年末調整は従業員の給与に関わる問題なので、特にミスは避けたいものです。しかしながらこの時期は忙しいこともあり、しばしばミスが起きてしまいます。本記事では、年末調整においてやりがちなミスと、実際にミスしてしまった場合の対処法について解説します。
年末調整とは、給与所得者の所得税の金額を確定させる業務です。通常であれば、所得税は所得に応じて税額が決まり、申告して支払います。しかし、給与所得者については、毎月の給与から事前に概算で所得税を天引きしているので、年末の給与支給タイミングで確定した所得から所得税を計算し、過分があれば返金し、不足があればその分を徴収するのです。「年末には給与がちょっと多い」という人は、それまでの月に払いすぎていた所得税が戻ってくることになります。
年末調整にまつわる業務については、通常11月から1月中旬にかけて行われます。その流れは以下の通りです。
年末調整を行うためには、それぞれの従業員の控除金額を確認する必要があります。そのため、以下の書類を必要に応じて配布して記入・押印してもらい必要書類とともに回収します。
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(必ず提出)
・給与所得者の保険料控除申告書と控除証明書類(所得控除を受ける保険などをかけている人)
・給与所得者の配偶者控除等申告書(配偶者控除を受けられる人)
・住宅借入金等特別控除申告書(住宅ローン特別控除を適用する人)
・前職の源泉徴収票(年内に中途入社した人)
これらの書類は、従業員が自分で記入します。年に1度しか書かない書類のため、従業員による記入漏れや誤記入なども多く、必要書類の提出を忘れる社員も多いのです。
毎年良くあるのが、生命保険料や損害保険料の控除申請書の添付漏れです。各社が自宅に送付するので、紛失・再発行などで時間がかかったり、書類の提出後に控除ハガキが出てきたりして修正を求められるなどのケースも良くあるパターンです。
また、扶養家族についても、子どもの扶養が外れたのがそのままにしてしまったりとか、共働きで共に子供を扶養に入れてしまったりなどは良くあるミス。
特に配偶者控除は令和元年より適用基準が変わったので、要注意です。
この従業員に書類を記入してもらってからチェックするという作業は、思いのほか手間がかかります。年末調整のミスの根源はここにあるといえます。
回収した必要書類の内容をもとに、年末調整の金額を計算し、源泉徴収票を作成します。
支払調書・法定調書合計表・源泉徴収票・給与支払報告書など必要書類を作成し、税務署・市区町村への送付、納税を行います。
年末調整の額に間違いがあった場合、それがいつ発覚したかによって対応方法が変わってきます。
ミスしたことが分かったのがこの時期であれば、会社側にて年末調整の再計算を行います。
これは、社員の側のミスによる申し出であろうと、会社の経理担当者のミスであろうと一緒です。
必要内容の記入漏れはもちろん、年末調整の書類提出後に子供が生まれて新しく扶養家族が増えたり、マイホームを購入して住宅ローン控除を受けたいというような変更が生じたりした場合は、なるべく早く申し出をしてもらうようにしましょう。
ミスしたことが分かったのがこの時期であれば、会社側では修正を行う処理ができません。ではどうするかというと、社員自身が3月15日までに確定申告を行い、正しい所得金額を申告したうえで、納税または還付を受ける必要があります。
特に納税については、3月16日を超えてしまうと延滞税などが課されることがありますので、社員・担当者いずれのミスについても必ず行ってもらわなければなりません。納めるべき税金を納めていない場合に、ミスに気が付かずにスルーしてしまったとしても、いずれ税務署から指摘を受けることになります。
(その逆で、還付されるべき金額があった場合は放置したとしても、それは特におとがめはありません。)
従業員からの書類記入・提出によって行う年末調整は、年末の忙しさも相まって普段の業務よりもミスが起こりやすいと言える状況です。
ミスを防ぐためには、そもそもの申告書や必要書類をミスなく作成してもらう必要があります。税務署に提出する書式フォーマットは変更できませんので、以下のような対策を取って、ミスが生じることを水際で防ぎましょう。
・わかりやすい記入例を作る
・不備があることを前提で、必要書類の回収を早めてチェックの時間を多く取る
・担当者は複数人で、ダブルチェック・トリプルチェックを行う
・年末調整提出後に出産、新たな保険加入、マイホーム購入など、控除内容に変更が生じるような場合についてはなるべく早く申し出をしてもらうようにアナウンスしておく
また、年末調整についてはかなりの頻度で改正が行われています。控除内容を含めた改正ポイントを事前に担当部門でしっかりと把握することも、担当者側のミスをふせぐためには大事なことといえるでしょう。