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企業組織再編にはどのようなものがある?事例で解説!

公認会計士 大国光大
企業組織再編にはどのようなものがある?事例で解説!

企業の規模が大きくなると、様々な事業が増えてきて組織を管理することが大変になります。また、買収などによって子会社が増えるとどのように管理するかによってかかるコストが変わってきます。そんな問題を解決するために企業は組織再編を行います。今回はその組織再編の手法について、現役公認会計士が解説します。

企業組織再編とは?

企業組織再編とは、企業の組織を新たに構築したり現在の組織を分離したりする方法を言います。基本的には1つの企業が2つ以上の企業となったり、2つ以上の企業が1つのグループとなったりするようなことを言います。

組織再編の手法は様々ですが、代表的なものとしては、

・合併
・株式交換
・会社分割
・株式移転
・事業譲渡

等があります。そこで、これらについてのメリットデメリットを踏まえて紹介します。

合併とは?

企業組織再編の代表格に合併があります。合併には、2つ以上の企業が一方の企業に吸収され、吸収された企業が消滅する吸収合併と、合併する会社同士を解散させて新しい法人としてスタートする新設合併とがあります。

吸収合併は、存続会社に消滅会社の権利及び義務を全て引き継ぎます。よって、個々の財産を指定せずとも当然のように権利義務を移転できるため、事務手続きが煩雑になりません。
さらに、新設合併は新たに会社を設立しなければならないため、吸収合併の方がコストがかからないというメリットがあります。

また、吸収合併は、従業員についても基本的には全て合併先に引き継がれるため、消滅会社と労働組合の間で合併前に締結されていた労働協約も、そのまま存続会社に承継されます。

よく比較される事業譲渡との違いは、吸収合併の場合個々の資産や負債を指定しないために後から簿外負債が出てくる可能性があるデメリットがあります。
しかし、通常全く関係ない相手と合併する場合は財務デューデリを行って簿外負債の有無を検証するため、びっくりするような負債が発生しないことが通常です。

吸収合併と新設合併の違いについてはこちらの記事でも詳しく説明しています。
《関連記事》
吸収合併と新設合併とは?吸収合併のメリット・デメリットとは?

株式交換・株式移転

企業組織再編の例として、株式交換株式移転が挙げられます。

株式交換は、例えばA社とB社が別会社でそれぞれ別の株主がいたとします。A社がB社を買収して親子会社となった時、B社株主はA社の株式を代わりに交付されることをいいます。B社の株式の価値とA社の株式の比率に応じて株式を交付されるため、B社株式の価値が高ければ高いほどA社株式を多く交付されることになります。

一方、株式移転では先ほどの例のA社とB社に共通の親会社を新設し、その新設会社の株式をA社株主とB社株主に割り当てる方法となります。

株式交換も株式移転も株式の価値を利用して会社をグループ化する手法となりますが、どちらかが親会社になるかどうかの違いがあります。
株式交換ではどちらかというと親子間の関係を作るのに対して、株式移転では両者共通の親会社(ホールディングスカンパニー)を作ることで、両者を原則並列に扱う点で異なります

株式交換では、例えば子会社となる会社が非上場株式であり、親会社が上場会社であった場合、今まで非上場の株式を持っていた株主は上場株式に交換されるため、換金しやすくなります。
また、通常株式交換によって今までよりも、さらに大きな会社の株主となるため、より大きな会社の経営に参画できるとともに、配当も期待できるため、株式交換された株主にとってはメリットがあることが多いと言えるでしょう。

会社分割とは?

企業組織再編によく出てくる方法の一つに、会社分割というものがあります。会社分割は、企業の事業を切り離し、新しく作られた会社に移転する新設分割と、既存の会社に移転する吸収分割とがあります。

一方で、負債を特定しないため簿外にある負債もその事業に関連しているものがあった場合は自動的に引き継がれてしまうため、網羅的に負債が計上されているかどうかを検証しなければならないデメリットがあります。
また、既存の会社に事業を分割して移すと組織内での衝突が生じることもあり、慎重に分割先を選ぶ必要があります。

会社分割に関する会計処理についてはこちらを参考にしてみてください。
参考記事:会社分割とは?会計や税務で気を付ける点

事業譲渡とは?

会社分割と対比される企業組織再編として、事業譲渡が挙げられます。事業譲渡は、会社の全部または一部の資産及び負債を他社に譲り渡すことを言います。

事業譲渡では資産及び負債を特定して他社に譲り渡すことができるため、負債が多くて買い手がいない場合でも優良資産のみ売却でき、売却先候補を増やすことができることがメリットとなります。
一方で、財産及び負債を個別に指定しなければならず、大規模な事業譲渡である場合はそれなりに工数を要することがデメリットとして挙げられます。

実際に行われた企業再編の事例

それでは、実際に行われた企業再編の事例について見ていきましょう。

①三越伊勢丹HD

百貨店大手の三越と伊勢丹は、2008年に経営統合をしました。その後2011年4月に、三越を存続会社とする吸収合併を行い、株式会社三越伊勢丹を発足させました。両百貨店とも呉服店を起源とする老舗企業であり、この合併の影響で、百貨店の中での売上高はトップとなっていました。

2020年9月現在の営業収益は百貨店業界の中でもトップとなっていますが、競合他社がビジネスモデルを小売から不動産事業によるテナント収益比率をあげる一方で、三越伊勢丹HDは小売モデル以外の軸を作りきれていません。ここからどう巻き返せるかが、三越伊勢丹HDの存続に大きく影響を与えるといえるでしょう。

②エディオン

大手家電量販店のエディオンは、2005年に近畿地方を基盤とするミドリ電化を子会社化し、2006年には関東地方を基盤とする石丸電気を関連子会社化するなど、徐々に規模を拡大していました。

その後、こちらの2社を吸収合併し、エディオンは業界シェア3位になりました。2020年9月現在もその地位を守り抜いており、エディオンの企業再編は企業にとって前向きな選択だrたといえるでしょう。

まとめ

今回は、企業の組織再編について解説しました。企業組織の改変を用いて企業を大きくしていくと言う企業戦略は、ここ最近でかなり一般的な手法となってきました。一般的になってきたとはいえ、企業の組織再編には大きなメリットもデメリットもつきものです。

合併等を考える際は、その再編がもたらすメリット・デメリットと、その結果が出るまでの時間軸を意識して行うのがおすすめです。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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