会社や個人が給与を支払う場合は、支払金額に応じた所得税を差し引いて支払うことになっており、これを源泉徴収といいます。本記事では、経理業務の初心者の方向けに、源泉徴収とその手続きについて詳しく解説します。
源泉徴収とは、年間の所得にかかる所得税を、事業者があらかじめ差し引いておくことです。
源泉徴収の額については、国税庁の定める「給与所得の源泉徴収税額表(月額表および日額表)」にて決まり、もし差し引いた分に過不足があれば、年末の給与にて多く引去った分を返金もしくは足りない分を引去りします。これを年末調整といいます。
従業員は事業者による源泉徴収があるので、基本的には自身で確定申告を行う必要はありません。また、国にとっても確定申告にかかる業務を軽減できるほか、給与から安定して税金を徴収できるシステムとして大きなメリットのある制度なのです。
会社や個人が人を雇用して給与を支払う場合は源泉徴収は必須です。また、雇用していない場合でも、税理士、弁護士、司法書士などに報酬を支払ったりする場合には、その支払金額に応じて源泉徴収する必要があります。
源泉徴収の対象となる報酬・料金については、以下国税庁のWEBサイトをご確認ください。
外部業者に支払う報酬については、「外注費」でまとめて源泉徴収していない方も多いかもしれませんが、税務署に「給与」と税務調査で認定された場合には、消費税や源泉所得税の税金の他に、罰則として加算税や延滞税などを課される場合もありますので注意が必要です。
(国税庁WEBサイト)
それでは、源泉徴収の実際の事務手続きについてその流れを見ていきましょう。
会社や個人が、新たに給与の支払を始めて、源泉徴収義務者となる場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を、給与支払事務所等を開設してから1か月以内に提出することになっています。
その年の最初の給与を受ける日の前日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を支払者に提出する必要があります。これは扶養控除がない人でも必ず提出が必要な書類です。
給与計算の際には、源泉徴収額を差し引いて支給を行いますが、源泉徴収の税額については、定められた「給与所得の源泉徴収税額表(月額表及び日額表)」又は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」(以下これらを「税額表」といいます。)を使って求めます。
国税庁 税額表の種類と使い方
「税額表」には、給与所得にかかる所得者控除から配偶者控除までの控除額を概算で組み入れているので、個々の状況による控除はここでは加味しません。
(その代り、年末調整において各種保険料や住宅ローンなどの控除をまとめて行います。)
源泉徴収額の算出方法ですが、まず源泉徴収の対象者は、1つの企業から給与を受け取っている従業員は「甲」、複数の企業から給与を受け取っている場合や「扶養控除等(異動)申告書」が提出されていないときは「乙」に分類されます
次に、税額表の該当月の「社会保険料を控除した給与所得」と、「甲」や「乙」から税額表にて該当する箇所を参照し、源泉徴収金額を算出することになります。近年では給与計算ソフトがあるので、甲乙の種別と社会保険料を控除した給与所得を入力すれば、自動的にこの金額が算出されます。
税額表については賞与・退職金については別になりますので注意してください。
なお、弁護士や税理士などの外部の方への報酬に対する源泉徴収税額は10.21%ですが、一度の支払金額が100万円を超える金額については、以下の式となります。
(その金額-100万円)×20.42%+102,100円
給与より差し引いた所得税は、支払った月の翌月10日までに国に納める必要があります。
期限を超えると、期限日から延滞金が発生するので、納付漏れがないようにしましょう。
ただし、給与の支給対象が10名未満の源泉徴収義務者は、毎月の業務の軽減のために半年分まとめて納めることができる特例もあります。その場合は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を事前に所轄の税務署に提出する必要があります。
しかし、原稿料や講演料などから源泉徴収したものは、納期の特例の対象にはならず、支払った月の翌月10日までに納めなければなりませんので注意してください。
なお、日本国内に居住していない人や、外国法人については、日本国内で得た「国内源泉所得」のみが課税対象とされます。
国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)
源泉徴収にかかる以下の申告書については、申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要があります。
(1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
(2) 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
(3) 給与所得者の配偶者控除等申告書
(平成29年分以前は「給与所得者の配偶者特別控除申告書」)
(4) 給与所得者の基礎控除申告書(令和2年分以降)
(5) 給与所得者の保険料控除申告書
(6) 所得金額調整控除申告書(令和2年分以降)
(7) 退職所得の受給に関する申告書
(8) 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
(9) 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
これらの書類は従業員の個人情報を含みますので、鍵のかかる場所に保管し、税務署から提出を求められた際にはすぐに取り出せるようにファイリングしておきましょう。