包括利益計算書とは、一体どういうものなのでしょうか。また、そもそも包括利益とは、どのような利益のことを指しているのでしょうか。また、同じようによく耳にする損益計算書とは、まったく異なるものなのでしょうか。今回は、同じ計算書である包括利益計算書と損益計算書の違いについて解説していきます。
包括利益をご説明する前に、当期純利益をいう言葉の意味を解説しておきましょう。当期純利益とは、企業の手元に最終的に残る利益のことをいいます。
包括利益とは、この当期純利益に「その他の包括利益」を足したもののことを指しているのです。
では、この「その他の包括利益」とは、一体何なのでしょうか?
「その他の包括利益」とは、為替レートまたは株価などによって資産価値が増減する金額のことをいいます。
例えば、業務上の付き合いなどの関係で株式を保有しているとしましょう。この株式の価値というのは、株価によって変わり、まだ価値が定まっていない状態なのですが、この株価の含み益は「その他の包括利益」に含まれます。
当然、この含み益が現実の利益として確定して、当期純利益に反映がされる時というのは、株式が売却されてその対価を得た時です。
しかし、「その他の包括利益」には、このようにまだ当期純利益には含まれてはいないけれど、将来的には当期純利益に反映されると考えられる資産(または負債)の含み益や含み損が含まれるのです。
その他に「その他の包括利益」に含まれるものとしては「為替換算調整勘定」「退職給付に係る調整額」「土地再評価差額金」「持分法適用会社に対する持分相当額」「繰延ヘッジ損益」「その他有価証券評価差額金」があります。ちなみに包括利益とは、企業の決算書とされる包括利益計算書によって確認することが可能です。
先ほどお話した通り、包括利益には、事業の活動によって稼いだ利益に合わせ、時価が変わることで生まれる資産の含み益や含み損も含まれています。つまり、企業ではコントロールできない為替レートや株価によって大きく影響を受けるものも含まれているのです。
ただ、企業が保有している資産の時価が、為替レートまたは株価の動きによってどのように変わっているのかということは把握することが可能です。現在は含み益や含み損ではあるものの、やがては資産の売却などで利益や損失となり、当期純利益に含まれ、企業のキャッシュフローに大きな影響を与えるものとなるわけです。このように、現在の資産の総額は分からなくとも、資産価値の影響の受けている度合いを把握することはできます。
包括利益計算書にも損益計算書にも「計算」という言葉が含まれています。
どちらも利益を計算しているものだということがわかります。ただ、この2つの大きな違いは、その計算している利益の種類が異なる点です。
先ほど、包括利益計算書と損益計算書は、計算をして求める対象物が異なると解説しましたが、実はもう1点、違っている点があります。それは、決算書の内容が異なるという点です。包括利益計算書は、当期純利益をもとにして段階を経て計算をし、最終的には5つもの利益が割り出されます。
一方で、包括利益計算書は、損益計算書で計算されて出された当期純利益に「その他の包括利益」を加え計算するだけ、というとても単純なものとなっているのです。つまり、順序としては、損益計算書が作られたのち、包括利益計算書が作られるかたちとなっています。
損益計算書は、単体ベースでも連結ベースでも公表されるのに対し、包括利益計算書は連結ベースのみの公表となります。もう少し詳しくお話すると、損益計算書はグループ全体の損益計算書に加え、親会社だけの損益計算書が公表されます。
しかし、包括利益計算書は、グループ全体の包括利益計算書だけの公表だけなのです。このように、公表される内容にも差があるので、包括利益計算書と損益計算書は、全くの別物だといえます。
包括利益計算書とはどういうものなのか、そもそも包括利益とはどういったものを指すのか、そして損益計算書との違いについても解説しました。平成23年以降、包括利益の表示が開始され、今さら「包括利益について教えてほしい」といえないという雰囲気が社内にもあるでしょう。この記事でぜひ理解を深めてください。