未曾有の少子高齢化の時代を迎えることとなった日本。高齢になった人たちが亡くなるとき、相続案件が発生します。相続税の基礎控除が大幅に引き下げられたことと、今後団塊の世代の相続が増えることから、相続案件は増加傾向にあると推測されます。
今回は相続案件の今後30年の推移について解説していきます。
最初に少しだけ、相続税について確認しておきます。
相続税には課税相続財産の金額がそれを上回らなければ課税されないという「基礎控除」があります。
基礎控除の金額は平成26年12月31日までは「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でしたが、法改正があり平成27年1月1日からは「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」となっています。
法定相続人が1人以上いなければ相続は発生しませんので、相続税がかかる可能性のあるのは資産3,600万円超の方のケースになります(ちなみに相続人がいない場合、財産は相続財産管理人が選任されて管理することになり、その後特別縁故者に分与されたり、国庫に帰属したりすることになります)。
また、配偶者の税額軽減という制度もあります。これは、「遺産相続人に配偶者が含まれるとき、1億6,000万円もしくは配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、相続税が課税されない」というものです。
最低1億6,000万円まで相続税がかからなくなるため、一見お得に見える制度です。しかしこの制度を利用して相続をした配偶者が亡くなったときの2次相続において、相続税が高くなる可能性があります。
相続税の基本部分につきましては、以下の記事が参考になります。
参考:遺産税と相続税との違いとは?
また、平成30年7月の相続法の改正につきましては、以下の記事が参考になります。
参考:相続法について、その改正点を徹底解説!
日本では相続税の課税対象になる人はほんの一部だけ(準富裕層以上)といわれていました。しかし相続税の基礎控除が5,000万円から3,000万円などに引き下げられたため、少々裕福な家庭(アッパーマス層)くらいでも相続税がかかる可能性がでてきています。
実際、基礎控除の変更前の平成26年は課税割合が4.4%でしたが、変更後の平成27年には8.0%となっています。また、一人当たりの税額が2,473万円から1,758万円に下がっていることからも、課税対象が広がったことがうかがえます。
ここで、現在の平均寿命は男性が79歳、女性が86歳となっています。1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)生まれの、いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる人口が多い世代が、2026年~2034年頃に亡くなる可能性が高いです。
課税割合は平成27年以降も8%台で推移していますが、この団塊の世代が亡くなる時期に向かってピークを迎えることが予想されます。これが10年~20年先の推移予想です。
30年後になりますと、その間に法改正があるかもしれませんし、社会情勢が変化している可能性もあるために予想しづらいですが、おそらく団塊の世代の相続は一段落しているでしょう。人口減少の時代ですから、課税割合はゆるやかに下降していき、相続案件も減少していくことが推測されます。
なお、これらの予想は、富裕層は50代後半以上の世代に多いということを前提に考えており、地域的には東京都・愛知県・神奈川県に多くなっています。
相続関連では、生前の相続対策だけでなく、事業の承継や廃業などの関連案件も増える可能性が大きいでしょう。
相続案件は基本的に富裕層が顧客なので、会計事務所としては多くの案件を扱っていきたいところです。相続案件は多くの場合で継続性がない単発案件ですので、自ら新たな案件を探して獲得していく必要があります。
相続案件はそのほとんどが紹介による獲得になるでしょう。ではどこで紹介してもらえるかというと、病院や介護施設、葬儀会社、そして地域包括支援センターなどになります。
このうち、地域包括支援センターは高齢者にとっての総合相談窓口になっているため、センターの職員と懇意にしておけば案件を紹介してもらえる可能性が高くなります。
相続案件の今後30年の推移について、解説してきました。
以下がこの記事のまとめです。
・相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」になった
・団塊の世代の相続案件が増加していくことが予測される
・相続案件は病院や地域包括支援センターなどで紹介してもらえることが多い
相続案件を扱うには、相続の承認や放棄、遺産分割、遺言方式、遺贈など、相続に関するさまざまな知識が必要になります。税理士試験の科目には民法が入っていませんので、これらの相続についての知識は各自で勉強しておくようにしましょう。