主に上場企業で作成される「四半期報告書」。財務会計を重視する上場企業では、投資家やステークホルダー向けに情報開示を行うための報告書提出業務がありますが、四半期報告書もその一つです。本記事では、上場企業やそれに準じる会社の経理部門へステップアップしたい方向けに、四半期報告書について現役公認会計士が解説します。
有価証券を発行している上場企業などは、「ディスクロージャー(企業内容等開示)制度」によって投資家へ向けて財務状況などの重要事項を報告する義務があります。
この時に提出する書類が「有価証券報告書」です。「四半期報告書」は、有価証券報告を補完するための報告書で、事業年度の3ヶ月(四半期)ごとに提出を義務付けられています。
四半期報告書は、四半期決算日後45日以内に提出することになっており、その都度、監査とは別に公認会計士や監査法人のレビューが必要となります。
例えば、3月決算の企業の第一四半期は4~6月となりますので、四半期報告書は45日以内の8月14日までに提出しなければなりません。
報告書は経理担当者にて分担して作成を行います。その内容において経営陣はもちろん、公認会計士や監査法人からのレビュー時の質問にも対応できるように、入念な準備が必要となります。作成した報告書は、金融庁の電子開示・提出システムEDINETを通じて電子提出を行います。
もし、虚偽の記載を行った場合は、追徴税のほか、悪質な場合は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれら両方の刑事罰が科せられることがあります。
四半期報告書を作成する義務がある会社は、有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち、以下の5つにいずれかに当てはまる会社です。
なお、有価証券報告書を提出しなければならない会社については、上場会社等以外の会社であっても、任意に四半期報告書を提出することができます。
四半期報告書は、四半期報告書の様式(内国会社については第四号の三様式、外国会社については第九号の三様式)に具体的な記載内容が定められており、基本的には半期報告書の記載項目とほぼ同様のものとなっています。
ただし、作成するのに時間がかかってしまっては四半期ごとに報告するという意味が薄れてしまうため、半期報告書に比べて内容が幾分簡素化されています。
「主要な経営指標等の推移」については最近連結会計期間に係る主要な経営指標等の推移を記載します。
連結ベースの情報(四半期連結財務諸表を作成していない場合は、単体ベースの情報)の記載とし、当四半期連結会計期間とその前年期間、当四半期連結累計期間・前年同累計期間についての記載が必要です。
重要な変更・異動等があった場合に記載します。
重要な組織再編成などが決定された場合等に記載します。
半期報告書の記載事項である「業績等の概要」、「対処すべき課題」及び「研究開発活動」については、「財政状態及び経営成績の分析」にまとめて記載します。
主要な設備に重要な異動等があった場合に記載します。
基本的に第2四半期報告書においてのみ記載することとしています。
ただし、第1四半期又は第3四半期において、大株主の異動が明らかとなった場合には、第1四半期報告書又は第3四半期報告書においてその旨を注記することとしています。
前事業年度に係る有価証券報告書の提出日後、四半期報告書の提出日までの役員の異動を記載することとしています。
「経理の状況」における財務諸表は、基本的に四半期連結財務諸表(四半期連結貸借対照表、四半期連結損益計算書及び四半期連結キャッシュ・フロー計算書)のみの記載としています。
これらの財務諸表については、その種類によって、また、四半期によって作成するものが異なります。
「当四半期連結会計期間」に係るものと「前連結会計年度」に係る「要約連結貸借対照表」の記載が必要です。
「当四半期連結会計期間」に係るものと「前年同四半期連結会計期間」に係るもの、「当四半期連結累計期間」に係るものと「前年同四半期連結累計期間」に係るものの記載が必要です。
「連結累計期間」とは、その連結会計年度の期首から当該四半期連結会計期間の末日までの期間をいいます。
簡素化のために、第1四半期と第3四半期の開示を省略できるようになりました。開示を省略する場合、第1期四半期と第3四半期の両方を省略し、片方のみ省略はできません。
また、キャッシュ・フローの状況を把握するための代替情報として、期首からの累計期間における無形固定資産の減価償却費とのれんの償却額を注記しなければなりません。
このような取扱いは、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産、流動負債、固定負債等においても概ね同様です。
また、詳しい会計基準については、企業会計基準委員会により、四半期財務諸表に関する会計基準としてまとめられていますので、ご確認ください。
上場会社には決算の他にもこうした開示業務が多くあり、経理部の責任や負担も大きいものがあります。しかしながら、より健全な経営を行うために情報開示は必須です。四半期報告書を始め、様々な報告書を作ることができるスキルは、経理担当者として高いニーズがあります。転職を考えている方は、新たなスキルアップとしてこうした業務経験を積める企業を選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。