会計事務所に勤める職員の給与額を決めている主な要因を挙げると、経験年数・税理士資格の有無や税理士試験の科目合格数・会計事務所全体の収入・担当顧問数・実務経験の種類などであると言えます。職員の給与額を決める要因は他にもありますが、今回は上記の項目ごとに、会計事務所の給与体系について解説していきます。
先ずは、会計実務の経験年数についてです。多くの場合、職員の会計実務の経験年数が長い方が給与額は高くなります。
一般的に、目安としては、試験合格科目のない未経験者は給与額が300万円前後からスタートし、3年目には300~400万円、5年目迄で350~450万円、10年目迄で400~500万円になっていくというのが大体の相場です。さらに、経験年数が10年以上ある職員だと、給与額が450万円以上ある場合も多いです。
しかし、経験年数を積むことだけで給与額を高くすることには限界がある、とも言えるでしょう。以降の項目でさらに詳しく給与額を決定する要因を見て行きましょう。
次に、税理士資格の有無や税理士試験の科目合格数についてです。一般的に、税理士資格を有している場合や税理士試験の科目合格数が多い場合に給与額は高くなります。税理士資格は、税理士試験に全科目合格する等以外に、弁護士や公認会計士の有資格者であれば、税理士登録をして得ることが出来ます。また税理士試験は全部で5科目であるため5科目全てに合格していなくても、給与額にプラスが見込めます。経験年数の項にて既に記した年収に、税理士資格の有無や税理士試験の科目合格数に応じて、10万円~100万円程度の上乗せになるケースが多いでしょう。但し、資格を持っているから給与額が必ず高くなるというわけではなく、職員の実務能力にも大きく依存すると言えます。
職員の給与額を決めるのにとても大きな要因として、会計事務所全体の収入が挙げられます。即ち、職員の給与額は職員が所属する会計事務所全体の収入が多いかどうかに大きく依存するということです。
そもそも、会計事務所には所長を含めて5人迄という小規模の事務所から、100人以上の大規模な事務所まで、様々な事務所があります。扱っている業務も、単純な記帳代行から相続税の申告・医療法人の顧問など一業務あたりの収入が大きい業務まで様々です。
当然ですが、職員の給与は会計事務所が得た収入から支払われるため、会計事務所全体の収入が職員の給与に大きく関係します。
更に、知識や実務経験の種類、すなわち、会計事務所が稼げる分野での知識を持ち実務経験を積んでいるかどうかは、職員の給与額を決める上で大変重要な要素であると言えます。
当然、会計事務所が多くの収入を得られる分野での知識と経験を積んでいる方が、給与額は高くなる傾向があります。
そういった分野の一つとしては、例えば、相続税に関する知識と実務が挙げられます。日本では、相続の額が一定以上に高い場合にのみ相続税が課税されるため、相続税の申告は、一定程度裕福なお客様相手の実務であると言えます。裕福なお客様が相手の実務なので、その分、会計事務所が得られる収入も大きくなり、担当している職員の給与も大きくなる傾向があります。そのため給与額を上げたければ、税理士試験の科目に相続税を含め、相続税に関する実務に強い会計事務所に入所し、相続税に関する実務経験を積むことが有力な手段となるでしょう。
次に、職員の担当顧問数についてですが、担当顧問数が多いと給与は高くなる傾向があります。顧問件数を増やし顧問収入を増やすことが会計事務所全体の収入を上げることになるため、先ずは顧問件数を増やしたいと多くの会計事務所が考えています。
しかし、会計事務所が雇える職員数には限りがあります。そのため、会計事務所としては、1件でも多くの顧問先を担当してくれる職員を優秀な職員として判断することが多いと言えます。優秀な社員と判断されれば、より多くの給与が支給されるでしょう。直接的に顧問数に比例して手当などが支給されるというケースは多くないと考えられますが、担当顧問数は職員の実力を示してくれる有力な指標の一つとなるでしょう。
以上、これまで見て来た通り、会計事務所の職員の給与額は、職員の会計実務の経験年数、税理士資格の有無や税理士試験の科目合格数、職員が所属する会計事務所全体の収入、
職員の担当顧問数、職員が持っている知識や積んだ実務経験の種類などによって決定することが多いと言えます。
但し、大規模な税理士法人や上場企業のような法人とは異なり、会計事務所は所長が個人で運営しているため、給与に関する明確な規定がない場合もあります。そのため、給与額以外の事柄にも言えることですが、所長個人の趣向や価値観も職員の給与額を決める大きな要因の一つになると言えるでしょう。