、製造マージンから変動販売費を差し引いて貢献利益を表示し、更に固定製造原価、固定販売費、固定一般管理費を差し引いて営業利益が表示されます。
また全部原価計算による損益計算書と直接原価計算による損益計算書は、同じ製造活動を行った場合であっても、表示される営業利益の金額が異なります。
全部原価計算による固定費は、製造原価に含めて計算をされるため販売をされた時点で費用に計上をされます。よって当期中に販売していない製品に係る固定費は次期の製品の原価に含まれることになります。
一方で直接原価計算による固定費は、期間費用として計算をし、販売をされた時点ではなく発生した時点で費用に計上をされます。
このように固定費製造費用に違いがあるため、同じ製造活動を行った場合であっても、表示される営業利益の金額が異なります。
原価計算を行うにあたり直接原価計算を採用することは固定費を分けて計算する、損益計算書の表示項目が多くなる等の経理事務上で手間が掛かるというデメリットもありますが、経営分析の点ではメリットの多い方法です。
例えば経営分析の方法のひとつとして損益分岐点分析というものがあります。これは売上や費用から損でも利益でもない時点を計算し、その結果に基づいて企業の現況や予測を分析するものです。
損益分岐点は直接原価計算により作成をされた損益計算書により計算をすることが出来、損益分岐点を達成するための販売数量が分かります。
売上高から変動売上原価を差し引いた製造マージンは、限界利益と呼ばれます。そしてその他の費用を限界利益で除したものが、損益分岐点を達成するための売上数量となります。
以上のように直接原価計算について解説をしました。製造形態により適した原価計算方法が異なること、原価計算を行うにあたり製造工程の把握や会計の知識が必要となること等から、原価の管理は難しいと考える人が多くいます。
しかし原価を正しく把握することは正しい財務諸表の作成や経営分析を行うために、企業にとってはとても大事なものです。是非参考になさってください。