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財務エキスパートへの第一歩としての「財務レバレッジの基礎知識」について

公認会計士 荒井薫
財務エキスパートへの第一歩としての「財務レバレッジの基礎知識」について

現在、主に経理業務に従事している方や、税理士や公認会計士の資格を持って会計事務所などに勤めている方も、いつかは財務のエキスパートとして働くことを視野に入れている方も多いと思います。この記事では、財務エキスパートになるための基本となる財務レバレッジという財務指標について分かり易く解説していきます。

財務レバレッジとは?

財務レバレッジは、自己資本に対して他人資本をどれくらい調達して事業を行っているかを表す基本的な財務指標です。
税理士の資格を持っている方や、経理の仕事をやっている方の中で、将来的にCFO(Chief Financial Officer)などの財務のエキスパートを目指している人も多いと思います。財務のエキスパートとなるためには、経理とは違う視点で財務諸表、特に貸借対照表を分析するスキルが必要です。
ここでは、その基本ともいえる財務レバレッジについて説明をします。

財務レバレッジの定義

まず、最初に財務レバレッジはどのようにして算出されるのかを説明します。
財務レバレッジとは、自己資本総額を基準として、その何倍の大きさの総資本額を事業に投下しているかを表す財務指標です。

具体的には、総資本/自己資本で計算します。
例えば、自己資本が2億円、総資本が5億円の企業であれば、5/2=2.5倍と算出されます。「レバレッジ」は日本語に訳すと、「梃(てこ)」であり、自己資本に対してどれだけ多くの他人資本(負債)を調達しているか?という財務状態を表している指標となります。

ROEやROAとの関係

企業の収益率を測る指標として、ROA(総資本利益率)やROE(自己資本利益率)といった指標があります。こちらは資産を活用してどれくらいの利益を稼いでいるかという指標になりますが、財務レバレッジはROEやROAと密接な関係性があります。

具体的な事例で見てみます。2億円の利益を出す企業が2つあります。両方とも総資本は10億円です。そして、A社の自己資本は6億円、B社の自己資本は2億円であるとします。

A社(利益額2億円、総資本10億円、自己資本6億円)
財務レバレッジ 1.67倍
ROA      20%
ROE      33.3%

B社(利益額2億円、総資本10億円、自己資本2億円)
財務レバレッジ 5.0倍
ROA      20%
ROE      100%

このように比較をすると分かり易いと思います。つまり、事業が安定的に収益を生む場合には、財務レバレッジが高い方がROEは高くなります。つまり収益率が良い企業ということにあります。言い換えれば、自己資本額に対して効率よく利益を生む財務状態であるということになります。

財務レバレッジを使った財務分析の考え方

このように財務レバレッジは、他社と比較をしてその効率性や適正性を判断することになります。このような財務分析の考え方としては、実際に自分が財務担当者である場合に利用する時と、公開企業の財務諸表を使って財務分析として行う場合で、ポイントとなるところが若干異なります。

財務レバレッジの適正水準について

財務レバレッジの適正水準については、公開企業と非公開企業、業種業態等によって異なりますが、概ね金融機関は2倍から3倍程度を目安にしているようです。日本企業は、相対的に利益剰余金を社内に留保する傾向が強いので、海外企業と比較すると財務レバレッジは低い傾向にあり、財務レバレッジが高いことはむしろリスクを過大に取っているとネガティブに捉える向きがあります。

業種業態による適正水準の違いについて

計算式を見れば分かりますが、総資本の額を用いるので、在庫を必要とする事業の場合には財務レバレッジは高めに出る傾向があります。また金融機関は顧客から預かる預金を原資として(負債になります)、資金を必要とする企業に貸し出しをするので、自己資本率が元々低く、財務レバレッジという財務指標は意味を成さない業種であると言えます。
このように、業種業態によって、財務レバレッジの適正水準は異なります。

利用目的による補正の必要性

今まで説明をしてきたことは、主に財務の健全性を測る場合の考え方となります。この他に、財務レバレッジは適正株価を算出する際に参考にされるケースが多いです。
公開企業の場合、利益剰余金を内部に留保して自己資本率を上げても、利益が思うように出ない場合には、株主は資本の効率性を高めることを要求します。財務レバレッジが低く財務状態が安定していることが、必ずしも高評価されるとは限らないわけです。

従って、同業種で、財務レバレッジがあまりにも違う場合には、先に説明をした通り、ROE(自己資本利益率)は財務レバレッジによって変わってきてしまうために、適正株価や目標株価を、1株当たり利益を基準に考える場合に、財務レバレッジが異なる場合には、補正をして算出することがあります。
つまり、財務レバレッジが高く、自己資本効率が高いということだけで、一概に適正株価は高いとは言い切れないということです。

まとめ

税理士として働いていたり、経理部で働いていると、日常業務の中ではどちらかといえば貸借対照表よりも損益計算書に意識が向きがちです。
経理業務というものを基礎から積み上げていく場合に、この傾向は決して間違ってはいませんが、キャリアアップを考えた場合、財務も理解できるようになることが必要です。その場合には、貸借対照表にも意識を向けることが大切です。しかしながら。日常業務の中でただ漠然と貸借対照表を見るだけでは、財務状態を見る目を磨くことは難しいと思います。 財務レバレッジは、その意味で財務エキスパートになるために、最初に理解するべき経営指標の一つですので、財務の視点を養うために知識を深めることをお勧めします。

この記事を書いたライター

公認会計士としてIPO準備支援業務に従事後独立。M&A業務や中小企業支援業務を行い、その後事業会社のCFOに就任。ブランドプリペイドカード発行事業の立上げなど行う。現在は主に海外Fintech企業への日本市場のサポート業務などを行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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