税理士になるための要件のひとつである、税理士試験の試験科目5科目の合格。いずれも合格率が10~20%程度の、非常に難易度が高い試験です。この難しい試験を突破する秘訣として、自身に合った科目を選択することが挙げられます。今回は税理士試験の試験科目の概要や選び方について解説していきます。
会計科目(必須) | 簿記論 |
会計科目(必須) | 財務諸表論 |
税法科目(選択必須) | 所得税法 |
税法科目(選択必須) | 法人税法 |
税法科目(選択) | 相続税法 |
税法科目(選択) | 消費税法または酒税法 |
税法科目(選択) | 固定資産税 |
税法科目(選択) | 国税徴収法 |
税法科目(選択) | 住民税または事業税 |
税理士試験は全部で11科目で、大きく分けると会計科目と税法科目があります。会計科目は「簿記論」と「財務諸表論」の2つで、これらは取得必須となっている科目です。
一方、税法科目には「所得税法」「法人税法」「相続税法」「消費税法」「国税徴収法」「固定資産税」「事業税」「住民税」「酒税法」があります。これら9科目はすべてが必須ではありません。
ただし、所得税法と法人税法は「選択必須科目」であり、2つのうちいずれかを取得しなければいけないという決まりがあります。また、消費税法と酒税法はどちらか1科目のみ選択可、住民税と事業税はどちらか1科目のみ選択可という決まりもあります。
税理士試験の大きな特徴は科目合格制となっているところです。科目合格制とは科目ごとに受験するこができて、合格科目は一生涯有効という制度です。
働きながら税理士を目指している方なら、1科目ずつコツコツ合格していき、40代〜50代を迎えるころに税理士試験5科目に合格して、独立するという方も多くいます。
自分のペースに合わせて受験科目数を選択して勉強できるという点で、他の国家試験に比べて社会人が受験しやすい試験と言われています。
一生かかって5科目合格すればいいから、税理士資格は他の士業資格に比べて簡単なのでは?と思う方もいるかもしれません。しかし、各科目ごとの合格率は平均10%台で、1科目合格するのもとても難易度が高い試験です。
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税理士試験の科目免除制度とは、下記の要件を満たすことで税理士試験自体か特定の科目の試験が免除される制度です。
・弁護士または公認会計士資格の取得
・国税従事
・大学院の学位取得
税理士試験の科目の取得は5科目について、試験合格する方法だけではなく、修士の学位等取得による試験科目の免除制度があります。
会計科目、税法科目毎に、いずれか1科目の試験で合格をし、修士の学位等取得に係る研究について国税審議会の認定を受けることが出来れば、税法科目であれば残り2科目、会計学科目であれば残り1科目にも合格したものとみなされて試験が免除されます。
例えば、修士(会計学)の学位を取得して簿記論の試験に合格すれば、財務諸表論の試験が科目免除となります。修士(税法)の学位を取得し、法人税法の試験に合格すれば、残りの税法2科目が免除となります。
費用や決まった時間を要しますが、会計事務所や税理士法人を世襲するために資格取得が急務である場合、受験勉強期間が長期化して税理士としての経験を積む期間が少なくなってしまう恐れのある場合等、税理士試験の受験生活からいち早く脱しなくてはならない状況にある場合に非常に有効な方法です。
修士の学位等取得にはまずは大学院に入学しなければならないため、税理士試験とは異なる入試対策をすることが必要となります。入学後には定められた単位を履修、取得し研究を進め、修士論文を完成させ審査に合格しなければ修了することが出来ません。
試験科目の免除というと税理士試験を受験しなくて良いという楽な手法のように聞こえますが、実際は大学院に係る費用や時間を要し、決して短絡的な方法では無いといえます。
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税理士試験トータル11科目の内容について概要を説明いたします。
事業活動を網羅、立証、秩序的に記録し計算する手続きを学ぶ科目です。税額の計算の根拠となる事業活動の記録及び税額の計算は税理士の基本業務であるため、簿記の知識は必要不可欠であり、税理士になるためには簿記論は必ず合格する必要があります。
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事業活動が記録された内容を株主等の利害関係者に報告するために作成をする財務諸表の作成手続きと、その背景にある理論を習得する科目です。
財務諸表の作成も税理士の基本業務のひとつであるため、簿記論と同様に税理士になるためには財務諸表論は必ず合格する必要があります。
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所得税は個人がその年1年間に得た所得に対して課される国税です。所得税は、国税収入額で最も多い税金であり、個人を相手とする実務において必須となる科目です。
税理士になるためには、選択必修科目である所得税法と法人税法のいずれかに合格する必要があります。
