企業の経理担当者、税理士・公認会計士を目指す人にとって日々の仕訳処理で登場する勘定科目の知識は欠かせません。いわば、勘定科目は経理担当者の基礎体力のようなものです。
ただ、勘定科目の曖昧な知識しか知らずに毎日業務に向き合っているという人も多いはず。そこで、経理に初チャレンジする方にも分かりやすく勘定科目を一覧で紹介します。すでに経理業務を経験している人も、根本的な知識から見直すことで普段の業務のスムーズ化・今後のキャリアアップに役立つ内容になっているので、ぜひご確認ください。
勘定科目とは、企業運営をしていく上で発生する取引(資産・負債の増減や費用・収益の発生等)について、その性質をわかりやすく記録しておくために必要な分類名称のことです。誰が仕訳をしても同様になるように、性質の類似した取引に名前がつけられます。
そもそも、仕訳とは、会社で発生した現実の取引を会計の言葉で表現することです。会社は毎日たくさんの取引を行っているので、そのすべてを一般的な日本語表現で行うには、手間も読解にも時間がかかります。そこで、「仕訳」という特殊な経理手法を用いて、「どんな取引内容だったのか」を短い言葉で分かりやすく共有できる状態にする必要性が生じます。
したがって、仕訳における勘定科目とは、「企業で出し入れされる現金に対して、それぞれラベルがついているようなもの」だと考えると理解しやすいでしょう。前述したように誰が仕訳を行っても同じになるように設定されているため、誰がみても同じ理解を得やすいという役割を果たしています。
仕訳作業における勘定科目は、経営判断の材料としても役立ちます。なぜなら、ラベルがバラバラだと現状を分類して把握することができないからです。つまり、勘定科目という統一ルールのおかげで、企業経営者は会社の経理状況をスムーズに把握できるというメリットが生じます。
このように、いっけん経理の仕事は目立たないようにも思えますが、経理の仕事を支える勘定科目は意外と大きな役割を果たしていると考えられます。日々追われ続ける仕訳作業が会社の経営全体にも影響するものだと理解できれば、毎日の仕事の責任の重さを感じることができるでしょう。
実は、勘定科目名・その一覧は企業ごとに異なります。その理由は、勘定科目は法律で決まっているものではないためです。ですから、「勘定科目が前の職場と同じなのでおそらく内容も同じだろう」と安易に解釈せずに、転職・就職した場合には、かならず他の経理・会計担当者に確認しましょう。
もっとも、一般的な勘定科目は存在しますので(いわば、経理・会計業界における”共通言語”のようなもの)、そのような基本情報をしっかりと理解することが重要となります。
勘定科目は会社ごとに異なる可能性がある、そして、そもそも勘定科目には多くの種類がある以上は、会社内において経理責任者が社内ルールをはっきりさせておくのが重要になります。担当者同士でルールを統一しておかなければ、多すぎて使用用途や意味について混乱が生じてしまうからです。
たとえば、社内で判断に迷う勘定科目があったら、貸借対照表もしくは損益計算書のいずれかの項目に該当するのかどうかを社内でルール設定しておくとよいでしょう。迷ったとしても判断の軸となるように決めておけば後々のトラブルを防ぐことにもなります(入力する人によってバラバラで数値が一致しない等のトラブル)。
それでは、勘定科目を一覧で紹介します。勘定科目を理解するためには、その性質に応じて、「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の5種類に分類するのが有効です。というのも、会社は経営状況を報告するために、貸借対照表と損益計算書という2つの書類を作成しており、この5つの分類が2つの財務諸表作成に役立つからです。
貸借対照表(Balance Sheet)(B/S)とは、一定時点における会社の財政状態を表示する財務諸表のことです。簡単に言えば、会社にいくらのお金が残っているのかを知ることための書類と言えるでしょう。
そして、ここでは「資産」「負債」「純資産」の3つのグループに属する感情科目が活用されます。
①会社が持っている「資産」
②返済する義務がある「負債」
③総資産から負債を差し引いて残る返済義務のない「純資産」
つまり、企業がどのようにして資金を調達し、調達した資金をどのように運用しているかがリアルタイムで分かるということです。それでは、各勘定科目について具体的に見ていきましょう。
貸借対照表については以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
まずは、貸借対照表を構成する「資産」に含まれる勘定科目について見てみましょう。
