圧縮記帳という会計方法があります。固定資産の帳簿価額を切り下げ、課税所得を小さくするという方法のことをいいます。圧縮記帳によって課税が免除されるわけではありませんが、税金が一時的に軽減されるというメリットがあります。今回は、この圧縮記帳について解説していきます。
圧縮記帳とは、固定資産の帳簿価額を切り下げることによって、課税所得を小さくして,課税の延期をすることができる制度のことをいいます。
圧縮記帳は税制上の措置として戦前から設けられており、企業会計原則との調和の観点から、その課税のあり方が議論されてきました。また、昭和20年代半ばには、新たに企業会計原則が設定されたことによる影響もあり、国庫補助金等の特定の収益は所得として課税すべきものか、資本剰余金として取り扱うべきか等の問題を中心として大きな議論が巻き起こりました。その後、圧縮記帳は租税特別措置を中心として拡大してきましたが、商法改正による積立方式の変更に関する見直しや政策税制としての改廃等を除くと大きな変更は行われていません。この間、産業構造面では製造業の比重が相対的に減少する一方、金融サービスも含めた各種サービス活動の比重が増すなど、企業を巡る社会経済状況が大きく変化しています。このような実物経済から金融経済への経済基盤の変化は、企業の収益構造のみならず、企業会計や税法のあり方にも多大な影響を与えています。
圧縮記帳には、法人税法で規定されているものと、租税特別措置法で規定されているものの2つがあります。
・国庫補助金や保険金などにより固定資産などを取得した場合
・不動産の交換により一定の固定資産などを習得した場合
・収用などによって資産を取得した場合
・特定資産の買い替えにより資産を取得した場合
具体的に説明しましょう。国や地方公共団体より500万円の補助金を受給し、それを使って600万円の機械設備を購入したとしましょう。この際、受け取った補助金500万円は、会社の収益に計上されることになり、税金が課されます。また、購入した機械設備の取得価額600万円は固定資産に計上されることになり、耐用年数に応じて毎期減価償却費を計上するかたちです。
ただ、国や地方公共団体が補助金を支給する目的としては、機械設備への投資を推奨したいからです。それにもかかわらず、補助金に税金が課されるということは、機械設備の購入を難しくしてしまっており、補助金本来の目的が達成されません。
そこで、導入されたものが、圧縮記帳です。こちらの具体例でいえば、600万円で購入をした機械の価格を500万円にまで圧縮することができるので、機械の帳簿価額は100万円となって、500万円の補助金を圧縮損として損金に計上し、同額を機械の取得価額より差し引くことが可能になるのです。
また、火災などによって固定資産が損壊し、保険金を受け取った時、その保険金により再び取得をした資産が損壊前と同じ価額の場合、一定の条件のもとで圧縮記帳を受けることもできます。どうしてかというと、保険金に対し課税すれば、資産を取得することができなくなり、火災による被害から立ち直ることができなくなる可能性が考えられるからです。なお、商品による消失についての保険金に関しては圧縮記帳の対象外となります。
圧縮記帳が認められる補助金には対象があります。法人税法においては、圧縮記帳の対象とされる補助金や法人の条件を以下のようにしています。
一般的には補助金といえば金銭を想像しますが、金銭の代わりとして固定資産そのものが国などにより給付される場合においても、圧縮記帳の対象となります。
圧縮記帳は会社の利益を減らし、税金を軽減するための制度ではありますが、課税を免除するものではありません。軽減される税金も一時的なものであり、いずれその軽減された税金は取り戻されることとなるのです。例えば先ほどの例でいえば、圧縮記帳により機械設備の薄価は100万円に下がっており、計上される減価償却費は600万円の時よりも少なくなっています。つまり、費用が減って利益が多くなることになり、結果としては税金も多くなります。よって、長期的に見れば、圧縮記帳をする場合としない場合とでは、課税に関する影響は変わらないのです。したがって、圧縮記帳とは、課税が免除されるものではなく、課税の延長ができる制度ということになります。
補助金分だけ収益を小さくできるということは、その分、課税されないということです。つまり、受け取った補助金に税金はかからないので、企業の投資意欲や事業の拡大意欲を低下させることがありません。
圧縮記帳は課税を一時的に回避することはできても、免除されることはなく、将来に繰延されることになります。そして、この繰延が表面化をするのは、翌期以降の減価償却費を計上する時と、資産の除却や売却時となります。そして翌年以降は、圧縮記帳分だけ課税が大きくなるという点があげられます。
また、圧縮記帳にかかる処理には手間がかかります。補助金を受け取って、固定資産を購入したその年度のみならず、翌年度以降も注意が必要なのです。そして補助金そのものに関しても、給付後の用途の報告や審査が必要とされます。結果、大変な手間がかかって受け取ったあげく、受け取った後にも大変な手間がかる、これが補助金なのです。
圧縮記帳は補助金の課税を一時的に避けることができ、繰り延べることによって補助金の設備投資に活かすことが可能になります。ただ、税金が免除になるわけではないので、誤解しないようにしましょう。とはいっても、補助金には税金はかからないので、少しでも節税をしたい企業にとっては大きなメリットとなるといえます。