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株式交換比率とは?株式交換比率の算出方法とあわせて解説!

HUPRO 編集部
株式交換比率とは?株式交換比率の算出方法とあわせて解説!

企業が組織再編する手法として、会社法上「株式交換」というM&A手法が用意されています。株式交換は、資金調達が不要という意味で便利な組織再編方法ですが、その一方で、株式交換比率への配慮等、色々な面で煩雑さも伴うというデメリットがあります。

そこで今回は、株式交換のハードルの1つになる「株式交換比率の決め方」に注目して、現役公認会計士が解説します。特に、株価が株式市場において確定されない非上場企業が株式交換を検討する場合に重要な課題になるので、非上場企業・中小企業の組織再編シーンに関わるときのためにお役立てください。

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株式交換・株式交換比率を理解しよう

株式交換比率について考える前に、そもそもM&A手法の1つである株式交換とはどのようなものか、株式交換比率がなぜ問題になるのかなど、前提問題について知識を整理しておきましょう。

株式交換とは?

株式交換比率を求めるためには、まず株式交換について知る必要があります。

株式交換とは、2社の法人を完全親会社・完全子会社の関係にする組織再編方法です。完全子会社となるべき法人が、完全親会社となるべき法人に自社の株式を100%譲り渡し、その対価として、完全親会社の株式・現金などを譲り受け取ることになります。

簡単に言えばA社とB社があった場合、A社がB社を完全子会社化する時に、B社の株主にA社の株式・現金などを渡します。

これによって、まったく無関係であった2つの企業を(現実問題として、グループ企業の間で行われることが多いのはさておき)完全親子会社関係にできるので、M&Aではよく使われる手法となります。

株式交換比率とは?

株式交換比率とは、株式交換における対価として親会社の株式が交付される場面で問題となる考え方です。先程の例でいうと、完全子会社となるB社の株主が、子会社であるB社株式と親会社であるA社株式を交換してもらう場面における問題ということです。

というのも、対価として株式を交付するとうことは、「どれだけの子会社株式数に対していくつの親会社株式を割り当てるか」を決めなければいけません。先の例でいえば、B社株主にどれだけのA社株式を交付するかを決める必要があるということです。この割合・比率が「株式交換比率」です。

株式交換比率は両株主の利害を調整する役割を担う

たとえば、A社株式の評価が高ければ高いほど、B社に交付される株式数は減ることになります。A社株式1株につき10の価値があるとして、B社株式1株につき1の価値しかないのなら、B社株式10株に対してA社株式1株が割り当てられることになります。

その一方で、A社株式の評価が低くなるとB社株主に交付される株式の数は増えることとなります。たとえば、A社株式1株の価値が5しかないとき、B社株式1株につき10の価値があるのなら、B社株式1株につきA社株式が2株割り当てられる計算です。

このように、株式交換では、「A社株主にとってはA社株価を高く評価してもらいたい」「B社株主にとってはA社株式を低く評価してもらいたい(B社株式の価値を高く評価してもらいたい)」という相反する感情が生まれることを避けられません。

したがって、株式交換では、完全親子会社それぞれの株主の利害を調整する必要があることから、適正な形で株式交換比率が計算される必要が生じます

株式交換比率・株価算定の方法

株式交換比率は、株式交換の当時会社の株主の利益・議決権割合、ひいては経営判断にも影響することになるため、公正の見地から求められなければいけません。

したがって、株式交換比率を決定する際には、客観的な指標によって「当時会社の企業価値・買収される側の企業・買収する側の企業の株価」をベースとして算出されることになります。

上場会社同士の株式交換なら比率を計算しやすい

たとえば、上場会社同士で株式交換をする場面について考えてみましょう。

上場会社であれば、市場価格というものが決まっているため、ある一定時点での株価を参考にして決められます。原則として、株式の値段は企業価値を正当に評価しているものと考えられるため、株式交換時における交換比率の算定基準とすることは、極めて客観性を担保できた手段だといえるでしょう。

したがって、上場企業同時の株式交換の場面では、常に株価が変動する株式市場において、「どの時点の株価を基準に株式交換比率を求めるか」という点が中心に話し合われることになります。

株式交換の当事会社に非上場会社が含まれる場面

問題は非上場会社同士や片方が非上場会社の場合です。なぜなら、非上場会社には株式市場からの客観的な評価である「株価」が存在しないため、株式交換比率の前提となる株価・企業価値を分かりやすい形で導くことができないからです。

そのため、株式交換の当事会社に非上場会社が含まれる場合には、公認会計士等の第三者による株価算定・企業価値評価(バリュエーション)というプロセスが不可欠となります。

もっとも、公認会計士などの専門家による客観的な評価・測定とはいえ、株価算定の行い方・査定の実施機関によって出てくる結果が異なることが多いのが実情です。特に、株式交換の当事会社やその関係者と利害関係を有する専門家が査定に絡んでしまうと、査定結果が歪曲されるというリスクも生じます。

