企業組織再編の手法の一つに株式交換があります。株式交換は企業が手元に資金が無くとも子会社化できる手法であり様々なメリットがあります。では株式交換をすると資本金はどうなるのでしょうか。今回は株式交換による資本金の動きについて現役公認会計士が解説します。
株式交換で資本金がどうなるかの前に、株式交換について解説していきます。
株式交換とは、簡単に言えばA社とB社があった場合、A社がB社を子会社化する時にB社の株主にA社の保有している株式もしくは増資により株式を渡すことを言います。つまり、B社の株主はB社株式とA社株式を交換されるということになります。
このようにある会社を完全な子会社としたい時に手元に十分な資金が無いときに株式交換が利用されます。株式交換は手元にキャッシュが足りない時に資金の代わりに自社株を代わりに交付することによって子会社化できる為、大変使いやすい制度と言えます。
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株式交換をするということは、株主が増えるということで、基本的に新たな資本金の振り込みが行われたとみなされます。よって、原則として資本金が増加することとなります。では、この株式交換の際の資本金はどのように決定されるのでしょうか。
株式交換で増加する資本金は株式交換契約書によって決定されます。払い込み金額のうち資本金とならなかった部分については資本準備金となり、その他資本剰余金とする場合には減資を同時に行わなければ認められていないので注意が必要です。
では株式交換においてどのような仕訳が行われるのでしょうか。
例えば、株式交換契約時点での子会社の純資産が5,000円だったとします。そこで増加する資本金を3,000円とし、残りの2,000円を資本準備金とするとします。また、子会社の元々の株主が保有している株式の簿価は1,500円だったとします。
<会計上の仕訳>
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
子会社株式 | 5,000円 | 資本金 | 3,000円 |
資本準備金 | 2,000円 |
<税務上の仕訳>
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
子会社株式 | 1,500円 | 資本金等 | 1,500円 |
このように会計上の仕訳と税務上の仕訳が異なるため、増加する資本金の額が会計上と税務上で異なるのです。
ここで会計上の仕訳というのが通常の会計システムに入れられる仕訳となり、税務上の仕訳というのは実際には行われず、法人税の申告書上のみで調整が行われます。
仕訳を見ていただくとわかりますが、会計上の資本金の増加額よりも税務上の資本金等の増加額の方が大きくなっています。これは、元々株主が保有していた株式の価値が基本的に株式交換する時に増加することが多い為です。
というのも、子会社化するということはそれなりに簿価にプレミアムを載せるためです。また、まとめて株式交換をするのである程度価値をつけないと既存株主からの反対にあうことが考えられることも要因の一つです。
株式交換をするとこのように会計上の資本金が増え、税務上も一定の資本金等が増えることとなります。ではなぜ税務上の資本金等があまり増えていないにも関わらず住民税に注意が必要なのでしょうか。
これは、法人住民税の均等割りの計算方法は税務上の資本金等の金額に関係なく、会計上の資本金と資本準備金の金額によって決定されるからです。つまり、大規模な株式交換が行われると一気に住民税の均等割りが増加するため注意が必要です。
このような均等割り金額を減らすためには減資の手続を行って、資本準備金の金額をその他資本剰余金に振り替えることが必要です。簡単に振り返ることはできず、債権者保護や株主総会決議を経なければならないため時間的な余裕も必要となってきます。
今までは純資産がプラス側に働いていてその分資本金と資本準備金を増やす処理を紹介してきました。ここで純資産がマイナスの会社つまり債務超過の会社を株式交換した場合はどのような処理となるでしょうか。
会社計算書類規則に沿って、債務超過の会社と株式交換をした場合はその他利益剰余金のマイナスとして受け入れることとなります。また、株式交換をされる子会社の株式の簿価よりも株式交換によって取得した子会社の追加取得分のマイナスの方が大きかった場合には、負債の部に組織再編により生じた株式の特別勘定が計上されることとなります。
株式交換に似た組織再編の手法として株式移転というものがあります。株式移転では、株式交換とは異なり二つの会社が1つのホールディングスカンパニーのような会社の傘下となります。株式交換と似ていますが、共通の持ち株会社ができることや、企業価値が高い企業が取得者としての会計処理を行う点で異なっていると言えます。
この際、増加した株主資本等の範囲内で資本金、資本剰余金、その他資本剰余金などに配分をすることができます。