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海外勤務の役員の納税はどうする?

公認会計士 大国光大
海外勤務の役員の納税はどうする?

海外勤務をすると日本とは違うことに色々と悩むことがあるかもしれません。頭を悩ませることの一つが納税です。国による違いもありますが、そもそも日本での納税をどうすれば良いかがわからない人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、海外勤務の役員の納税について解説します。

居住者と非居住者

まず、海外勤務と言っても全ての人が困るわけではなく、短期的に海外に出張に行く人は通常通りにしておけばよいのです。そこで考え方として大事なのは、居住者非居住者という概念です。
居住者とは、国内に住所があるか、現在まで引き続き1年以上「居住」を有する人を言います。居住者以外の人を非居住者と言います。
住所というのは、生活の拠点であるかどうかであり、住民票があるかどうかだけでは判断されません。水道代を払っているか、手紙のやり取りをその地で行っているか等、客観的な要素を組み合わせて判定されます。
また、居所を有するというのは、その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所とされています。

どちらにしても、名義だけその人の所有する住宅であっても意味がなく、逆に名義がその人の物でなくとも実際に住んでいることが明らかであれば居住者となります。
また、実務上は1年のうち半分以上を日本で過ごす人は居住者となり、それ未満であれば非居住者となることが多いです。
ただし、勤務先の国と日本では居住者かどうかの判定が異なり二重で所得税が課税されることを防止するために、それぞれの国で租税条約を結んでいます。例えば、①恒久的住居の場所②利害関係の中心がある場所③常用の住居の場所④国籍という順番に判断し、どちらの国で居住者となるかを判定する場合があります。

役員ではない人が海外勤務をした際にする納税

海外勤務で1年のほとんどを海外で過ごす人の場合、納税はどのようになるでしょうか。
1年以上の予定で勤務する予定の給与所得者の場合、国内に住所が無いと推定されるため、日本では非居住者となります。
非居住者の場合、日本から給与を受け取っても海外勤務をしている場合は原則として日本の所得税が課税されず、その国の税法に従って納税等を行うこととなります。

海外勤務する役員の納税は?

一方で同じように海外勤務する人であっても日本法人の役員の場合は源泉徴収をされることとなります。給与総額の20.42%(復興特別所得税0.42%を含む)を源泉徴収しなければなりません。
これは、日本の役員である場合は海外勤務しているとはいえ、日本の法人の為に勤務しているとみられるため、日本法人の利益に寄与していると考えられるためです。しかし、取締役支店長のように、その会社の使用人とみなされている人については役員に含まれず、あくまでも経営陣としての役員に限られます。
また、従業員という立場であれば会社命令で海外勤務をすることになり恣意性が介入しづらいのですが、役員であればその立場を利用して日本の所得税を免れようと非居住者となって所得税率の低い海外勤務にしてしまう可能性があるため、このような扱いが行われているということも考えられます。

例を使って解説

では具体的に役員が海外勤務した場合の納税関係を解説します。
日本で常務取締役を務めるAさんは、日本法人で1,000万円、ベトナムの子会社で800万円支給されるとします。このような場合、日本法人では1000万円の20.42%である2,042,000円を源泉所得税として差し引かれ、ベトナムで支給される800万円はベトナムでの税法に沿って課税されることとなりますが、最終的には合算した1800万円の所得があるとしてベトナムで申告する必要があります。
では、源泉徴収されたこの204万円はどのようになるのでしょうか?確定申告をしなければならないのでしょうか。
答えは、そのまま何もしなくても良いこととなります。そもそも20.42%という源泉徴収額はとても大きく、給与が1000万円の人であれば所得税は100万円にも満たない為そもそも多く税金が取られているのです。

源泉徴収された分は損している!?

ちなみに先ほどの例で、日本で204万円源泉徴収をされたとしても、ベトナムでは1800万円の収入がある人として申告をしなければなりません。つまり、日本で支払われている1000万円は二重で課税されてしまうこととなります。
そこで、租税条約を結んでいる国においては、その二重課税を防止するために204万円をベトナムで支払うべき税金から差し引くことができます。
よって、源泉所得税として差し引かれたものについても個人にとっては損しておらず、しっかりと海外勤務地において納税したことと同じように扱われるので安心してください。

まとめ

海外勤務する役員は日本法人から支払われる報酬に対して源泉徴収を行わなければなりません。しかし、原則として源泉徴収されても勤務先の国で確定申告をすればその源泉所得税も考慮してもらえるため、確定申告の行い方については海外勤務先の税理士によく聞いておきましょう。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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