ゴーイングコンサーン(going concern)というのは、「継続企業の前提」と日本語訳されます。しかし日本でも経理や監査の現場ではゴーイングコンサーンやGCという言葉が一般的となっています。
タイトルにもあるようにゴーイングコンサーン注記の恐ろしさを現役公認会計士が解説します。
ゴーイングコンサーン(going concern 通称GC)は継続企業の前提と訳されるとお話をしました。しかし継続企業の前提というのもあまりピンとこない用語だと思います。
企業の財務諸表は、企業が今後清算せずにずっと継続していく予定で作成されている、ということを継続企業の前提と言います。
もっと言うと、例えば企業の財産状態を表す貸借対照表は売却価値や精算価値で表されるのではなく、あくまでも取得時の価値をベースとしているということとなります。
確かに、有価証券等の金融商品は現在時価で評価を行うこととなっていますが、これは最終的に売買されて換金される可能性が高い項目だからです。一方で、例えば製造業における工場など、土地や建物は製造に必要なものですので時価評価は行いません。企業はその土地と建物を売却する意図が基本的にはないからです。
このように、企業が未来永劫に続くという前提で財務諸表が作成されます。
特に何事もなければ企業はゴーイングコンサーンベースでの財務諸表を作ります。この特に何事もなければということが重要で、重要な事態が起こった場合は継続企業の前提に重要な疑義あり、ということを財務諸表に注記しなければなりません。
継続企業の前提に重要な疑義ありというのは、会計基準に例示列挙されています。代表的な例を挙げると、財務指標関係では、継続的な営業損失や営業キャッシュフローのマイナス、重要な営業損失、経常損失、重要なマイナスの営業キャッシュフロー、債務超過等が挙げられます。
また財務活動関係では、仕入債務の返済が困難な場合、借入金の不履行の可能性、社債の償還が困難な場合等資金繰りが悪化した場合です。
営業活動関係としては、主要な仕入先からの与信又は取引継続の拒絶、事業活動に不可欠な権利の失効、人材の流出、重要な資産の毀損等が挙げられます。
これ以外にも、巨額の損害賠償金の負担の可能性やブランドイメージの著しい悪化等が挙げられます。
このように、倒産する可能性が非常に高まってきたことを継続企業の前提に重要な疑義があると表現されます。
継続企業の前提に重要な疑義がある場合はゴーイングコンサーン注記をしなければなりません。会計基準上は次の4つの内容を記載しなければならないとされています。
開示事項にある通り、これらの継続事業の前提に疑義がある事象についての解消または改善するための方策を少なくとも1年後までの評価を行わなければなりません。日本の上場会社の大多数はこの注記が当然のように「該当事項はありません」とされており、この注記がつくということはとても珍しいものだと言えます。参考までに、2019年3月期の決算発表でゴーイングコンサーン注記をした会社は21社となっています。
以前某大手家具販売会社でゴーイングコンサーン注記、通称GC注記がついて話題となりました。このGC注記がつくとどのような影響があるのでしょうか。
まず上場廃止に一歩近づくと言えます。GC注記がついているから上場廃止となるわけではなく、GC注記の原因が債務超過等であるとすると、そもそもそれが解消できる見込みが無ければ上場廃止となるためです。
また、監査法人の監査報告書に原則的に強調事項として、GC注記について記載されます。この記載は投資家に「この企業はGC注記がついているから投資の際は十分に気を付けてください」という警告文となり、株価の下落は免れないでしょう。また、GC注記がついている会社は基本的にビッグ4と呼ばれる大手監査法人では監査を引き受けません。よって、中小監査法人でGC注記ありでも監査をしてくれるところを探さねばなりませんし、監査報酬もより高くなる可能性があります。
このように、上場廃止のみで済めばよいのですが、ゴーイングコンサーン注記を受けて取引先と取引ができなくなったり、取引条件を変えられたりすることも多くなります。ただでさえ業績が厳しくてGC注記を記載しているのに、資金繰りなどの面で追い打ちをかけられ、最悪倒産も見えてきます。
そのため、企業としてはなんとしてもゴーイングコンサーン注記をしなくとも良いように考えますが、最終的には監査法人の許しがでなければ注記をすることとなるため、注記をせざるをえなくなれば従ったうえで、取引先・関係者には十分に誠意をもって対応することが望まれます。