決算書の「貸借対照表」は「資産」「負債」「純資産」の3つから構成されています。負債は、その内容や返済期限によって「流動負債」と「固定負債」の2つに分類されますが、本記事では、支払期限が貸借対照表日(決算日)の翌日から起算して1年を超える「固定負債」について解説します。
企業における「負債」とは「外部の第三者に対して負う支払い義務等」を指す会計用語です。いちばんわかりやすいものだと、金融機関から融資を受けた借入金、いわゆる借金が思い浮かぶのではないでしょうか。
他にも、物を仕入れた代金が未払いである「買掛金」や「未払金」など、返済の義務があるものも負債となります。会計上では「負債」は、すでに経済的負担が決まっている場合と、将来において発生の可能性が高いものについても計上されるのがルールです。
「固定負債(英語表記:fixed liabilities)」とは、負債のうちで1年以内に支払い義務が発生しないものをさします。支払い期限までは支出もしくは費用化されない負債なので、期日までまだ時間的な余裕があるものです。
対して、1年以内に支払期日が到来するものは「流動負債(英語表記:current liability)」といいます。
このように、1年を境にして「固定」と「流動」に分類する考え方を「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」といいます。負債だけでなく、資産についても「固定資産」と「流動資産」に別れるのがポイントです。
「固定負債」と「流動負債」の違いについては別の記事でも解説しています。詳細は以下の記事もあわせてご覧ください。
決算書のひとつ「貸借対照表」では、左側が「資産」、右上が「負債」、右下が「純資産」と配置場所が決まっています。資産=負債+純資産という構成です。
「資産」とは、会社が保有しているもの全てを指します。銀行に預けている現金や会社内にあるパソコン、保有している土地、株なども含めてすべてが資産です。 お金を使ってパソコンを購入したり工場を建てたりすると、それだけ資産が増えていきます。企業が「お金をどのように運用しているのか」を表すものが資産であるといえます。
ただし、資産を購入するためにはお金を用意しなければなりません。そこで、お金をどのように調達したかを示すものが、貸借対照表の右側にある「負債+純資産」です。借金などをして集めた「負債」と、企業活動で生じた利益や有価証券を購入してもらった金額である「純資産」を足し合わせると「お金の運用方法」と一致するようになっています。
貸借対照表で、負債を流動と固定に分ける基準は2つあります。1つ目は「正常営業循環基準」です。
これは、通常の営業活動によって生じる資産や負債は、流動資産や流動負債とするルールです。例えば、商品の仕入れ、販売によって生じる負債は全て流動負債となります。
しかし、負債は必ずしも営業活動によって生じるものばかりではありません。正常営業循環基準に該当しないものに関しては、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)の第107条にその内容が定められています。
「1年以内」つまり「1年基準」がキーです。固定負債の主なものは、勘定科目でいうと長期借入金や社債、退職給付引当金などの引当金ですが、どんな負債であっても返済までの期限が1年を切る時点で、流動負債に変更する必要があります。
固定負債・流動負債に該当する主な勘定科目の解説については、以下の記事をご確認ください。
固定負債は、企業経営における「健全性」の分析に使われることがあります。
固定負債は企業経営の健全性を見るために重要な指標のひとつである「固定長期適合率」は、固定資産を自己資本と固定負債の合計で割った比率です。
固定長期適合率=固定資産/(自己資本+固定負債)
固定資産とは、工場機械、土地、建物など、企業が長期間保有する資産です。
多くの企業では、大掛かりな設備や自社ビル等、多額の資金がかかる固定資産を自己資本だけで購入することはできません。そこで金融機関などから融資を受けて借入金などで賄います。
個人で住宅ローンを借りる時を考えていただければわかりますが、金融機関において長期のローンを組めることは信用の証です。つまり、法人であれば、長期借入金を借入れられるということは、それだけ企業としての信用度が高いと言えます。
つまり、固定長期適合率の式だと分母の(自己資本+固定資産)の数字が大きいほど、健全な資金調達を行っていると見なすことができるのです。
もし、固定長期適合率が100%を超えている場合は、固定資産の購入に短期の借入金である流動負債を使用していることになるので、資金繰りが厳しい状況が見て取れます。
こちらも、個人の住宅ローンを考えてもらえればわかりますが、頭金と住宅ローンで足りないからと、短期の借入金まで入れて家を買う人は、かなり無理をしているはずです。もしそのような人が身近にいたら、家のランクを下げるか、もう少し貯金してから家を買うことをすすめるのではないでしょうか。
固定長期適合率については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご確認ください。
固定長期適合率の分母は「自己資本+固定負債」です。仮に、自己資本が少なくても固定負債が大きければ、なんとなく財務が健全そうに見えてしまうという穴があります。
固定負債はあくまで「借金」なので、返済しなくてはなりません。借入金の返済については、いくら長期でも毎月の返済期日はやってきます。事業規模に見合わない設備投資をしてしまうと、資金繰りが回りません。
例えば、個人の住宅ローンで全く頭金を入れずに全額ローンで購入した場合と、頭金500万円がある場合では返済の負担が全然違いますが、固定長期適合率だけで見ると、この2つのケースは全く同じなのです。
「固定長期適合率が100%以下だから安心」ではなく、その場合は「自己資本比率」にも注目しましょう。自己資本比率は以下の式で表されます。
自己資本比率=自己資本÷総資本 (自己資本+他人資本) × 100
自己資本比率が高いほど、無借金経営に近く、財務の安全性が高いということを意味します。
優良企業であれば、50%以上、一般的な企業であれば20%以上、10%を切ると資本欠損の恐れがあり、マイナスになると債務超過です。
負債が増えるほど、自己資本比率は下がります。企業の経営状況・財務状況を見るときは、1つの指標だけでなく、負債と資本がちゃんとバランスが取れているかどうかを包括的に見ることが重要なのです。
自己資本比率については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご確認ください。
「固定負債」は、支払期限が貸借対照表日(決算日)の翌日から起算して1年を超える負債のことです。対して、1年以内に支払期限が到来するものは「流動負債」といいます。
「固定負債」に該当するものは、長期借入金や社債、退職給付引当金などです。負債と資本については、企業の経営状況や財務状況を見るための重要な数値であるため、安易な判断は危険です。基本的な知識は必要ですが、分析やコンサルティングは税理士など専門家の力も借りておこないましょう。