「債権管理」とは、売掛金が未回収となることを防ぐために、確実に回収するまで管理することを意味します。資金繰りを安定させるためには、売上を上げるだけでなく、そのお金を確実に回収するまで管理しなくてはなりません。いくら売上が上がっても、手元現金がなくなってしまったら、倒産してしまうからです。本記事では債権管理の重要性と注意点について解説します。
企業間の取引の場合、 商品やサービスの納品と引き換えにその場で現金決済することはほとんどなく、一旦売掛金として計上し、後に銀行振り込みなどの後払いで決済をしています。
この時、商品やサービスの納品先に対して、売掛金という債権が生じます。
債権とは、分かりやすく言うと、他者からお金を回収できる権利のことです。
例えばA社がB社に商品を納品したけれど、まだその代金を受け取っていないという場合、商品代金を回収できる権利が生じます。この商品代金が例えば100万円だとすると、A社はB社に対して、100万円の債権を保有しているということになるのです。
しかしこの売上金を回収するまでは、 帳簿上に売掛金が計上されていたとしても、手元の現金はありません。つまり、このまま未回収になってしまうと、 それまでの仕入れなどにかかった経費や売掛金にかかる所得税などの税金だけがマイナスになり、手元の資金が減ってしまいます。こうした未回収の債権の積み重ねがあると、帳簿上は黒字であったとしても手元の現金がありませんので、事業の継続に必要な支払や、仕入れになどの支払いを行うための資金繰りができず、結果的に企業は倒産してしまいます。
物やサービスを販売し、売掛金を計上した時から、入金があって債権が決済されるまで、それまでの未払い金である「債権」を管理し、売掛金を漏れなく確実に回収していくことは、事業の運営において不可欠なのです。
通常の販売活動は仕入れが販売に先行しています。そのため、仕入れた商品に対するお金の支払いを、販売したお金の入金よりも先に行う必要があります。
つまり入金よりも前に支払いをしなければならないのです。既に以前の売り上げで仕入れが賄えるほど手元に現金があれば良いのですが、実情はそうではなく、資金調達を行って支払を行い、入金までの間の費用は自社が負担していることがほとんどです。
つまり事前に支払ったお金は、確実に売上金を回収した上で補填しなければなりません。
もし回収できない債権が生じると、そのぶん資金繰りが苦しくなってしまいます。
債権管理を実施することにより、取引先ごとに回収予定日を明確にすることができます。
「いつ」「いくら」入金されるのかといった情報を一元管理することによって資金繰りの予定も立てやすくなるでしょう。
またそもそも回収が漏れる 大きな原因は、こちらからの請求漏れや請求ミスです。 取引先がいくつもあると、請求書の発行などが手間に感じられそのままになってしまうということがありますが、取引先にとっても、請求された金額を期日内に支払うということは、非常に重要な業務です。
つまり正しい請求書をスケジュール通りに発行しないという事で、 取引先の業務に影響を与えてしまい信用を失いかねません 。
請求するべき金額と実際の入金額がチェックできるようにしておくことで、請求書のみ発行や誤った内容での請求書の発行を避けることができます。
請求書を発行したら、回収までの期間を期日通りに行う必要があります。 資金繰りが スムーズでない取引先は支払いを伸ばしがちで回収期間が長期化する傾向があります。請求書は発行したらおしまいではなく、条件通りに回収できているかどうかのチェックが必要です。
債権管理を行うことで、売掛金の計上から売上金の回収までの一連の流れを可視化することができるようになり、 もし回収が遅れている場合も、素早く手を打つことができるようになります。
最後に債権管理の注意点について解説します。
実は、民法において、債権は10年で消滅してしまうという時効が設けられています。
さらに、以下の債権については短期消滅時効といって、より短い消滅時効期間が設けられているのです。
●3年
医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
工事の設計、施工、監理を業とする者の工事に関する債権
●2年のもの
生産者、卸売商人、小売商人の売買代金債権、請負工事の代金債権
自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
●1年のもの
月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
運送賃に係る債権
旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
出典: 民法 165条~179条
つまり債権の有効期間というのは案外短く、支払いを先延ばしされている間にそもそも請求権がなくなってしまうということがあるのです。
こうしたことにならないように、債権をきちん管理して、早期回収できるような体制を作っておくことが必要といえるのです。