新聞を読んでいると時折「決算公告」というものが目に付くことがあります。大きな会社が出していることもあれば、聞いたことのない会社が掲載されていることも。今回は、決算公告とは?決算公告を出さないと罰則があるのかなどを現役公認会計士が解説します。
決算公告とは、会社の決算の状況を公告、つまり世間一般の皆さんに伝える報告を言います。これは、会社法で年1回公告する義務が定められており、法律上求められているものです。
3月決算の場合は6月ごろに株主総会が開かれ、6~7月に決算公告を行うというのが一般的です。
また、決算公告は大会社とそれ以外の場合で開示すべき内容が異なりますので、それぞれ説明していきます。
大会社以外の場合、つまり資本金5億円未満かつ負債が200億円未満の会社では、貸借対照表のみを公告すれば足ります。
また、貸借対照表といっても資産の部に流動資産、固定資産、繰延資産を、負債の部に流動負債、固定負債、(引当金)を、純資産の部に株主資本、評価・換算差額等、新株予約権をと登記純損益金額を記載すれば足ります。よって、細かい現金預金や売掛金等に分類する必要が無い為、決算公告を見ただけではその会社の中身は十分には理解できないのが実情です。
日本企業のほとんどはこの大会社以外の会社にあたるため、3月決算が多い日本では官報がにぎわうようにも思えますが、そうでないのが実態です。
次に会社法上の大会社、つまり資本金が5億円以上または負債が200億円以上の会社であれば、貸借対照表と損益計算書を公告しなければなりません。公告の方法は、定款で定められた補法によって行われますが、特に定めがない場合は官報に掲載しなければなりません。
損益計算書については、細かい内訳は求められていませんので、貸借対照表と同様に中身を把握するには物足りない内容となっています。
上記の内容は、以下の表を参考にしてみてください。
※1 損益計算書を公告した場合は省略することができます。
※2 注記した場合に限ります。
ちなみに会社法の大会社は公認会計士または監査法人による会計監査人を設置しなければならず、これらの監査報告書を入手することが法律で決められています。もしも会計検査を受けていなければ、それはそれで罰則の対象となりますので注意が必要です。
ただし、上場会社のような有価証券報告書提出会社である場合にはEDINET等の媒体で広く決算内容が閲覧できる状態になっている為、公告は別途不要ということになります。
決算公告で載せるべき内容が分かりましたが、次に決算公告はどのように行えば良いのでしょうか。決算公告を行う方法は、大きく分けて3つあります。
「官報」とは、政府が毎日刊行する国家の公告文書のことです。
官報を決算公告に利用する場合は、貸借対照表や損益計算書の要旨のみの掲載で問題ありません。掲載にあたって、 72,978円(税込)の掲載料が必要となります。
日刊新聞紙に掲載してもらうことで、決算公告とすることもできます。
この場合の日刊新聞紙とは、会社法939条第1項第3号にて「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」と定められています。
日刊新聞紙にて公告を行う場合は、①の官報で公告を行う場合と同じ要領で、貸借対照表と損益計算書の要旨のみの掲載で問題ありません。
違いとしては、官報に掲載するよりも、日刊新聞紙に掲載を行う方が割高になることです。掲載する大きさや面にもよりますが、安い場合で10~20万円ほど、条件次第では100万円を超えることもあります。
また、自社がどの日刊新聞紙に決算公告を掲載するか、ということは予め登記簿に記載しておかなければなりません。そのため、日刊新聞紙を公告方法として採用している会社はそう多くはありません。
ただ、会社の合併や減資など、株主に催告する必要があるタイミングでの決算公告は、新聞紙が利用されることがあります。これは、新聞紙に決算公告を掲載することで、株主や債権者に対する情報の周知義務を兼ねることができるからです。
電子公告とは、ネット上で決算公告を行うことです。
自社ホームページまたは帝国データバンクのような公告サービスに掲載します。
メリットとしては、①②の方法のように他媒体に掲載依頼するのではなく、自社サイトに掲載するためコストが抑えられます。
一方で、デメリットもあります。①②の方法では貸借対照表と損益計算書の要旨のみの掲載で決算公告が可能でしたが、電子広告の場合は、貸借対照表の全文を掲載する必要があります。また、電子広告では決算公告を5年間掲載し続ける必要があります。
電子公告を行う際の注意点としては、会社を設立する際の定款に「当会社(当法人)の公告は,電子公告の方法により行う。」旨の記載が必要な点です。そのため、既存の会社が新たに決算公告の方法を電子公告に変更したい場合は、定款を変更する必要があります。
決算公告は、上記ように、官報もしくは定款の定めに沿ってホームページや特定の新聞に掲載する必要があります。義務付けられた公告を行わなかったとき、あるいは不正の広告を行った場合は代表者である役員が100万円以下の過料に処せられます(会社法第976条)。
では、決算公告を掲載しなかった場合にはどのような罰則が存在するのでしょうか。
会社法上は、百万円以下の罰金とされています。百万円以下の罰金というと結構な出費となるためどの会社も決算公告を掲載しているだろうと考えられますが、実務上ほとんどの会社が決算公告をしていないというのが実態です。
というのも、実際に罰金を課された企業自体があまりないため、実務として決算公告をしない選択をする会社がとても多いのです。しかし、罰則がある規程がある以上、違反していた場合は罰則が課される可能性はありますので、軽く考えることは禁物です。
決算公告は会社法で義務付けられているため、決算公告をしていない企業はコンプライアンスを遵守しているとはいえないでしょう。決算公告を怠ることにより、企業イメージを損なってしまう恐れがあります。
決算公告をするコスト面でのデメリット以上に、コンプライアンス上のデメリットが多いため、全ての企業が決算公告をしていくようなモラルを構築されることが望まれます。
先にお話をしましたが、決算公告をしないのは会社法違反であり、罰則もちゃんと決められています。しかし多くの会社が決算公告をしていないという事実もあります。
だからといって会社法違反をしていいわけではありませんし、これが後で大問題になる可能性もゼロではありません。
よって、適法に決算公告をするべきだと考えます。しかし、官報や新聞に公告を出すにも費用がかかるため、おすすめなのは自社ホームページに決算公告を載せることです。自社ホームページに決算公告を載せることで法律をクリアするためには、まず定款の変更を行う必要があります。また、電子公告をするという登記に変更しなければなりません。
これらの変更作業が終われば、自社のホームページにアップし、電子公告調査機関による調査を待つのみです。なお、載せている間は変更などをしてはいけませんし、ましてや削除してしまうこともご法度なので注意しましょう。