化学反応を利用して製品を製造する化学産業においては、同種の製品を大量に生産する、設備投資と修繕に費用がかかる、生産の過程で副産物が発生する、などの特徴があります。経理の仕事する場合は、これらの化学産業特有の性質を理解しておくことが重要です。今回は、化学産業の経理のポイントについて解説していきます。
化学産業とは、化学反応を利用して製品を製造することが特徴の製造業です。製品を製造する工程において化学反応を用いることで、原料とは大きくかけ離れた製品を作ることができるのが特徴です。
化学反応によって製造した製品は、他の事業の原料となる合成樹脂や合成ゴム、消費者が使用する洗剤や化粧品などに分かれます。
化学産業は製品の製造に化学反応を起こす必要があり、そのための原材料として石油や鉱物などがありますが、国内ではほとんど採取できないため、原料の大部分は海外からの輸入に頼っています。
原材料を海外から仕入れることで、化学産業は価格の変動や為替レートの影響を受けやすくなっています。特に、原材料として石油を用いる場合は、産油国の政情も業績に関わってきます。
化学産業の分野で経理の仕事に携わる場合、設備についても理解しておく必要があります。化学産業は同規格の製品を大量に生産するために、規模の大きい設備を導入して稼働し続けます。
設備はほとんどの時間は稼働しているため劣化しやすく、設備を修繕するための費用は大きくなります。化学産業の設備については、年に1度は生産ラインを停止して大規模なメンテナンスを行ったり、数年に1度は大きな修繕を実施したりします。
メンテナンスや修繕のたびに生産を停止していると、取引や売上に悪影響が生じてきます。そのため、生産ラインを止めている間は同等の製品を他の企業からお互いに調達しあう、タイムスワップの契約もよく締結されています。
化学産業で経理を行う場合、設備の修繕費用を捻出するための資金繰りや、生産ラインのストップやタイムスワップの進捗などの分析についても関わることになる場合があります。
化学産業の業界で経理の仕事をする場合、工業簿記についての知識が重要になります。工業簿記は工業経営を行う会社で用いられる会計の手法で、財務諸表について商業簿記とは異なる部分があります。
工業簿記も商業簿記と同様に通常1年の会計期間ごとに財務諸表を作成しますが、原価計算を1ヶ月単位で行う点で異なります。
工業経営では生産設備の会計が重要になりますが、設備については減価償却によって費用化していくのが一般的です。一方、化学産業の場合、一定の条件のもとで減損会計が適用されることがあります。
減損会計とは、経年劣化などが理由で資産の収益性が低下し、資産に投資した費用の回収が見込めなくなった場合に、将来に損失を繰り延べないための会計手法です。
化学産業の経理を実施する場合、商業簿記と工業簿記の基本を抑えつつ、業務の形態に応じて特殊な計算方法に慣れていくことがポイントになります。
化学産業は同じ種類の製品を大量かつ反復して生産するのが特徴です。それによって、原価の計算に総合原価計算が用いられることが多くなっています。
総合原価計算とは、大量生産した製品の原価を一括して把握するための計算方法で、同じ製品を大量に作る場合に適しています。
総合原価計算は大きく分けて3つの手順があります。まず、製品を製造するための原価要素として、材料費、経費、労務費などを求めます。
次に、全ての製品について発生する製造間接費を製品ごとに振り分けることで、製品ごとの原価要素を集計していきます。最後に、毎月の完成した製品の原価と月末の仕掛品を按分することで、製品の1個あたりの原価を算出します。
化学産業の分野で総合原価計算を行う場合、通常とは異なる特殊な計算方法として、連産品と副産物について計算することがあります。
連産品(れんさんぴん)とは、同じ原材料と工程から本来の製品とは種類が異なる製品が生産されるものです。連産品は経済的な価値が高く、それだけで主製品として流通しうるのが特徴です。
連産品の代表例としては、原油を精製する際に軽油、重油、ガソリンなどが同時に精製されるケースがあります。連産品の製造原価は、2つ以上の製品が精製される場合に発生する原価である、結合原価を用いるのが特徴です。
次に副産物とは、連産品と同様に、同じ原材料と工程から生産される種類の異なる製品のことですが、主な製品(主産物)に比べて経済的な価値が低くなるのが特徴です。
副産物の例としては、肥料用のアンモニアを精製する際に発生する二酸化炭素があります。副産物は連産品に比べて経済的な価値が乏しいため、原価計算は行わないのが一般的です。
副産物の計算方法は、見積売却価額または見積原材料節約額を評価額として、主産物の製造原価から控除します。
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