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固定資産の簿価を切り下げる時ってどんな時?

公認会計士 大国光大
固定資産の簿価を切り下げる時ってどんな時?

固定資産は取得された時に取得原価で評価され、減価償却費によって徐々に簿価が減少していきます。では、固定資産の簿価が切り下げられる時とはどんな時でしょうか。この点について、、現役公認会計士が解説します。

固定資産の評価方法は?

まず、固定資産の評価方法について簡単に説明します。
固定資産は原則取得した際の金額で評価されます。固定資産を取得したり稼働するために支払ったりしたもの以外にも、社内の人が大きな作業を行うことで使用できるようになった場合は、その人件費も取得原価に計上されます。
また、大型の機械を取得する際に大掛かりな借入を行った場合にはその支払利息を取得原価に含めることがあります。
これ以外にも、現物出資によって拠出された固定資産については、交付された株式価格で評価が行われます(実務的にはその固定資産の評価額を基に株式価格が決まるため、固定資産の評価を行うことが先になりますが)。
このように決定された固定資産は、定められた償却方法に夜減価償却計算によって徐々に簿価が減少していきます。

固定資産の簿価が切り下げられるのはどんな時?

では、固定資産の簿価が切り下げられるのはどんな時でしょうか。別の回で解説した通り、減損損失を計上すると固定資産の簿価が減少し、同額減損損失として特別損失に計上されます。
また、固定資産が災害で価値が下がったり滅失したりした際にも簿価の切り下げが行われます。この他、固定資産を除却したり、生産ラインから外すなどをして利用できなくしたりすると固定資産の簿価を切り下げることになります。
災害の場合は、災害損失として特別損失に帳簿価額をそのまま計上することになりますし、固定資産を除却した場合は残っている簿価について固定資産除却損を計上し、生産ラインから外して全く使えないような除却(有姿除却)の場合も固定資産除却損を計上します。

簿価の切り下げとはどういうこと?

固定資産の簿価を「切り下げる」と表現しましたが、切り下げるとはどのようなことでしょうか。
切り下げるというのは、切って下げる(落とす)という意味で、一度簿価を下げたら二度と復活しないという意味です。例えばその固定資産の使用価値が下がって減損損失によって簿価を切り下げた場合、今後いくら価値が上がっても簿価は回復しません。また、固定資産をラインから外して有姿除却処理を行った後にラインに戻しても固定資産の除却処理は取り消しを行えません。ただし、有姿除却したものをラインに戻すということは当初の除却処理が適切でなかったとみなされる可能性が高い為、税務調査では問題視されることとなるでしょう。
簿価の切り下げの反対の意味の言葉としては簿価の「洗い替え」となります。洗い替えというのは一旦期末で簿価を落としたとしても翌期の期首で簿価を復活させ、次の期末でまた簿価を落とすかどうか判断することを言います。
固定資産では洗い替えが起こることはありませんが、棚卸資産や有価証券の評価においてはしばしば洗い替え法と切り離し法のどちらを使うか選択されることがあります。ただし、棚卸資産や有価証券においても簿価を切り下げなければならない処理の場合は同じように簿価が復活することはありません。

簿価を切り下げることのメリット

減損会計のように固定資産の簿価を切り下げるということは、同額の損失が損益計算書に計上されることとなります。経営者としては損失処理を行わなければならないため、できるだけ減損処理を避けたいという心理が働きます。
しかし、減損会計のように簿価を切り下げることにもメリットはあります。
一つ目の利点は、固定資産の簿価が下がることによって、総資産金額が減少することです。総資産金額が減少すると自己資本比率を計算する際の分母が減少するため、その後少ない固定資産で利益を獲得できれば指標が改善されるメリットがあります。
二つ目の利点は、簿価を切り下げた固定資産を用いて事業を継続する場合、少ない減価償却費で利益を獲得できることとなります。固定資産の減価償却費のせいで赤字になっている部門があり、撤退を考えていたとしても、減価償却費が減少すれば黒字になるのであれば、そのまま事業を継続することが選択肢に残ります。減価償却費は現金を支出しない費用ですので、せっかく以前購入した固定資産が残っているのであれば利用すべきと考えられる為、間違った意思決定が減ります。

まとめ

固定資産の簿価を切り下げるのは、主に減損、災害損失、除却があった時となります。簿価の切り下げを行った場合は二度と簿価が復活できないため、洗い替えとは異なる概念ということを学びました。
簿価の切り下げは損失が発生してデメリットしかないようにも見えますが、企業の指標改善や事業の撤退の要否を適切に考えることができるなど、メリットも存在するためあまり悲観視する必要はないでしょう。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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