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法人税は株式会社等が収益事業により得た所得について課される国税です。国税収入額の中で2番目に多く、法人を相手とする実務において必須となる科目です
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相続や贈与等の際に財産取得者に課される国税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。特に相続は相続税の申告相談に特化した会計事務所や税理士法人があるほど、専門的知識として注目をされています。
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商品売買やサービスの提供に対して課税される国税及び地方税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。消費税率の変更や軽減税率の導入等の世間の動きにより一層複雑なものとなり、消費税の知識は様々な場面で求められます。
アルコール分1%以上の飲料である酒類に対して課税される国税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。
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申告された国税が納付されなかった場合等に強制徴収するための手続きについて必要な事項を定めている法に関する科目です。
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都道府県や市区町村が行う行政サービスにかかる諸経費を住民が負担するための地方税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。
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法人または個人の事業活動に対して課税される国税及び地方税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。納税者が税額計算して納付する場合があるため、税理士にも求められる知識です。
土地や事業用の償却資産等に対して固定資産所在の市町村が課税する地方税であり、それに関する知識や申告方法を習得する科目です。
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試験科目はいち早く合格することを目指すために難易度の低いものを選択する、税理士として就業するにあたり自身の強みにしたい知識を選択する等、目的によって選択をする科目が異なります。
いち早く合格することを目指すためには、難易度の低い科目を選択することがひとつの方法です。
2020年の税理士試験の科目別合格率は以下の通りです。
簿記論 | 22.6% |
財務諸表論 | 19.0% |
所得税法 | 12.0% |
法人税法 | 16.1% |
相続税法 | 10.6% |
消費税法 | 12.5% |
酒税法 | 13.9% |
国税徴収法 | 12.2% |
住民税 | 18.1% |
事業税 | 13.1% |
固定資産税 | 13.5% |
計 | 17.3% |
いち早く合格することを目指すためには、必要勉強時間の少ない科目を選択することがひとつの方法です。必ずしも下記の時間を満たせば合格を保証するものでは無いですが、ひとつの目安として捉えると良いでしょう。
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どの科目を選択するかについては、いろいろな着眼点があります。代表的な物を見ていきましょう。
税理士試験は合格までの勉強時間が科目によって大きく異なります。各科目の勉強時間の目安を考えて、組み合わせるという方式です。
ただし、この勉強時間はあくまで「目安」なので、その人の得意分野によっても異なります。なお、科目の難易度については、どれも平均10~15%と大きな差はありません。
法人税法と所得税法はいずれか1つを受験しなければならない選択必須科目で、どちらも実務では重要な科目ですが、上記の表を見るとわかるように、税理士試験科目の中でも学習時間を多く必要とする科目です。「まずは合格」と考える方であれば、勉強時間が少なくて済むものを選択して組み合わせるという方法が短期合格への近道といえます。
また、選択必須科目で法人税法を選択するのであれば、学習内容が重複するような事業税を組み合わせ、所得税法を選択するのであれば、関わりの深い住民税を組み合わせると効率よく学習できます。
(1)の表に、「計算50% 理論50%」というように、計算問題と理論を暗記して臨む問題の比重をつけています。例えば、簿記論は計算100%ですが、これが得意だと感じるのであれば、計算の割合が半分以上の科目を選択する、逆に理論が得意なら、国税徴収法や事業税を選択するなど、自分の得意な勉強方法で組み合わせを考えるというものです。