例えば、車両運搬具(自動車)を購入するために、車両本体価格として200万円かかり、その他費用として10万円を支払ったなら、「210万円の資産」として表示します。ただし、資産の中には取引時の金額をそのまま計上できないものがあることに注意が必要です。
また、固定資産では、長期間にわたって使用することによって価値が減少することを表現しなければいけません。価値が下がった部分は費用として計上し、その分だけ資産を減少する処理(減価償却費の計上)が必要です。
次に、貸借対照表を構成する「負債」に含まれる勘定科目について見てみましょう。
例えば、従業員が退職した際に会社が支払う退職金をあらかじめ準備しておくためのお金は「退職給付引当金」です。退職金は従業員の勤務年数が長いほど多額になりますから、いざ退職金を支払うときのために退職金用のお金を貯めておくのです。これを負債として処理します。
実務では該当期間に計上する退職給付引当金を計算し、退職給付費用と合わせて負債・費用計上します。
続いて、貸借対照表を構成する「純資産」に含まれる勘定科目について見てみましょう。
基本的には、純資産の項目は、「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」に分類されます。そして、その大部分が株主資本です。会社の存続基盤となる部分なので、重要な位置付けとなります。
損益計算書(Profit and Loss Statement)(P/L)とは、一定期間中の経営成績を表示する書類のことです。簡単に言えば、会社がもうかっているのか、売上げ状態が厳しいのかという視点から作成する財務諸表とお考えください。
損益計算書を構成するのは、「収益」「費用」「純利益」の3つです。
①何にお金を使ったか「費用」
②どれだけ売上が出たか「収益」
③どれくらい儲かったか「純利益」
そして、仕訳において重要なのが「収益」「費用」の2つが活用されます(損益計算書では「純利益」の項目も使われるため、個別に解説します)。それでは、各項目について詳しく見ていきましょう。
損益計算書や決算書の読み方については以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
費用とは、会社が収益を上げるためにかかったお金のことです。
営利活動をする企業においては、収益を上げるために一定の支出を伴うのが一般的です。たとえば、商品の仕入れ、従業員の給与・交通費・福利厚生、支払った保険や水道代などの光熱費などは、事業を展開するうえで不可欠の出費です。これらが「費用」として計上されることになります。
費用の計上で注意が必要なのは、「その支出が本当に費用として処理して良い支出なのか」ということです。というのも、税金は「売上から経費を引いた金額」に税率をかけて計算するので、経費が増えるほど税金の金額は少なくなるという実情があるからです。費用に含められる範囲が広ければ節税に繋がりますが、不当に費用計上すると脱税になってしまいます。
費用として認められるものはあくまで売り上げに結び付く出費だけです。経費の処理が正しく行われているかは、税務調査などでも厳しくチェックされる項目ですから、出費の経緯をたどって正しく処理するようにしましょう。
収益とは、会社が事業活動の結果獲得したもののことを指します。たとえば、商品の売上げ、受け取った利息・配当などが広く含まれます。
収益に属する勘定科目の処理で、実務において注意が必要なのは売上を計上するタイミングです。なぜなら、一言に「売り上げた」と言っても取引のどの時点で経理上の「売上」として計上するかが問題となります。
たとえば、お客から代金をもらった時なのか、物を受け渡した時なのか、サービスが完了した時点なのか、業種によっても様々なタイミングがあります。時期を誤ってしまうと、税金の算定基礎にも間違いが生じてしまいます。
売上げ計上のタイミングは会社ごとに基準が定められているので、基準に沿って正しく処理を行うようにしましょう。
純利益とは、「収益-費用=利益」のことです。以下の5つの利益に着目することによって経営における重要な情報を得ることができます。
勘定科目に関する知識は、経理業務(日々の仕訳や決算業務など)において役立つものです。
もっとも、貸借対照表・損益計算書で用途・意味も異なりますし、それぞれのグループごとに多様な感情科目一覧が設けられているので、正確に把握できなければ業務スピードだけではなく、日々の仕事の正確性にも影響が出てしまいます。
実務上、経理の仕事にミスは許されません。基本的な勘定科目の知識を理解した上で、それぞれの企業ごとのルール・内容を頭に入れ、経理を行っていくとよりレベルアップしていけるでしょう。