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トラッキングストックとは?どのような際に効果が得られる?

公認会計士 大国光大
トラッキングストックとは?どのような際に効果が得られる?

会社は有利な条件で資金を調達したいと思う一方で、投資家はいかにリスクを取らずに大きなリターンを得たいかを考えます。このように会社と投資家とでは利益が相反することが多くあります。そこで、今回はそんな悩みを解消するトラッキングストックというものを現役公認会計士が解説します。

トラッキングストックとは?

トラッキングストックとは、会社の部門や子会社の業績などに株価が連動するように作られた株式を言います。普通株式とは配当や残余財産分配請求権の優先順位が異なったり、議決権についても発行株式の時価総額の割合に応じて変動したりすることがあります。
トラッキングストックを用いると、会社の株価が低くてうまく資金調達ができない場合でも、今後の成長率を加味した資金調達をすることができます。

トラッキングストックの歴史

このように資金調達目的で行われているトラッキングストックは、元々アメリカのゼネラルモーターズがEDSという会社を買収する際に発行されたことが最初と言われています。EDSという会社はこれから成長する優良企業である一方で、ゼネラルモーターズはこれから衰退が見込まれる会社であり、EDS株主にとってはこの買収はあまりいいものではありませんでした。しかし、このEDSの成長に合わせて連動するというトラッキングストックが発行されれば、EDSのこれからの成長の恩恵を株主が受けられるメリットがあります。
ただし、議決権はゼネラルモーターズに対するものとなるため、EDSそのものを支配することができないというデメリットはあります。

トラッキングストックのメリットは?

トラッキングストックには様々なメリットがあります。
まず、大会社の一部門について分離をして上場をしようとしたとします。確かに理論的には可能なのですが、上場の為に管理部門や監査部門を充実させたりしなければならず、なかなか容易ではありません。一方で、トラッキングストックによって、わざわざ特定の事業を分離しなくとも、あたかも上場したような資金調達を行うことができるのです。
また、保有者に対して全ての議決権を与えるのではなく、権利に直接的に影響のある項目に限って議決権を与えることになります。議決権を限定することで、他の株主の権利を阻害する可能性が低減できます。

これに加えて、トラッキングストックは発行した会社が買い戻すことができるオプションが付与してあるか、他の株式と交換することが多いです。このことにより、会社としては優先的な配当を将来的にもする必要が無く、投資家としても投資の回収をすることができます。
さらに、トラッキングストックでは議決権がある程度制限できることや、子会社の株式はあくまでも親会社が保有していることで、安定した経営を保ちながら資金調達ができるメリットがあります。

トラッキングストックの落とし穴

ここまで話した限りではトラッキングストックはとても有能であると考えられるかもしれません。しかし、様々な落とし穴があるため注意が必要となります。
まず、会社の経営者は子会社をわざと儲けさせずに他のグループ企業や親会社へ利益を転嫁するインセンティブが発生します。子会社が損失を発生し続けると、株主としては配当等が目減りするため、利益を害することがあります。

この点、あまりにも不合理な損益の付け替えを実施すると利益相反行為で取締役を訴えることができるため、一定の歯止めが利くでしょう。ただし、立証することは困難であるため、この利益相反が存在する限りは株主も容易に投資はしてくれないというデメリットがあります。しかし、あまりにも付け替えを強引に行うことは税務上寄付金扱いされる可能性があるため、結果としてグループの利益が外部流出する可能性はあります。

日本ではあまり一般的ではないトラッキングストック

日本でトラッキングストックが活用された事例は今のところソニーくらいと言われています。よって、それほど事例がない為、企業が参考にしづらいのが難点です。また、投資家やそれを扱う証券会社についても知識が乏しい為、今後事例が出てこない限りなかなか普及しないだろうというのが一般的な見解となります。
また、トラッキングストックの会計処理についても日本では明確に定まっていないのが現状です。連結の範囲はどうしたらよいかという点から始まり、トラッキングストックの性質は株主資本なのかどうなのかという論点など、様々な点で議論する余地があります。

まとめ

トラッキングストックはこのようにメリットも多いですが、日本では事例があまり存在しないことから、見かけることもほとんどないでしょう。しかし、これから企業は様々な資金調達を迫られる中で、どこかの企業が先駆者としてトラックストックを発行した場合、一般的になっていく可能性があるため、知識としては知っておいても損はないでしょう。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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