税法科目の選択法については、これからのキャリアを考えて組み合わせるという方法があります。
例えば、企業への就職・転職に有利なのは、法人の利益に対して課税される「法人税法」や、消費者から預かった税金を申告する義務がある「消費税法」。
また、税理士として開業したいという希望があるのであれば、個人が年間で得た利益を申告するために必要な「所得税法」や、事業承継のコンサルティングや不動産オーナーなどの富裕層のニーズが高い「相続税法」を選択するのが一般的です。
自分が税理士試験合格後に歩みたいキャリアにとって、必要性の高い科目を勉強します。
(1)にて、選択必須科目である所得税法と法人税法が、群を抜いて勉強時間が多いですが、それだけ使用頻度も高く需要もあるので、仮にこの両方を取得している場合、会計事務所でも高く評価されます。
所得税法と法人税法、どちらかには合格しなければ税理士になることは出来ません。どちらも習得すべき内容が多く試験勉強のための時間は600時間必要といわれています。両方を選択し受験することは一般的にW受験と呼ばれ、両方に合格をすることは税理士内で一目置かれる存在になりますが、非常に難易度の高いことと言えます。そのため、両方の合格では無くどちらか片方の合格を目指す人が多いです。
所得税法と法人税法、どちらを選択すべきか迷われる方が多いため、ここではそれぞれのメリット、デメリットをご紹介します。
所得税法はその課税対象者が個人であることから、法人税法よりも身近に感じやすく学びやすい科目であるといえます。自身の確定申告を行ったことがある人、税理士事務所等に勤めていて確定申告を業務として行っている人にとっては、一層のこと理解がしやすいといえます。
所得税法は最も条文数の多い科目といわれています。つまり暗記をすべきものが多く、その暗記は一言一句間違わずに覚えなくてはなりません。暗記を不得意と感じている人の場合には、法人税法を選択する方が良いといえます。
税理士の基本業務である月次監査において、その監査を希望するのは多くの場合が個人よりも会計処理が複雑な法人です。法人税法の知識を習得することで、毎月行われる月次監査において適切なアドバイスをすることが出来、法人税法の知識が役立つ場面は多いといえます。
法人税法はその課税対象者が企業であることから、所得税法よりも身近に感じにくく学びにくい科目といえます。
法人税の申告を毎月担当している税理士事務所等に勤務している人であってもなかなか目にすることの無い、大企業のみが対象となる連結納税制度やグループ法人税制等、税理士として働くにあたり顧客に大企業がいない限り知識の活かせる場面の少ない分野についても学ばなくてはなりません。
5科目全て同年度に受験することは可能ですが、全てに一度に合格する人はほぼいません。複数年に渡り受験科目を選択しながら受験を行います。
税理士試験の合格を目指す人の多くが簿記論、財務諸表論から受験を開始します。これらは税理士になるためには必ず合格をしなくてはならない必須科目であるため、登竜門のような存在です。
簿記論と財務諸表論に合格した後は、自身のキャリアや生活スタイル等に合わせて柔軟に科目選択をすると良いでしょう。
キャリアにおいて合格科目を示す際に、その個数が評価される場であれば、難易度が低いと自信が考える科目に合格し合格科目数を増やすこと、その科目内容が評価される場であれば、評価者が求める科目に合格をすることが優先されます。
生活スタイルにおいては、仕事や学業が忙しく受験勉強に時間を多く割けないと考えられる年度には、必要勉強時間が少ないといわれている科目を、受験勉強に時間を多く割けることが出来ると考えられる年度には、必要勉強時間が多いといわれている科目を選択することが優先されます。
税理士試験の各科目の合格は、一生消えることの無い資格です。どのような順番で合格しても、何年かかって合格をしても、周囲からの評価は変われど税理士になるための道のりは人それぞれです。
自身に合った受験方法を選択するようにしましょう。
税理士になるための要件である実務経験2年以上という事項を満たすために、税理士試験を受験しながら会計事務所や税理士法人に就職、転職をしたいと考える人は多くいることでしょう。
当然ながら就職、転職活動では合格科目数が多いほど有利と考えられます。会計事務所や税理士法人の知名度や給与にこだわらない場合には、簿記2級程度の知識で就職、転職をすることが可能です。一方でBIG4と呼ばれる大手税理士法人や、知名度や給与の高い会計事務所、税理士法人に就職、転職を希望する場合には、3科目以上の合格が望ましいといえます。
税理士試験の科目について解説しました。目指す税理士像は人それぞれ違うため、合格までの道のりも様々です。
難易度や勉強時間等、税理士試験にかけるが出来る費用や時間を加味した上で、正しい自己分析を行うことが、税理士になるための秘訣といっても過言ではありません。
受験科目は何を選択するのか、免除制度を利用するのかなど、選択肢が多い分きちんと戦略立てて受験に挑むことが求められます。税理士試験の受験生活をどのように行っていくのか検討する際に、是非これらの情報をお役立てください。
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