支払調書とは「税務署」への提出が義務付けられている法定調書の1つにあたります。税務署では、企業や個人事業主から提出された支払調書をもとに、誰にどんな報酬が支払われているのかを把握し、確定申告の申告額とつきあわせてチェックします。今回は、源泉徴収票とは異なる支払調書について、わかりやすく説明します。
支払調書とは、企業もしくは個人事業主が「特定の支払い」をした際に「税務署」への提出が義務付けられた「法定調書」の1つです。
法定調書とは、「所得税法」、「相続税法」、「租税特別措置法」及び「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の規定により、税務署に提出が義務づけられている資料をいい、現在、60種類の法定調書があります。
引用:国税庁 タックスアンサーNo.7401 法定調書の種類
「誰に対し、どういった内容によって、年間でいくらの支払いを行ったのか」を税務署に報告することで、税務署側では無申告や過少申告を確認することができます。
また、作成した法定調書は、そのすべてを種類ごとに集計して「法定調書合計表」を作成し、法定調書と共に税務署への提出が必要です。
※具体的な法定調書についてはこちら:国税庁HP|法定調書の種類
税務署に提出する支払調書は、次のようなものがあり、それぞれの項目により、支払調書を提出すべき範囲が細かく規定されています。
支払調書の種類
▶︎報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
▶︎不動産の使用料等の支払調書
▶︎不動産等の譲受けの対価の支払調書
▶︎不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
例えば、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」については、弁護士、税理士等への報酬、ライターやイラストレーターへの原稿料などが該当します。この場合の受け取り手は主に個人事業主です。この支払調書には年間を通して受け取った報酬と支払われた源泉徴収税額が記載されています。
その提出期限は、支払いが確定した日の属する年の翌年1月31日までとなっており、この時に支払調書の他にも、給料などの支払金額も合計した法定調書合計表を提出します。
なお、支払調書の種類は多くありますが、企業が発行することが多いものは、「報酬、料金、契約金および賞金の支払調書」です。
出典:国税庁[手続名]報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)
こちらのフォームは報酬、料金、契約金及び賞金を支払った場合に作成する支払調書です。この書類を「源泉徴収票」と混同している方も多くいますが、全く別の書類です。
支払調書と源泉徴収票で異なるポイントは、源泉徴収票は支払った人への発行義務がありますが、支払調書にはないという点です。
支払調書は、支払った相手への控えの発行義務がありません。税務署にさえ提出していれば良いのです。
例えばあなたが副業などで業務委託を受け、何らかの仕事をして報酬をもらい、それを確定申告するとしましょう。
この場合、クライアントが支払調書を発行しない方針である場合は何も送られてきません。
確定申告をする場合は、自分で請求額と源泉徴収金額がある場合はそれを計算して記載する必要があります。
しかし、支払調書の控えは発行義務がありませんので、支払を受け取った側も、確定申告における書類の添付義務はありません。
申告した金額と、企業が税務署に送った支払調書の金額が一致していれば良いのです。
確定申告シーズンになると、慣例で支払調書を送る企業がありますが、実は本来しなくていいことをサービスでやっているのです。
ただ、支払調書の作成を作成し、対象者への送付(郵送・メール)を行うと、結構な事務作業とコストがかかります。
そこで、企業からの支払調書の発行については、近年見直される傾向にあり、送らない企業が増えてきました。
例えば、Amazonは、アフィリエイト報酬がある方に向けてに払っていた報酬に対して、支払調書の控えを2013年から発行していません。
支払を受け取る側が、請求書を発行している場合であれば、データや控えなどが残ります。そこから申告額を確認して確定申告が可能です。
もし、アフィリエイトやクラウドソーシングサービス、あるいはWebコンテンツのPV数などによる支払を企業側が算出した上で支払を受けている場合は、手数料や源泉徴収済の所得税額などがわかる照会システムなどがあるはずです。
確定申告においては、平成31年4月1日以後は源泉徴収票も添付が不要となっています。
源泉徴収票は、添付不要となっても発行義務があるため送付されてきます。
しかし、支払調書の場合は、もし先方が発行しない方針の場合、待っているといつまでも確定申告ができないということになります。確認は早めにしておく方が良いでしょう。
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ここからは、支払調書の作成側の話です。支払調書は「法定調書」となり、税務署への提出義務があると述べました。では、どのような時に支払調書を作成しなければならないのでしょうか。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」において作成が必要となるケースは、以下の5つです。
(1) 外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサー等の報酬・料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