したがって、譲受会社・譲渡会社の株主の利害に直接関係する重要な事柄であることから、株式交換比率のバリュエーションの場面では、いくつかの算定方法に依拠して客観的正確性を担保するという運用がとられることになります。

株式交換比率の決め方は次の3つです。

①コストアプローチ
②インカムアプローチ
③マーケットアプローチ

それでは、株式交換比率・株価の算定方法についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

株式交換比率の決め方1:コストアプローチ

まず代表的な株式交換比率算定の際の株価算定手法として、コストアプローチが挙げられます。コストアプローチとは、企業の保有する財産や負債に着目して算出される方法となります。具体的には、時価純資産方式や簿価純資産方式が挙げられます。

時価純資産方式では、企業の資産及び負債について、現在の時価に引き直した上で資産から負債を引いた時価純資産を企業の価値として株価を算出します。簿価純資産方式では、企業の決算で求められた簿価の資産から負債を差し引いて簿価純資産を算出し、これを基に企業の株価を算出します。

時価純資産は企業の財産の含み損益を反映させるのに向いており、簿価純資産は時価の取り方によって変動する株価の要素を排除している部分でメリットがあります。

しかし、どちらも企業のある時点での精算価値を表しているだけにすぎず、企業の今後の収益獲得能力については触れられていない点で正確性に欠けるというデメリットがあると言えます。

もっとも、コストアプローチ(時価純資産・簿価純資産のいずれであったとしても)は、過去の決算を基に算定されることからある一定の合理性が認められるため、株価評価の際には少なくとも参考価格として提示されることが多い方式というのが実情です。

株式交換比率の決め方2:インカムアプローチ

インカムアプローチは、企業に流入するキャッシュフローに着目した株式評価方法となります。具体的には、配当還元方式や、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法等が挙げられます。

配当還元方式とは、企業が過去に行ってきた配当や、今後行うであろう配当金額に着目して株価を算定する方式です。特に、支配権をほとんど持たない株主・機関投資家にとっては、議決権が有する経営権への影響力よりも、実際に自分の手元にいくらの配当金が入ってくるかが重要となる場合がほとんどです。つまり、少数株主にとっては配当還元方式によった株価算定がしっくりくるでしょう。

また、DCF法では、企業の事業計画に基づいて将来入ってくるであろうキャッシュフローの金額を基に株価を算定します。コストアプローチとは違って、企業の将来性に着目した数値である点で優れていると言えます。

ただし、インカムアプローチでは将来の配当計画や事業計画に合理性が認められない場合には査定の正確性・客観性に欠けるというデメリットが生じます。そこで、インカムアプローチの客観性への懸念を克服するために、実務上は、コストアプローチと併せて使われることが多い手法となります。

株式交換比率の決め方3:マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、株式の市場価値に着目した株式交換比率の決め方です。具体的には、自社に似た上場企業を当てはめて株価を算出する「類似会社批准方式」という手法と、自社の業種に当てはめて株価を算出する「類似業種批准方式」という手法があります。

そもそも、株主が投資した資本を回収する方法としては、配当以外にその株式そのものを売却することによって得られる「キャピタルゲイン」が考えられます。つまり、企業価値を考えるうえでは、どうしてもその市場価格を無視することはできないという現実に目を背けることはできません。その意味で、類似会社・類似業種に注目して株価を想定するマーケットアプローチには一定の有効性が認められることは否定できないでしょう。

しかし、類似する上場企業がなかったり、そもそも株主がキャピタルゲインを目的として株式を持たなかったりする場合には評価としてそぐわない可能性があります。

したがって、類似モデルが自社に適用可能かの判断を慎重に行いながら採用されるべき株式交換比率算定基準であると考えられるでしょう。

上場企業であれば市場株価法が有効

マーケットアプローチを採用する場合でも、当事会社に上場企業が含まれている場合には、その企業に関しては株式市場における株価を参考にすることができます。たとえば、市場株価法であれば、株式市場における1ヶ月~3ヶ月程度の期間の毎日の終値を算出し、その平均値を株式交換比率における計算基礎とします。

もっとも、粉飾決算や企業ブランドに対する毀損などが発生して、株式交換前の段階で不当に株価が上下した場合には、平均値をとる期間について留意しなければいけません。

株式交換後の株価変動にも注意しよう

上場とは無縁な企業が株式交換をする際には気にする必要はありませんが、上場会社が株式交換をする際には、株価の変動に注意が必要です。

たとえば、当該株式交換が株式市場においてポジティブに捉えられた場合には、株式交換後に株価が上昇し、一定のシナジーが期待できるでしょう。その一方で、株式交換自体がネガティブに評価される場合、株式交換比率に対して疑念が生じる場合などには、市場から厳しい目を向けられ、結果として株価が低下するリスクもあります。

つまり、株式交換比率は、当事会社の株主の利害に影響するだけではなく、市場からの評価対象になる以上は当事会社全体にも影響するものだということを理解しましょう。今回はいくつかの算定基準を紹介しましたが、株式交換の当事会社の性質によって「どの方法を採用すれば正確な評価をできるか」という観点から適切な計算方法を決定するのが重要です。

この記事を書いたライター

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