無税償却という言葉を聞いたことがあるでしょうか。税金が無しで償却?等とぱっと見あまりよく理解できないかもしれません。無税や有税というのは償却に限ったことではなく、様々な場面で使うことがあります。
そこで今回は無税償却とは?その要件や有税償却との違いを解説します。
無税償却とは、簡単に言えばその償却額が損金に算入され、会計上の費用と税務上の損金が一致している償却を言います。
反対に、有税償却というのは、会計上費用となるものの、税務上損金に算入されないため決算書上は損失が出ているにもかかわらず税務上法人税の節税ができないようなものを言います。
ここで、無税償却というのは一般的には減価償却のことを言うのではなく、売掛金や貸付金などの債権を償却することを言います。もちろん、減価償却についても無税償却、有税償却という単語は使いますので混同しないようにしていきましょう。
債権を無税償却するためには要件があります。
まず、無税償却をするためには債務者が債務超過であるなど支払能力が全くないことが明らかになる必要があります。また、会社の精算が完了した時など、これ以上金銭の返還がないと認められた場合にはその分貸倒損失を計上しても無税償却できることとなります。
これ以外にも、債務者が遠方にあって、支払の催促をしても全く支払いをしてこず、取立の為の旅費が債権額を上回る場合は無税償却をすることができます。
ただし、これらの無税償却は税務調査でも重点的に見られるところでもあります。督促をいつどのようにしたかを具体的に残しておくとともに、現地に行ける場合は現地でどのように交渉をしたか、先方の財政状態はどのようになっているか等を記録しておくことが必要となります。
この他、取り立て不能と考えられる債権について、サービサーという債権譲渡専門会社に安価で売却をしてしまって損失を確定させる方法もあります。ただし、これに関しても実態としては取り立て不能であるのか、単純に寄付と同じような行為であるかという点で見られるので注意が必要となります。
先ほどのような無税償却の要件は、直接償却と呼ばれる方法となります。直接償却は債権の取り立てが全く不能であることに対する償却であるのに対して、間接償却は債権の一部が回収不能であると認められるために一部償却することを言います。
では、間接償却の要件としてはどのようなものが挙げられるのでしょうか。
まず、会社の更生計画により決算日の翌日から5年目以降に債権の弁済が予定されている場合です。このような債権については無税償却が認められていますが、会社が更生計画を立てている必要があります。
また、債務超過が長期にわたっており、債権の回収見込みがない場合も間接償却をすることができます。この時、債権の回収見込みがない部分のみ無税償却を行うこととなりますが、回収の可能性が残っている部分については償却をせずに残すこととなります。
この他、債務者に王的整理申し立てや銀行停止処分等の事態が発生した場合も無税償却を行うことがあります。
例えば清算が完了する前の、破産申請や銀行取引停止処分等が発生した場合にも無税償却を行うことができます。この時は全額を償却するのではなく、債権金額の50%を無税償却することができます。
では、反対に有税償却をした場合の会計処理はどのようになるのでしょうか。
例えば破産申請をした時点では税務上は50%の貸倒引当金しか計上できません。しかし、上場会社のように会計監査が入っている会社においては財産の分配が確実である場合を除いて原則100%貸倒引当金を計上しなければなりません。つまり、50%は損金算入できるものの、残りの50%については有税で償却しなければなりません。
このまま会計処理をしてしまうと、100万円の債権を償却したにもかかわらず、50万円分しか損金算入できないため、損益計算書では100万円の損失を計上しているにもかかわらず法人税等は20万円弱しか節税できないこととなります。
よって、このような時に残りの50万円に対して繰延税金資産を計上することがあります。繰延税金資産を計上すると、相手勘定は貸方に法人税等調整額が計上されるため、損益計算書上過大に計上されている法人税等のマイナス科目として計上することができます。すると、100万円の損失を計上した年に100万円分の法人税等が節税できていることと同様の会計処理となるため、すっきりした損益計算書となるのです。ただし、繰延税金資産が計上できるかどうかは、企業が継続して課税所得を獲得しているか、その債務者の精算が速やかに終わるかどうかにかかっているため、計上の要否は慎重に判断する必要があります。
無税償却をする場合の要件は実質的に相手方が弁済不能かどうかを判断する必要があり、形式だけ整っていても否認される可能性があります。反対に有税償却をする場合は繰延税金資産を計上できるかどうかで損益が異なってくるため慎重な判断が必要となります。