土地などの不動産を買った場合に、売主に「未経過固定資産税」分の代金を支払う慣習があります。未経過固定資産税とは、果たして税金なのでしょうか。
この記事では、未経過固定資産税とは何か、固定資産税の精算という慣習、所得税など納税額を算出するうえで、未経過固定資産税をどう扱うかなどを解説していきます。
住居や敷地といった不動産をもっていると、固定資産税・都市計画税を払わなければなりません。
固定資産税などは、国や自治体が納税金額を算出して、納税者に通知書を送ってくる賦課課税方式です。納税通知書は、毎年1月1日(賦課期日)時点で不動産をもっている所有者に対して送られ、所有者は年4回に分けて納税します(一括で支払うと割引あり)。
このような方式のため、不動産の売買により年度途中で所有者が変わっても、国や自治体が新しい所有者に納税通知書を送ってきたりはしません。つまり、新しい持ち主である買主には、翌年の1月1日まで納税の義務は生じません。
ところが、たとえば3月1日に不動産を売ったパターンでは、売主はもう所有者ではないのに、残り10か月分の税金を支払うのは理不尽に思うかもしれません。このような背景から、年度内で残っている固定資産税分の金額の支払を、売主が買主に請求する慣習があるのです。この際に支払うお金は「未経過固定資産税」と呼ばれます。
不動産の売買時には、未経過固定資産税分の金額を精算する慣習があります。
たとえば、6,000万円の不動産に対して固定資産税等が(便宜的に)年間24万円のパターンを例に考えてみましょう。
3月1日に不動産を引き渡し、3月1日以降の固定資産税等20万円は買主が支払うとの取り決めを交わして、固定資産税の精算を行います。
買主が売主に支払う金額は6,020万円となりますが、不動産の売買契約書には6,000万円としか明記されません。精算した20万円は、売買契約書ではなく「精算書」に金額を明記して取り交わします。
「未経過固定資産税」という名称は、適切な呼び名がないので便宜的につけられた通称と考えるのが適しています。未経過固定資産税は税金ではなく、定義などもされていません。
税務当局は、1月1日時点での所有者が納税してくれればそれで済むため、年度途中に所有者が変わっても知る必要はありません。固定資産税の精算には国や自治体は関知しておらず、あくまで不動産売買に際しての慣習と認識されます。
未経過固定資産税は税金ではないため、次の点に注意が求められます。
不動産の購入に際して、未経過固定資産税として精算した金額は、不動産の取得価額に含まれるため、経費として計上不可能です。
未経過固定資産税を固定資産税と認識している方がいますが、それは間違いです。たとえ年度途中で所有者が変わっても、固定資産税を支払う義務があるのは1月1日時点で所有者だった売主です。
こうした事情から、未経過固定資産税分の金額は、売主が売却代金に上乗せした金額と認識されて不動産の取得価額に含まれます。
不動産の売却に際して、未経過固定資産税分として受け取った金額は、収入として認識されます。
たとえば、先ほどの例で6,020万円を受け取った場合、20万円分は未経過固定資産税の精算分です。ところが、未経過固定資産税は税金と認識されないため、単純に収入として計上されます。つまり、譲渡所得の一部となり、所得税や住民税の対象です。
売主が消費税課税事業者であるパターンでは、未経過固定資産税は預り金ではなく売上と認識されます。
未経過固定資産税は税金とは異なるため、固定資産税の預り金とは認識されません。年度途中の売買では、買主にはその年度の固定資産税を納める義務は生じません。
不動産の売買では建物にのみ消費税がかかるため、未経過固定資産税の内訳を建物分と土地分とに区分する必要が生じます。たとえば、不動産6,000万円(建物4,000万円・土地2,000万円)の未経過固定資産税が20万円(建物15万円・土地5万円)の事例では、建物の売上4,015万円に対して消費税がかかります。
不動産売買時の慣習として、その年度の固定資産税の残りを買主が負担する「固定資産の精算」が行われることがあります。未経過固定資産税とはその際に買主が支払うお金を指し、税金とは異なります。
このような背景から、買主側においては不動産の取得価額に含まれ、売主側においては譲渡所得の一部と認識されるなどの点に注意が求められます。未経過固定資産税への理解を深め、確定申告などでも正しい申告ができるよう心がけましょう。