(2) 馬主に支払う競馬の賞金については、その年中の1回の支払賞金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中の全ての支払金額
(3) プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、その年中の同一人に対する支払金額の合計額が5万円を超えるもの
(4) 弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるもの
(5) 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
引用:国税庁 タックスアンサーNo.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等
提出範囲の金額については、基本的には消費税及び地方消費税の額を含めて判断します。
また、以下のような事由で源泉徴収をしていない場合でも、上記のケースに該当する場合は、支払調書の提出義務が必要です。
また、支払調書の提出時期ですが、支払いの確定した日の属する年の翌年の1月31日までに支払者の所轄税務署への提出が必要です。
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出典:国税庁[手続名]報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)
では、支払調書にはどのような項目を記載すれば良いのでしょうか。ふたたび「報酬、料金、契約及び賞金の支払調書」をもとに解説します。
氏名もしくは名称、住所もしくは所在地、個人番号(マイナンバー)もしくは法人番号を記載します。
税務署に提出する支払調書にはマイナンバーの記載が必要です。提供を受けて記載しましょう。
金銭等の支払を受ける方及び支払者等のマイナンバー又は法人番号を記載する必要があります。
しかし、本人に対して支払内容の確認などのために写しを交付する場合は、その控えに個人番号(マイナンバー)を記載することはできません。
番号法上の特定個人情報の提供制限がかかりますので、注意しましょう。
報酬または料金の名称を記載します。
報酬、料金等の名称については、何かがわかるように書く必要があります。
例えば、原稿料、印税、さし絵料、翻訳料、通訳料、脚本料、作曲料、講演料、教授料、著作権や工業所有権の使用料、放送謝金、映画・演劇の出演料、弁護士報酬、税理士報酬、社会保険労務士報酬、外交員報酬、ホステス等の報酬、契約金、広告宣伝のための賞金、競馬の賞金、診療報酬
……というように細かく書く必要があります。
また、印税については、「書き下ろし初版印税」と「その他の印税」との区分の記載も必要です。
区分によって適切なものを記載します。
① 印税 ················ 書籍名
② 原稿料、さし絵料 ·········· 支払回数
③ 放送謝金、映画・演劇の俳優等の出演料 出演した映画、演劇の題名等
④ 弁護士等の報酬、料金 ········ 関与した事件名等
⑤ 広告宣伝のための賞金 ········ 賞金の名称等
⑥ 教授・指導料 ············ 講義名等
その年度のなかで支払が確定しているものを記載します。
この場合、控除額以下であるなどのため源泉徴収されなかった報酬、料金等や未払の報酬、料金等についても記載漏れのないように注意が必要です。
支払調書の作成日現在で未払の金額がある場合は、各欄の上段に未払額を内書きします。
その年度のなかで源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の合計額を記載します。
災害により被害を受けたため、報酬、料金等に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収の猶予を受けた税額がある場合には、その税額を含めないで記載しましょう。
また、支払調書の作成日現在で未払のものがあるために源泉徴収していないときは、その未徴収税額を内書きします。
① 診療報酬のうち、家族診療分についてはその金額を記載するとともに、金額の頭部に「家族」と記載します。
② 災害により被害を受けたため、報酬、料金等に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収の猶予を受けた税額がある場合には、その税額を記載するとともに、金額の頭部に「 災」 と記載します。
③ 広告宣伝のための賞金が金銭以外のものである場合には、その旨とその種類等の明細を記載します。
④ 支払を受ける方が「源泉徴収の免除証明書」を提出した方である場合、その他法律上源泉徴収を要しない方である場合には、その旨を記載します。
報酬もしくは料金の支払いを行なった人の氏名もしくは名称、住所もしくは所在地、電話番号、法人番号もしくは個人番号(マイナンバー)を記載します。
支払調書の書き方については下記のコラムでも詳しく紹介していますので、あわせてご確認ください。
支払調書とは何なのか、支払調書はどのような場合に必要になるのかなどをお伝えしました。支払調書は税務署には必ず提出しなければならないものですが、支払いをした相手に写しを渡すかどうかは、あくまでも任意となっています。
要は支払金額と源泉徴収額がわかれば良いので、副業で確定申告が必要な方は、支払調書については委託元に事前に確認の上、スムーズに確定申告が行えるように金額の確認をしておきましょう。
また、支払調書を作成する方は、必要事項を確認して記入漏れがないようにすることと写しを発行する場合は、本人宛てであっても本人のマイナンバーを記載しないように注意しましょう。