繰延資産は、会計上と税務上とで、それぞれ範囲が異なっています。一体どのような違いがあるのでしょうか。また会計上の繰延資産と税務上の繰延資産について、償却期間はどうなっているのでしょうか。今回は、会計上の繰延資産と税務上の繰延資産の違い及びその償却期間について解説して行きます。
繰延資産とは?
繰延資産とは、以下のうち、効果が1年以上に及ぶため資産計上したもののことです。
すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用出典:企業会計原則注解(注 15)
これは言い換えると、お金を既に払ったか、まだ払っていないけれど払う義務が確定し、既にサービスを受けたものの、サービスの効果が将来にわたって発現されるために、原則通り今期の費用とするのではなく例外的に敢えて資産計上したもの、ということです。
会計上の繰延資産とは?(参考:実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い)
① 株式交付費 :株式の交付等のために直接支出した費用のことです。
② 社債発行費等:社債発行のため直接支出した費用及び新株予約権の発行に係る費用のことです。
③ 創立費 :会社の負担に帰すべき設立費用のことです。
④ 開業費 :会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用のことです。
⑤ 開発費 :新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出
した費用並びに生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用を言います。
ここで、会計上、繰延資産として資産計上できる費用は限定列挙されていることに注意が必要です。
税務上の繰延資産とは?(この項は法人税法及び法人税法施工令を参考にして記述しています)
税務上の繰延資産は会計上の繰延資産及び以下のことです(会計上の繰延資産は全て税務上の繰延資産でもあります。)。
①自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用
②資産を賃借するための権利金等
③役務の提供を受けるための権利金等
④製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
⑤その他自己が便益を受けるための費用
税務上の繰延資産は法律に例示されています。しかし、あくまでも例示に過ぎず、税務上の繰延資産は例示されている項目に限定されないことが大きなポイントと言えます。
会計上の繰延資産の償却期間
①株式交付費:株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間
②社債発行費等:社債発行費は社債の償還までの期間、新株予約権の発行に係る費用は3年以内
③創立費:会社の成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間
④開業費:開業のときから5年以内のその効果の及ぶ期間
⑤開発費:支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間
実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い
税務上の繰延資産の償却期間(この項は法人税法及び法人税法施工令を参考にして記述しています)
ここでは、それぞれの税務上の繰延資産について償却期間を見ていきます。ちなみに、会計上の繰延資産の税務上の償却期間は会計上の償却期間と一致します。
償却期間は以下の通りです。
a)公共的施設の設置又は改良のために支出する費用(税務上の繰延資産とは?の①)
(1)その施設又は工作物がその負担した者に専ら使用されるものである場合
その施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数
(2)(1)以外の施設又は工作物の設置又は改良の場合
その施設又は工作物の耐用年数の4/10に相当する年数
b)共同的施設の設置又は改良のために支出する費用(税務上の繰延資産とは?の①)
(1)その施設がその負担者又は構成員の共同の用に供されるものである場合又は協会等の本来の用に供されるものである場合
イ 施設の建設又は改良に充てられる部分の負担金については、その施設の耐用年数の7/10に相当する年数
ロ 土地の取得に充てられる部分の負担金については、45年
(2)商店街等における共同のアーケード、日よけ、アーチ、すずらん灯等負担者の共同の用に供されるとともに併せて一般公衆の用にも供されるものである場合
5年(その施設について定められている耐用年数が5年未満である場合には、その耐用年数)
c)建物を賃借するために支出する権利金等(税務上の繰延資産とは?の②)
(1) 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合(言い換えると、建物を賃借して、その建物の所有者に支払った権利金が建設費の大部分である場合)
その建物の耐用年数の7/10に相当する年数
(2) 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合
その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数
(3) (1)及び(2)以外の権利金等の場合
基本的には5年。賃借期間が5年未満の場合はその賃借期間(契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるとき)
d)電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用(税務上の繰延資産とは?の②)
その機器の耐用年数の7/10に相当する年数。その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間。
e)ノウハウの設定契約に際して支出する一時金又は頭金の費用(税務上の繰延資産とは?の③)
基本的には5年。契約の有効期間が5年未満の場合は、その有効期間(契約の更新に際して再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるとき)
f)広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用(税務上の繰延資産とは?の④)
その資産の耐用年数の7/10に相当する年数。その年数が5年を超えるときは5年
g)スキー場のゲレンデ整備費用(税務上の繰延資産とは?の⑤)
12年
h)出版権の設定の対価(税務上の繰延資産とは?の⑤)
設定契約に定める存続期間。設定契約に存続期間の定めがない場合には3年。
i)同業者団体等の加入金(税務上の繰延資産とは?の⑤)
5年
j)職業運動選手等の契約金等(税務上の繰延資産とは?の⑤)
契約期間。契約期間の定めがない場合には3年。
上記以外に関しては、一定の契約をするに当たり支出した繰延資産についてはその契約期間をそれぞれ基礎として適正に見積った期間を償却期間とする。
「注」これらに償却期間に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てる。
まとめ
以上、繰延資産の定義及び償却期間について見て来ました。繰延資産の範囲及びそれぞれの償却期間を丁寧に抑えてください。