税理士として働くには、税理士制度を統括している「税理士法」の理解を深める必要があります。税理士法はどのような経緯を経て改正され、今日の内容へと至ったのでしょうか。今回は、税理士法の歴史と改正の経緯、直近の平成26年の税理士法改正の内容について解説していきます。
明治時代の初めは地租(土地にかかる税金)が中心でしたが、明治29年(1896年)には商工業者に広く課税する営業税法が制定され、所得課税へと移っていきます。それを機に、商工業者が税申告の依頼をするようになった税務代弁者が、税理士の先駆けといわれています。
そこから太平洋戦争の開始ごろまで、重なる戦費の捻出のために増税が繰り返され、税制はより複雑化し税務代弁者も増えていきました。そのため、昭和17年(1942年)に税務代理士法が施行されます。
この税務代理士制度は戦後、抜本的に改定されます。GHQの要請により租税制度へと提言したシャウプ勧告をベースに、申告納税制度や青色申告、今日の税理士制度の基礎が設計され、昭和26年(1951年)に税理士法が施行、税務代理士法は廃止となりました。新たな制度の円滑な実施には、税理士に従来よりも高い資質が求められたため、許可制から試験制度が導入されました。
以降、税理士法は次の経緯で改正を重ねてきました。
・昭和31年(1956年)
税理士会が任意加入制から間接入会制へと移行 など
・昭和36年(1961年)
税理士の登録事務を国税庁から日本税理士会連合会へと譲り渡す など
・昭和55年(1980年)
税理士の使命や業務範囲の明文化、対象税目を全税目に拡大、会計業務の付随業務化、税理士会を登録即入会制へ、使用人への管理義務など税理士にまつわる権利義務の改正、許可公認会計士制度の開始 など
・平成13年(2001年)
税理士法人制度の開始、税務訴訟で税理士が陳述可能な補佐人制度の開始、補助税理士登録の義務化、報酬の最高限度額の規定を撤廃、受験資格の部分的な緩和、研修の受講を努力義務化 など
・平成26年(2014年)
直近にあたる、平成26年(2014年)の税理士法改正の内容を説明します。
平成18年(2006年)に閣議決定された構造改革の基本方針に際して、各府省が各法律に対して見直し年度の公表を求められ、財務省は税理士法の見直しが必要かどうかについて、平成23年(2011年)に検討すると公表したことから、税理士法改正の討議が始まりました。
日本税理士会連合会は、プロジェクトを発足して検討や会員からの意見募集などを行い、改正への意見案を何度か公表して、最終的に平成25年(2013年)3月に「平成26年改正要望項目」を財務省主税局と国税庁に提出します。こうした活動が実り、平成26年に税理士法改正法案が施行されました。
平成26年の税理士法改正の内容のうち、主なものは次のようになります。
・電子申告の代理送信業務を税理士業務として設定
・公認会計士が税理士資格を取得するには、税法の研修修了が必須に
・税理士の懲戒処分に際して、業務停止期間が2年以内へと拡大
・「補助税理士」の名称が「所属税理士」へと変更、使用者の承諾があれば業務を直接受任できるように
・税理士試験の受験資格として、実務経験の期間が3年以上から2年以上へと短縮
・租税教育を推進できるよう、租税教育にまつわる規定を税理士会の会則に設定 など
平成26年の税理士法改正のなかでも、名義貸しの禁止につきまして詳しく解説します。
近年、税理士が名義貸しにより懲戒処分を受ける事例が多発し、名義貸しへの税理士の意識が希薄という背景がありました。そのため、平成26年の税理士法改正に際して「非税理士に対する名義貸しの禁止」についての条文が新設され、2年以下の懲役ないし100万円以下の罰金という罰則も制定されました。
名義貸し行為を判断する指標には、次の3つがあります。
税理士が自らの判断で税務書類を作成していない
税理士が納税者から直接税理士業務の委託を受けていない
税理士が報酬を納税者から直接収受していない
たとえば、無資格者が作成した申告書であっても、税理士が確認すれば問題ないというのは誤った認識です。このケースは、税理士の監督下で使用人が下書きした申告書を、税理士が検算・確認して署名押印する場合とは、意味が違ってきます。
税理士法は戦後の昭和26年に制定され、改正を続けて今日に至っています。昭和55年の改正では税理士の地位が明文化され、平成13年の改正では税理士法人や補佐人制度など、税理士制度の構築に貢献しました。
直近の平成26年の税理士法改正では、特に名義貸しの禁止にまつわる条文と罰則が新設されました。どういった事例が名義貸しにあたるのか、また税理士法が改正されたその他の部分への理解も深め、仕事に活かせるようにしましょう。