「内部監査」とは、企業や組織の内部の人間が行う監査のことです。最近では会計監査だけでなく、業務における不正・誤りの発見と防止、経営全般についての評価・検証なども含めて行うようになり、企業においてその重要性が高まりつつある状況です。
本記事では、企業における内部監査とはどのようなものなのか、果たすべき役割や目的・意義について解説します。あわせて、今後内部監査へのキャリアを目指す人に役立つ資格や転職活動時のコツも紹介するので、最後まで参考にしてください。
内部監査とは、内部統制システムの一環として、企業側が主体的に実施する社内における監査のこと。
日本内部監査協会によると、内部監査の定義とは以下の通りです。
内部監査は、組織体の運営に関し価値を付加し、また改善するために行われる、独立にして、客観的なアシュアランスおよびコンサルティング活動である。内部監査は、組織体の目標の達成に役立つことにある。このためにリスク・マネジメント、コントロールおよびガバナンスの各プロセスの有効性の評価、改善を、内部監査の専門職として規律ある姿勢で体系的な手法をもって行う。 出典:内部監査の定義|一般社団法人日本内部監査協会
内部監査というと、まるで不正を摘発されるようなイメージがありますが、実際はそうではありません。本来の目的は、業務運営が適切に行われているかどうかを確認した上で、さらなる業務改善に結びつけることにあります。
それでは、内部監査とはどのようなものなのか、目的や役割などについてさらに具体的に見ていきましょう。
そもそも、企業における監査には”三様監査”と呼ばれるものがあり、次のように内部監査・監査役監査・会計監査人監査の3種類に区別されます。
このように、監査は「誰がどのような立場から実施するのか」という観点で区別されるものであり、この視点は内部監査がどのような位置付けのものかを理解するのに役立ちます。
つまり、外部の組織・機関が第三者的な立場から実施するものではなく、あくまでも社内で構築した内部統制システムの一環として内部監査が位置付けられるというイメージです。
ただし、近年組織の在り方が多様化し、各部門の関係性・独立性は企業によって異なります。内部統制の一環として設置された部門が高度な社内独立性を保っていることもあれば、比較的社内との関係が密な外部機関が存在することも。そして、三様監査がそれぞれ連携し合って会社の経営基盤の適正化が目指されていることが何より重要です。画一的に監査レベルを棲み分けできるわけではないという点にご注意ください。
既に紹介したように、内部監査は内部統制システムの一環として「企業の自律性」という観点から役割を果たすものです。
内部監査については、原則として組織体すべての業務活動が網羅される必要があり、特に次に掲げる事項についての監査業務又は診断業務が含まれていなければなりません。ここからは、内部監査が果たす役割・内部監査が設置される意義について詳しく見ていきましょう。
内部監査部門は、重大な潜在的リスクの識別と検討評価、またリスクマネジメント及びコントロールシステムの改善に貢献することで、組織体の維持発展に寄与することが求められています。
そのために内部監査部門では、組織におけるリスク・マネジメント・システムの有効性を評価し組織のガバナンス強化の実施、及び情報システムに関する潜在的リスクを検討・評価しなければなりません。
内部監査部門は、組織体が効果的なコントロール手段を維持するよう貢献する必要があります。
リスク評価の結果に基づき、組織体のガバナンス業務の実施及び情報システム全般にわたるコントロール手段の妥当性と有効性を評価するのですが、それ自体が妥当な評価基準である野かどうかの判断も必要です。
内部監査で重要なのは、組織体における倫理的な価値観を浸透させ、組織的業務管理と説明責任を確保し、リスクとコントロールに関する情報について、ガバナンスのプロセス改善にむけた適切な対処を行うことです。
ただし、一口に内部監査と言っても、それに対する期待やその内容の整備・充実の程度によって必ずしも一様ではないため、内部監査人に期待される役割は企業によって異なります。
内部監査は、法定監査ではないのでその範囲や調査内容については企業によって自由に決めることができます。
社団法人日本内部監査協会では、次のように内部監査に期待される役割をまとめています。
⑴ 経営目標および最高経営者が認識しているリスクの組織体全体への浸透
⑵ ビジネス・リスクに対応した有効なコントロールの充実・促進
⑶ 内部統制の目標の効果的な達成(法定監査の実施に資することを含む)
⑷ 組織体の各階層にある管理者の支援
⑸ 部門間の連携の確保等による経営活動の合理化の促進
⑹ 組織体集団の管理方針の確立と周知徹底
⑺ 事業活動の国際化に対応した在外事業拠点への貢献
⑻ 情報システムの効果的な運用の促進
⑼ 効果的な環境管理システムの確立
出典:社団法人日本内部監査協会『内部監査基準』
このように、大まかにいえば、内部監査は、業務効率の増進、コンプライアンスの重視、従業員不正の防止を目的としています。こうしたことを踏まえて、内部監査についてはリスクの優先順位を設けた上で年間の監査計画を立てていき、監査を実施していきます。
さらに、指摘事項や改善提案事項については、対象部門や関連部門がどのような改善是正措置を講じたかに関して、継続的に調査確認するためのフォローアップを行います
一般的に、内部監査は次の手順で実施されます。ただし、企業ごとに部門設定や手続きの流れを個別具体的に定めているので、内部監査業務に携わった場合には企業内マニュアルを遵守しましょう。
内部監査はあくまでも自社内におけるチェックプロセスです。つまり、不正を暴露することが主たる目的ではなく、「経営改善に役立つためにはどうすれば良いのか」という点が最優先課題とされます。
したがって、第三者機関とは異なり、内部監査実施機関は客観的な状況分析だけではなく、今後の企業成長に役立てるために積極的な改善アクションをも担当することに。内部監査機関が適切に運用されれば、結果として業績の向上までも期待されるということです。
