会社の業績に連動して役員報酬が決まるシステム「業績連動給与」。もとは「利益連動給与」という呼び名でしたが、平成29年の税制改正により「業績連動給与」となりました。本記事では、業歴連動給与について、その概要とメリット・デメリットについて解説します。
業歴連動給与とは、法人またはグループ企業などの会社(会社の株式または出資金の一定割合以上について、親族など同族と認定される人が出資をしている同族会社にあっては、非同族会社の100%子会社に限ります)の業績と役員報酬を連動させる給与体系です。
企業の業績向上がそのまま報酬の増額につながることから、役員の業績に対するモチベーションを高め、短期的な利益を追求するだけでなく、中長期的な視点で企業価値を向上させるべく業務に取り組むことを目指して導入されました。
役員報酬は、一般社員の給与に比べて金額が大きくなるため、損金(税務上の費用)になるかならないかが重要な判断基準となります。
もし、取り扱いを間違えてしまって損金算入できない場合は、法人税が多額になることもあり、会社の資金繰りに大きく影響するからです。しかし、役員報酬という名目で全てを損金算入できるようにすると、脱税につながるおそれもあるため、経営者や役員に対する役員報酬は、従業員給与と違い、税務上さまざまな取り決めがあります。
例えば、従業員給与は基本的に全額損金算入できますが、役員報酬は定められた方法で支払われたものでなければ損金に算入できません。
税務上、損金算入できる役員報酬は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに限られており、これらの給与を組み合わせて報酬を支払うことが一般的です。
なお、業績連動給与を損金に算入できるのは、有価証券報告書の提出企業(いわゆる上場企業)などに限られています。中小企業では、定期同額給与か事前確定届出給与で支給するのが一般的です。
もし、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれにも該当しない方式で役員報酬を支払い、損金算入した場合は、税務調査にてその分の法人税を追徴課税されることになります。
報酬の算定方法の内容は、報酬諮問委員会などでその算定方法を決定したら速やかに、有価証券報告書に記載され、開示される必要があります。
しかし、一方、2019年時点で法定・任意を問わず報酬委員会を設置している上場会社の数は3割にも満たない状況で、報酬決定の経緯については不透明な点も多いことが指摘されていました。
そこで、平成30年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における報酬決定の手法として客観性・透明性の高い報酬諮問委員会の活用が原則化されることになり、業績連動給与を損金算入できる手続の要件が以下のように見直されています。
現在は業歴連動給与については、条件を満たす取締役会の決議で決定することができましたが、これを取りやめ、株主総会決議もしくは報酬委員会の活用を原則とします。
その代り、報酬諮問委員会の構成を見直し、独立社外役員が委員の過半数であれば、業務執行役員による委員就任を可能にし、自己の業績連動給与の決定等に係る決議に参加していないことを要件に、独立社外役員全員の賛成等があれば決定できるようにしました。
現行は報酬委員会(業務執行役員は委員になれない)による決定のみでしたが、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社と同様、独立社外役員が委員の過半数であれば、業務執行役員による委員就任を可能にし、自己の業績連動給与の決定等に係る決議に参加していないことを要件に、独立社外役員全員の賛成等があれば決定できるようにしました。
このように、今後は業績連動給与を損金算入するためには、原則的に報酬諮問委員会を設置することが必要となります。
(会社法において、もともと報酬委員会の設置が義務付けられている指名委員会等設置会社はごく少数です)
現行の手続きについては、平成32年3月31日までの支給にかかる決議については現行の手続きが可能です。
新しい制度である業績連動給与は、法律や手続きの整備がこれからも進められていく過渡期にあるといえるでしょう。報酬内容について現金以外に株式又は新株予約権などが認められたりする反面、多額の報酬を損金算入するにあたってはその根拠を明らかにするための手続が求められます。
導入に当たっては、入念な調査と準備が必要ですが、活用次第では企業の競争力を強化し、発展につながることも期待できるでしょう。