近年、企業のコンプライアンスの重要性が話題にあがることが増えてきました。その流れの中でも、大企業の税務コンプライアンス向上が注目されています。国税庁が主体となっているこの動きですが、どうしてそれほど注目されているのでしょうか。今回は、税務コンプライアンスについて解説していきます。
2016年6月14日、国税庁は、「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領の制定について(事務運営指針)」を公表しました。その取り組みの趣旨には、「大企業の税務コンプライアンスの維持・向上には、トップマネジメントの積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要かつ効果的であることから、その充実を促進するものである。」とあります。
(出典:税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領)
つまり、「大企業が自発的かつ適正な納税をするため、トップマネジメント自ら積極的に関与して内部統制を整えていってください」という指針が、明確に打ち出されたのです。
企業のコンプライアンス向上を目指す流れの中で、企業内法務部やコンプライアンス部の充実が図られてきました。しかし、税務に関するコンプライアンスは、外部の税理士や税務担当者に任せるという方針の会社が多かったと思われます。
税法は毎年のように変わりますし、企業取引の高度化によって税務実務がとても複雑になっていることが理由でしょう。しかし、今回の国税庁の指針は、大企業が自ら税務についても税務コーポレートガバナンスを充実させ、税務コンプライアンスを向上しましょうという内容になっています。
さらに、自主的に充実した内部統制を整える企業については、税務調査の間隔を延長するというメリットを与えるとも記されているのです。税務調査は、正直なところ企業にとって業務の負担になります。ですので、企業としても可能であれば税務コンプライアンスを向上させて、税務調査による負担を減らしたいという思惑が生まれるのではないでしょうか。
では、具体的にどのような取り組みが想定されているのでしょうか。国税庁が公表している事務運営指針には、「税務に関するコーポレートガバナンスの確認項目の評価ポイント」一覧の中に、取り組み事例が掲載されています。
(出典:税務に関するコーポレートガバナンスの確認項目の評価ポイント)
例えば、上記一覧で、第一の確認事項は、「トップマネジメントの関与・指導として、税務コンプライアンスの維持・向上に関する事項の社訓、コンプライアンス指針等への掲載がされているか」とあります。
また、具体的な取り組み事例としては、「コンプライアンスに関する社訓や指針等に税法遵守、 原始記録の適正保存、不正な会計処理の禁止などの事項を明記」「税務に特化した指針等を策定」が挙げられています。国税庁が評価するポイントが具体的に載せられていますので、企業側としてはこれらのチェックポイントを網羅する内部統制の仕組みを構成する必要があるでしょう。
上記で、自主的に税務コーポレートガバナンスを充実させ、税務コンプライアンスが向上していると評価された法人に対しては、税務調査の間隔延長というご褒美を与えると国税庁が明言しているとお伝えしました。
その一方で、評価の低い法人については、より頻度の高い精密な調査が行われることとなるでしょう。では、低い評価を受けないようにするために、どのような点に注意が必要でしょうか。
税務調査においては、大企業はもちろん適正な税務申告をしている前提でいると思いますが、企業として認識していなかった「隠ぺいや仮装行為」が見つかってしまう場合があります。その原因としては、従業員による着服や横領などの不正行為です。
企業の規模が大きくなるにつれて、従業員の数も増え、取引の数も増加するでしょう。それだけ、従業員個人による不正行為のリスクが高まってしまうのです。
もし企業として認識していなかった不正が税務調査にて発覚した場合は、どのような結果が待っているのでしょうか。
その原因が企業としてではなく、従業員個人としての不正行為だったとしても、原則的に企業は重加算税を支払う必要があります。重加算税については、国税通則法68条1項で定められています。
つまり、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する」こととなります。
従業員個人による不正であっても、納税者本人(企業)の行為と同視できる場合は、企業が重加算税を支払わなければならないという判例があるのです。
納税者本人(企業)の行為と同視できる場合とは、上記判例では、隠蔽・仮装行為を容易に認識でき、その防止・是正等の措置を講じ得たにもかかわらずこれをしていなかったときとされました。ということは、やはり企業自身がトップマネジメントの主導で税務コンプライアンスを向上させ、不正行為等をなくすように努力すべきでしょう。
今回は、重要性が増している税務コンプライアンスについて解説しました。確かに税法は複雑ではありますが、国税庁の公表しているチェックリストを参考に、各企業が主体的に税務コンプライアンスを向上させていく必要があると言えるでしょう。