内部監査役は、基本的には経営者に従属する会社の機関です。企業外部の監査人が行なう監査ではないため、自己監査ということになります。そのため、目的に対して何らかの課題・問題が会社内で発見された場合には、これを経営者に報告し、改善を求めます。
ただし、内部監査役は、組織上、最高経営者に直属し、職務上取締役会から指示を受けると同時に、取締役会および監査役(会)または監査委員会への報告経路を確保しておく必要があります。なぜなら、経営者が会社にとって問題となっていることもあるからです。その場合には、内部監査役は、経営者ではなく、取締役会や監査役に問題を報告することになります。
内部監査役は、経営者からの独立性は担保されていないものの、経営者以外の部署からは基本的に独立しており、業務監査の専門性が要求される仕事です。内部監査は、会社に設置された内部監査室によって実施され、内部監査室長がその責任者となります。内部監査室では、内部監査計画を立案し、年間を通して、それにしたがって監査を実施します。
ただし、必要であると判断した場合には、抜き打ちでの内部監査をするケースもあります。しかしながら、内部監査人は経営者の部下であるので、経営者に対して誠実性を検証することができません。「経営者の意向に沿った行動ができるのみ」という点に、内部監査人の限界が認められると考えられるでしょう。
内部監査について深く理解をするためには、類似概念・混同しやすい用語との比較が有用です。
そこで、内部監査と混同しがちな外部監査・内部統制との違いについて具体的に見ていきましょう。
外部監査については、法定監査(会社法、金融商品取引法等)と任意監査(法定要件を満たさない場合の外部監査人監査)が該当します。
そのうち、金融商品取引法に基づく法定監査には、下記の2つがあります。
名前が似ているので混同されがちですが、「内部統制監査」は「外部監査」なので間違えないようにしましょう。
内部監査とは企業内で組織体内部により実施されるものであり、以下の2つが該当します。
・監査役による法定監査(監査役監査)
※監査役監査を内部監査とすることについては諸説ありますが(外部監査もしくは両方に含めないと言う説もあります)ここでは、内部監査に分類しています。
・内部監査(業務・会計監査)
法定監査である監査役監査に比べ、内部監査は、法定監査ではなく、企業に設置された内部監査部門が対応するもので、以下の2つについて監査業務を行っています。
内部統制監査は公認会計士や監査法人が行いますが、その報告をするために内部統制を整備したり、内部監査によってチェックしたりするのも内部管理部門の役目です。
内部統制とは、健全な企業運営を維持するために定められている企業の全ルールを総称する考え方のこと。つまり、「内部監査は内部統制に含まれる」「内部統制の一環として内部監査が実施される」という包摂関係だと捉えることができます。
たとえば、適切な内部統制システムを構築するためには、次の6つのポイントを押さえる必要があると言われています。
ここから分かるように、内部監査で重視されるポイントは、内部統制が目標とするものばかり。内部統制システムの構築という理念で掲げられるものを、監査の場面で具体化・体現するのが内部監査だということです。
したがって、内部監査と内部統制は切っても切り離せないものだとご理解ください。なお、内部統制と内部監査の違いについては以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
ここまで紹介したように、内部監査の業務は経営と密接に関連したものでありながら、同時に、監査に関する専門知見を客観的に投入する必要がある難易度の高い業務です。これから会計・経理業界でキャリアアップを目指す人のなかにも、内部監査業務を担当したいと希望する人は少なくないでしょう。
そこで、ここからは、内部監査のキャリアを目指す人のために役立つ資格や転職活動で役立つポイントを紹介します。
内部監査へのキャリアアップを目標に転職を希望している人のなかには、完全な未経験だという人もいるはず。ファーストステップとしての内部監査はいっけんハードルが高いようにも思えるでしょう。
ただ、監査業界は基本的に人材不足に悩まされている業界。つまり、未経験であったとしても、今後の成長が期待できる人であれば、積極的に採用される可能性が高いということです。
そこで、これから内部監査にチャレンジする人が転職活動時に押さえておくべきポイントは次の3点です。
・説得力のある志望動機を作成する
・採用面接でのアピール力
・スキル証明になる資格の取得
なお、未経験者が内部監査にチャレンジするためのポイントについては、以下のコラムでも詳しく紹介しています。あわせて参考にしてください。
転職採用では、やはり将来性のある人材が重用されるもの。企業側にとって価値ある人材だとアピールするために、内部監査へのキャリアを希望する人は次の資格を取得するのがおすすめです。
・公認内部監査人(CIA)
・内部監査士(QIA)
・内部統制評価指導士(CCSA)
これらの資格の詳細については以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせてご参考ください。
内部監査部門は、企業によっては、かつては営業の第一線を退いた人の異動先となっていたような実態もあり、いわゆる出世コースから外れた都落ちのようなイメージがあることから、若手の育成が進んでいないというのが深刻な実情です。
逆に考えると、知識がある人、経験を積んだ人であれば転職先に困らないともいえます。また、内部監査部門を整備しようという企業はいわゆる大企業であるので、給与を含めた待遇面も悪くはありません。
内部監査については、「公認内部監査人」という専門資格もあり、これを得ることでキャリアアップの機会がぐっと広がります。資格を得るためには実務経験が必要ですが、その足掛かりとして転職を考えてみてはいかがでしょうか。
<参考記事>
転職エージェントでは、非公開求人を含めた内部監査部門への転職案件も多くそろえています。1件でも多くの求人をチェックし、自分にあった転職先を探したいという方は、ぜひ一度登録を検討してみてください。